(6)片付けられないキャバ嬢

私が生まれて初めて出会ったゴミ部屋住人の話です。
この子は、私が遺品整理のバイトをするだいぶ前に知り合った子でして…
私がまだ20代でキャバクラでバイトを始めた頃、
誰からも指名を取れず、待機所でひたすら客を待ち続けうとうとしていると、隣に座ってきて声をかけて来てくれました。
たわいもない会話から、家が近所という事もあり、仲良くなってよく一緒に遊ぶ様になったある日…
『私の部屋、結構汚ないんだよね。』
と話し始めました。
『この間、お客さんにタクシーで家まで送って貰って、どうしても家に入りたいってしつこいから、部屋汚いし散らかってるからダメだよ!って断ったのに、汚くても全然いいから!ちょっとトイレ借りるだけ!って言いながら無理矢理玄関開けて、部屋のなか見た途端、酔い冷めたわって言われて帰って行ったんだよね』
との事。
『これじゃダメだと思って片付けるのを業社に頼もうと思ったら結構な金額かかるらしくて、
お金払うからウチの部屋片付けるの手伝ってくんない?』
と言われ、部屋片付けるくらいでお金貰えんの⁈+汚い部屋という場所への興味もあり、その依頼を引き受け、当日彼女の家へ…。
キャバ嬢やってる子なので、見た目キレイにしてるし、散らかった洋服や雑誌をまとめるくらいでお金貰えるんだったら…と思ってました。しかし甘かった…。世の中には、予想を遥かに超えて部屋を自ら散らかしその散らかった中で平気で生活出来る人が5万といる事を…。そらベロベロに酔っ払ってる下心丸出しの男の酔いも冷めるわ。
まずびっくりしたのが、玄関先に2リットルのペットボトルの水がズラリと置いてあり、ネコ避けの水かと思いきや、これは彼女自身が飲む為の水でした。この家には冷蔵庫がなく、買って来た食料を外や玄関先、玄関横の洗濯機を設置する白い囲いの中に置いているのです。で、どうも生臭いので、元を辿ると、1週間前に購入したというマグロの頭がビニール袋に入って床に放置されていました。
『あっ!マグロの頭買ったの忘れてたわ。』
女性の一人暮らしの玄関先で腐ったマグロの頭を見るのは初めてだったので、かなり衝撃でした。
見渡すと冷蔵庫、電子レンジもなく、ガスコンロは購入したにもかかわらず、ガス栓に繋いでない為、使えないまま放置されていました。
洗濯機もないので、下着は使い捨てだそうです。
2〜3日履いて捨てる…でまた購入する…の繰り返し。
ここまで聞いていると、お金ないの?と思われるかもしれませんが、20代で月に40〜50万ほど稼ぐキャバ嬢なのです。
では何故それらの家電を購入しないのか?
洗濯機は、洗濯しても干すのが面倒だから買わないとの事。冷蔵庫はそもそも置く所がないし、必要ないと言ってました(玄関先でマグロの頭を腐らせてるので必要ない訳がないのですが…)。冷蔵庫は必需品だから、本来置く所が無くても無理矢理置くものだと思ってましたが、人の価値観とはそれぞれです…。
玄関入ってすぐキッチンがあり、そこから襖を開けて隣の部屋に入ってビックリ…
ちゃぶ台の上に物がぎっしり、床には洋服やらカバンやらがそのまま散らかってました。間取りは2Kでベットらしきものがなかったので、
『寝室は隣り?』
と聞くと、ちゃぶ台のあるフローリングの部屋で床で寝てるとの事。布団らしき物もなかったので、
『布団は?』
と聞くと、コレだよと見せられたのが、床に無造作に置いてあった薄手のフリース毛布1枚。動物園のゴリラが頭から掛けてるあのフリース毛布1枚です。(ゴリラ 毛布で検索)
『寒くない?』
と聞くと、寒いから暖房ガンガンにかけて、床に寝転んで上にフリース掛けて寝てるから大丈夫との事。引っ越して来たばかりで物が揃ってないのではなく、もうここに一年くらい住んでいるそうです。カーテンも付けてません。かと言ってしつこい様ですが、この子は決してお金がない訳ではないのです。カーテンを付ける発想がなかったそうです。窓はくもりガラスなので、外から見えないから、大丈夫との事。
ちゃぶ台の上には、茹でる前の生うどんが板チョコの様に角だけかじられ食べかけの状態で置いてありました。
『えっ?なんで袋に入った生うどんが食べ掛けでテーブルの上にあるんだろか?』
と聞くと、
お腹が空いて、うどんを食べたくて買ってきたが、コンロが使えない事を忘れており、仕方ないからうどんにオリーブオイルを付けて、かじって食べていたそうです。
斬新な食べ方‼︎てかオリーブオイルとうどんってそもそもそも合うの?
まぁ、味の趣味は人それぞれなので、一旦置いといて… 
『多分、このタイプの生うどんは、熱通した方が美味しいと思うよ。』
と言うと、ガスが使えないとの事で、私が繋げてあけてこれで使えるからうどん茹でれるよと言うと、まさかの『ウチ、鍋ないんだよね…』
と衝撃発言!
しつこい様ですが、引越して1年は経ってる状態…。そしてお金が無い訳ではないのです。もう謎…。
なんやかんやしていると、トイレに行きたくなったので、
『ちょっとトイレ借りるよ』
とトイレの扉を開けると決して使える状態ではない程の汚れ様…。隣のお風呂を覗くと、そこにはお風呂には購入して袋に入ったままの雑貨がわんさか…。
『えっ?毎日お風呂どうしてるの?』
と聞くと、家にお風呂があるにもかかわらずわざわざ銭湯に行ってるそうです。戸惑いは隠し切れませんでしたが、とりあえずこの家のトイレは使えなさそうだったので、近くのコンビニへ…

