見出し画像

インハウスロイヤーの評価

インハウスロイヤーの評価において、事業部からのコメントをどの程度考慮すべきだろうか。インハウスロイヤーのユニークな立ち位置が、この問題を難しくしている。

日本ではインハウスロイヤーの依頼者が誰かという問題があまり積極的に論じられることはないように思うが、米国ではattorney-client relationsihpがインハウスロイヤーの場合誰と誰の間に成立するかについて秘匿特権の文脈などでよく論じられるところであり、そこでは、インハウスロイヤーの依頼者は、インハウスロイヤーが所属する組織であって、当該組織の役員や従業員ではないと考えられている

実際には法人の活動は、その役員や従業員を通して行われるわけで、インハウスロイヤーは彼らとコミュニケーションし、協力しながら業務を遂行するが、しかしそれら役員や従業員はインハウスロイヤーのクライアントではではないのだ。インハウスロイヤーは、クライアントである所属組織の利益が、その役員や従業員によって害されることを阻止する役割を担っており、弁護士職務基本規程51条でも、組織内弁護士は、組織に所属する者の違法行為に対し適切な措置を講じなければならないと定められている。このことから、インハウスロイヤーは、役員や従業員のリクエストにいつでもYesと応えられるわけではなく、時には厳しく牽制しなければならない場面も出てくる。

そうすると時には、インハウスロイヤーが厳しすぎるとか、冷たいとか、そうした感想を役員や従業員が持つことも当然ありうるわけで、そうした感想に対して、法務部としてどこまで向き合うべきなのか、また、さらにそれらを法務部員の評価に反映させていくのか、そこはインハウスロイヤーが、クライアントである所属組織に対して負っている職責を十分に全うするという観点から真剣に考えなければならない。

もちろんその前提として、インハウスロイヤーも、他の職種の従業員同様、基本的なビジネスマナーに服するし、また、極力、共感を示すコミュニケーションを行うとか、リクエストに応じられない場合も、代替案の提案や、問題の整理やより適切なコンタクト先に繋ぐなど、インハウスロイヤーとしての基本的なTipsを理解して実践する必要がある。また、言うまでもないが、カバーする分野について十分な知識と技術を備えていることも必要だ。

しかしそうした基礎的な部分をクリアできているのであれば、事業部からの厳しいとか冷たいとかの感想にいちいち過度に囚われる必要はない。何より法務部自体が、本来クライアントでない人々からの感想に過度に神経質になることは、自らの職務の遂行を困難にするリスクも孕む行為であり、自分の首を締めてしまうことにもつながる。

三線管理においても、2線に位置する法務部は、1線の事業部のリスク管理をモニタリングする立場にあり、この観点でも、事業部がどう感じたかということを過度に気にすることは、企業全体のリスク管理の枠組みと整合しない状況につながる可能性もある。

もちろん、対人関係において無用な軋轢を生じさせることは当然、それら職責を全うするに際して障害になることは間違いないわけで、しかしそのような軋轢を生じさせないための技術的な方法がまさに、上記のような、極力、共感を示すコミュニケーションを行うとか、リクエストに応じられない場合も、代替案の提案や、問題の整理やより適切なコンタクト先に繋ぐなど、インハウスロイヤーとしての基本的なTipsを実践することであって、ただそれらを行ったとしても、やはり、感情的な行き違いが生じる可能性を完全に排除することは困難であり、最終的にそれを解消するのは、やはり組織としてのエスカレーションのプロセスであろう。

本来はそうした最終的な部分にまで発展することがないよう、管理職において、若手の法務部員が事業部と良いリレーションを作れるよう、積極的に若手を様々な社内関係者に売り込んでおくなどして、日常からサポートしておくことは有効であろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?