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異世界がでたらめすぎて困ってる の続き2

円形の部屋の中央には一段、いや数段は高い位置に玉座のような椅子、左右の幾分低い位置には2つの座席。そして正面には巨大なディスプレイ。あまりにも見覚えのある光景、というか司令室だよ。
「エンタープライズ?」思わず声に出していた。
短めのマッシュルームカットに悪魔のような耳が特徴的な大男が満足そうに頷いた。
「いかにもここはエンタープライズ号の司令室です。ようこそ、旅のお方。私は副長のストック。よろしく頼みますよ」見かけに似合わず小学生みたいな甲高い声で話しかけてきた。
「どういうこと?」
「転送させてもらいました」淡々と言うなよ。はい既成事実です。みたいな言い方はすごく怒れる。
「まさかですが、エンタープライズというのはあの〜あれですか。宇宙暦0401とかいう」
スポックじゃなかったストックはバルカン訛でこう答えた
「よくご存知ですね。そうです。ちなみに宇宙暦元年は地球のアポロ11号が月面に着陸した1969年だそうです」
口調はスポックぽいんだけど、どうもイメージが違うなぁ。少なくともレナード・ニモイには全然似ていない。あきらかにミスキャストだとは思うんだが。
「で、オレいや私はなぜここにいるんでしょう」
「決まっているじゃありませんか。船長、あなたはこのエンタープライズ号の船長として召喚されたんですよ」
おいおい船長って。エンタープライズときたらカーク船長でしょ。そのポジションにオレ?いいのそれ?はっきり言ってやっていく自信なんて1ミリもないよ。
イヤイヤそりゃ好きだけどさ、別にトレッキーってほどでもないし。いいとこパロディ版のギャラクシークエストレベルでしょ、などなど言いたいことは山程あったが、あまりの展開にその一つさえ口に出すことはできなかった。
「では船長、早速調査にでかけましょう」
んっ?どゆこと。キョトンとしたオレの表情は言葉以上に雄弁だったらしい。
「どうしました?安心してください。私もドクターも一緒ですよ」
Don’t worry I werad pants! I'm with you too.ってそういう芸風じゃないんだから。
「わかったよ。転送装置はどこだ。フェイザーもいるんだよな」
初めてなのに懐かしいという言葉がこれほどふさわしいシチュエーションもないだろう。それはあまりにも見慣れた場所というか、転送室だよねここ。スタートレック、いやいっそ宇宙大作戦そのものだ。
「転送!」
周囲が急にぼやけた。別段気持ちが悪くなったりはなかったが、カラダ全体が変だ。長い時間座ってると足が痺れるがあれの全身版。転送ってこういうことかよ。ドラマの中でドクターが嫌がったわけだ。
おっ周囲が見えだしたぞ。海だ。でもなんだかどっかで見たような海だ。あ〜ぁ湾内だよね、ここ。ウィンドやってるよ。って、この光景絶対見たことあるわ。
そうだ、あそこだよ。お台場じゃないか!しかもこの殺風景な眺めは、あれだ。開発寸前というか、青島幸男が世界なんとか博覧会の中止を決めたあたりのお台場じゃないか。なんたっけ、えっと思い出した。世界都市博だ。中止が決まったのは1995年かな。ここは少なくともそれ以前、ほらみろフジテレビの球体やホテルや商業施設、マンションはない代わりにあの懐かしい浜茶屋があるじゃないか。そうそうこのあたりは暇なウィンドサーファーしか来ないような場所だったんだ。
でも、ここに転送されたってのはどういうわけだ。
「船長、なにか不審な点でも、先程から挙動がおかしいようですが、ドクターに診てもらっては」
余計なお世話です。こうなったらもう開き直るしか無い。とカッコを付けたようなこと言ってるけど、そこは小心者。自分でもわかってる。舞台がお台場とくればこっちのもの。どう考えてもオレ以上にこのあたりのことに詳しい人間はエンタープライズ号クルー530人の中にもいるまい。
「大気も重力もほぼ地球と代わりありませんね」
そりゃそうだろうよ。どう見たって地球、それも日本のお台場だもの。
「なんでしょうあの建物は、原始的な要塞いや砦でしょうか。スピアのようなものが何本が立てかけてありますね」
「ストック、アレはスピアじゃない。多分、彼らの部族の旗だ。しかしそれにしては異なるデザインのものがいくつもあるようだが」
ストックとドクターが的はずれな会話を繰り広げていた。でもまぁそう見えるんだろうな。おでん、ビールって書いてあるよ。いいねキリンラガーに黒ラベル、純生だってさ。
「行ってみよう。現地人とコンタクトを取るんだ。情報収集は大切だからな」
「待ってくれラーク。それは危険じゃないのか。奴らが好戦的でいきなり攻撃してきたら」
んっ?オレってラークって呼ばれてんの、まぁいいや。それにしてもドクターったら心配性。
「ドクター、安心してください。わたしたちにはフェイザーがあります」
「そっ、そうだったなストック」
真面目に会話しているドクターとストックだが、お台場、スター・トレックの両方に通じているオレには冗談にしか見えない。だが、ここは面白いからそのままにしておいたほうが良さそうだ。
とりあえず船長的な余裕を見せてと「まず私が行ってみよう」
勝手知ったる埋立地お台場、オレはマウントを取るべく先頭に立って進んだ。それにしても本当にあの頃のお台場だよ。女の子をだまくらかして、あんなことやこんなことして、終いにはこのあたりに捨てる悪い奴らがいたんですよ。あの当時は。もちろんオレのことじゃないけどね。昼間はいいんだよ。ウィンドサーファーってあの頃からいたんだねぇ。あとは釣人のジジイとか。昭和から平成のはじめにかけてのお台場は、そんなローカルな場所だった。
そんな感慨に浸っていると、突然ドクターが大声を上げた。
「ラーク、ストック。見ろ、この星の住民だ」
なんだアレ???
「何?お客さん?外人さんじゃん。珍しいねこんなとこまでくるなんて」
短パンにTシャツ、ビーサンを履いたヒゲ・長髪男がにこやかに笑いかけてきた。
「ビール?それとも外人さんだから“クサ”がいいかな」
これはもう間違いない。ここはやっぱり開発前、昭和のお台場だ。・・・と確信していたら、この男とんでもないことを言い出した。
「じゃなかったら向こうっ側の江の島支店にコークもあるけど」
向こうっ側?江の島支店?どういうこったい。
「江の島行くならウチの店のトイレからが安いよ」
「なに〜ッ!!お台場からトイレ経由で江の島」思わず叫んでいた。
「イヤだって。一旦品川へ出て、電車とかめんどいっしょ」男はこともなげに答えた。
「せっ船長、この星の言語をナゼ??翻訳機には解析不可能と表示されるのに」
「なんだか知らないけど。はい、3人だと割引あるからね。関所代一人1000円で皆さんで3000万両ね」どうしようもない、昭和のギャグを噛ましてくれた。

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