もうひとつの部屋には3つくらいラックがあってそこに洋服が大量にかかってました。洋服もよく見ると、色違いならまだしも同じデザインの同じ洋服が3〜4枚。タグが付いたままハンガーにかけられてたり床に落ちてたり…最初はこのデザインが可愛かったから等と供述しておりましたが、次第に話を聞いている内に、どうやらカワイイと思って購入するも、買った事を忘れたおりまた購入したと観念して自白しました。

この時は気付かなかったのですが、ゴミ部屋の人あるあるで、自分の家にある物のストックを把握してない方が結構居ます。洋服や調味料、日用雑貨等…不安で買い溜めするのか、ただでさえゴミで散らかっているのにそこに追い討ちをかけるようにストックの山。後ゴミが多いので虫も大量に発生する為、殺虫剤が虫より大量に出てきた事がありました。

1軒から出てきた殺虫剤の山

この殺虫剤は別現場ですが、1軒から出てきた物です。ほとんどが使いかけのまま放置されてました。そして今、自分が当たり前の様に友達の家を『1現場』と認識していた事に驚きました。
購入したことを忘れる、購入してもそれを何処に置いていたか忘れる、だから家にあるのに何度も同じ物を購入する。これは本当に勿体ない…。
だから、ゴミ部屋の方は決して物が買えない貧乏という訳ではないのです。

で、この子の家にもあった片付け中に見付けた『片付け本』計3冊。どんな事書いてるのか見ようとページをめくると、パリパリパリ…本開いた形跡なし。いや、読んでないんかいっ!まぁ、読んでたら片付いてますよね、そりゃ…。

この日、昼前から一心不乱に片付け夕方5時には力尽き、バイト先で初めて出来た友達から貰った5,000円を握り締め家路に着きました。家に帰って気付いたのですが、人の家にお邪魔して靴下が真っ黒になったのは、この日が初めてでした…。  

しかし、まだまだ上には上がいるという事を後に体感させられる事となります。




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