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インハウスロイヤーの法的リスク検討プロセスー特定・評価・共有・処理

今回は、インハウスロイヤーが法的リスクを検討するプロセスについて、考えてみたい。

インハウスロイヤーの法的リスクの検討プロセスは、①法的リスクの特定、②法的リスクの評価、③法的リスクの共有、④法的リスクの処理の4段階のステップを踏む。以下、各ステップについて検討していく。

(1) 法的リスクの特定
検討対象の新規プロジェクトや契約について、どのような法的リスクがあるのか特定するステップである。当該プロジェクトや契約を全体的に見渡し、どのような法的リスクがあるのか検討し、極力網羅的に特定・把握する。特定したリスク項目はメモに落としていく。この段階では簡略でも構わない。リスク項目と、各項目の内容についてのサマリー・簡単な説明を整理・記録していく。ここでの目的は、法的リスクを抜け漏れなく把握することである。

(2) 法的リスクの評価
次は(1)で把握した各リスク項目の評価を行うステップとなる。ここで用いるのは、①リスクが具現化した場合の結果の重大性と、②リスクが具現化する可能性の高低という2つの座標軸である。これらを用いて、(1)で把握したリスクを、4つの象限に振り分け、優先順位をつけていく。但し、この優先順位の検討に際して、刑事責任・行政処分リスクに関して、リスクが具現化する可能性の高低をどこまで検討するか(特に、リスクの具現化の可能性が低いことを理由に優先順位を下げる方向での検討をすることについて)は慎重な考慮を要するであろう。筆者の場合、刑事責任・行政処分リスクに関しては原則、リスクが具現化する可能性の高低に立ち入ることなしに、優先対応要として扱っている。

(3) 法的リスクサマリーの作成
次は(1)(2)の検討の結果を関係者に共有する準備のためのステップである。(1)で作成したリスク項目メモを、(2)で検討した優先順位に基づき並べ替え、さらに内容の説明を肉付けしていく。この時点で外部法律事務所のアドバイスが得られていれば、もちろんその内容も盛り込んでいく。

(4-1) 法的リスクの共有 ①法務部内での共有
(3)の成果物を関係者に共有するのがこのステップである。意図的なのか不明だが、なぜかこのステップを省略し、リスクの存在を有耶無耶にするインハウスロイヤーが時に見受けられるがそれは絶対に禁忌だ。リスクを法務部が抱え込み、本来会社が組織として行うべきリスク判断の機会を奪う結果をもたらすためである。

注意すべきは、このステップは必ずしもインハウスロイヤーが新規プロジェクトや契約などを「止める」ためのものではないことだ。このステップの目的は、あくまで、会社が適切なリスク判断をすることを可能にするために、関係者にリスクの内容とその重大性を認識させることである。

リスクの共有に際しては順序を踏むことが重要である。重要プロジェクトについては特に、事業部側も法務部からのリスクに関する指摘に神経を尖らせることもありうる。いきなり事業部と上司と両方に同時に情報を投げることは基本的に避けて、まず法務部内の説明を行い、法務部内でまず上司からさらに検討すべき事項や事業部への共有の仕方についてアドバイスを受け、必要に応じて(3)で作成したリスクサマリーから落とすべき項目がないかも含めて、さらに検討・準備を行う。この段階で法務部内において、対象プロジェクト・契約が、(a)絶対に止めるべきものか、(b)必ずしも止めないけれども何らかのリスク判断・対応を要するものか、(c)OKなものなのかといった方向性についてもコンセンサスができてくるはずだ。ここで、(b)がどのような場合なのか例を示しておくと、例えば、法的に一定条件の下で限定的に行うに留めるべきと考えられるものや、仮に法的には問題なくとも、例えば信用リスクであるとか、レピュテーションリスク、税務リスクなど法的リスクの検討に付随して、適切な部署にて検討を要するものと考えられるべきと認識された事項がある場合などが含まれる。なお、対象プロジェクト・契約が(a)に該当すると判断された場合には、可能な限り、事業部に対し提示できる代替案をこの段階までに完成させ、(3)で作成したリスクサマリーに追加する。

(4-2) 法的リスクの共有 ②事業部との共有
(4-1)での成果物をいよいよ事業部に共有するステップである。メールでの共有やそれに加えて別途ミーティングでの説明をする場合など、適宜事業部と打ち合わせて状況に応じた方法により行いたい。注意すべき点は、上司を巻き込み、法務部として行った慎重な検討の結果を共有していることを明確にすること、また、必ず資料を作成して電子メールなど共有の証拠が残る形で共有しておき、口頭のみでの共有は避けることである。

(5) 法的リスクの処理
会社として、(4-2)で共有されたリスクをどのように扱うのかということについての決定を行うことを、法務部として支援するステップである。特に対象プロジェクト・契約が(a)絶対に止めるべき、又は、(b)必ずしも止めないけれども何らかのリスク判断・対応を要すると、(4-1)で結論付けられた場合、法務部でこのプロセスが適切に行われることを確認・支援する必要がある。

具体的には、(a)の場合においては、法務部からのアドバイスに基づき事業部が適切な判断をすることを見届ける他、事業部が(4-1)で法務部により作成された代替案をさらに検討したいということであれば、引き続きその方向性での支援を継続していくことになる。

(b)の場合であれば、リスク内容に応じて適切な部署によるさらなる検討を経て、対象プロジェクト・契約の必要性・許容性といった観点からの整理を事業部が行い、それを踏まえた適切な最終判断がなされるよう支援していくことになる。実際には多くの場合が(a)より(b)に該当すると思われるが、外資系ではその場合、対象プロジェクト・契約の重要度に応じて、海外オフィスも含めた様々な部署のシニアレベルの人員も関わることもあり、そこでさらなる検討が指示されたり、進める上での条件(税務意見書や法律意見書などを含む)などが付加されていくこともある。外資系ではこうしたプロセスを「シニアのcomfortを得る」、などと表現することがあり、稟議といった手続的な形式はさておき、その中で部門横断的、多角的な検討が行われ、非常に興味深いプロセスとなることがある。


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