PTAぇええ!?②

1話リンク

???「王子さん、この案件の契約、今週中に決裁まわしといて」

かちっとしたスーツを着たツーブロックの男性だ。
その男性が黒父に書類を渡しながら指示を出す。
黒父よりも若い上司のようだ。

場所は一般的な会社のオフィスのフロア。
周囲も忙しそうに働いている。

黒父「え? 今週中ですか? あと二営業日ですが、これ、二段階の承認がいるみたいなんですが……」

黒父は少々、困った様子で聞き返す。

上司「そこをなんとか頼みますよ。こちらも色んな案件があって、大変なんですから」

黒父「……わかりました」

上司「ありがとうございます!」

若上司はにかっと爽やかに微笑み、去っていく。

黒父「……さてと」

黒父は、必死の様子でパソコンに向かい、電話をかけ、電話越しに頭を下げたりと一生懸命に働いている。

(時間経過)

黒父「ふぅ……」

黒父(なんとか今日の分は定時までに片付いたぞ……)

黒父は疲労感もありつつも安堵した様子だ。

黒父「さて」

黒父は退社する。

夜。

町内※の一画に、10人くらいの大人達が集まっている。
※東京の東部。住宅街の残る下町のイメージ

金髪の丸刈りにサングラス、アロハシャツというスタイルの快父が発言している。

【快くんパパ 役職:副会長】

快父「この地域では、最近、ファントムの出没頻度が増えています。皆さん、ご存じかと思いますが、昨日は王子会長の息子さん、黒くんがファントムに襲われました」

皆、すでに知っているのか静観している。
黒父も特に表情には出さない。

快父「というわけで、一層、注意していきましょう。それじゃあ、本日も二人組で町内のパトロールを実施していきましょう。よろしくお願いします!」

快父がそのように言うと、大人達は二人組に分かれ、町内に散っていく。

と……

???「青ちゃんパパ、本日はよろしくお願いします!」

一人の男性が黒父に挨拶する。

その男性は身長165センチくらい。明るめのくせっ毛。目が大きく童顔。
(いわゆるショタっぽい雰囲気)
カットソーにチノパンというカジュアルな格好。

さくちゃんパパ 役職:3年学年委員】

黒父(彼は朔ちゃんパパ。朔ちゃんと娘の青は同級生だ)

黒父「こちらこそよろしくお願いします」

黒父も朔父にぺこりと頭を下げる。
※黒父はスーツ姿

朔父「それにしても最近、ちょっとファントム多いですよね」

黒父「そうですね……」

二人は結構な速度で街の中を走って移動しながら、世間話をしている。

黒父
(近頃は二日に一体のペースでファントムが現れる)
(奴らは放っておくと増殖するので、定期的に駆除する必要がある)

朔父「いやー、でもまさか黒くんが襲われるとはびっくりしました」

黒父「そうですね……」

朔父「明日は我が身、気を引き締めます」

朔ちゃんパパはにこやかに微笑む。

黒父「……」

黒父
(この爽やかな笑顔からは想像しにくいが、朔ちゃんパパは結構な苦労人……)
一昨年おととし、パートナーを病気で早くに亡くして、今は男手一つで小3の女の子を育てている)
(PTAの活動の時は、朔ちゃんを祖父母に預けて、週2程度で参加してくれている)

(過去に活動参加について「無理しなくていい」と伝えたこともあった)

だが……

◆フラッシュバック回想

黒父「PTA活動について……その……無理をなさらなくてもいいのですよ?」

朔父は切なげに微笑みながら言う。

朔父
「逆ですよ。妻がいないから、もう俺には子供しかいないんです」
「だから子供の安全は自分で守りたいんです」

◆フラッシュバック回想終了

黒父(PTAには色々な方がいるが、その根源的な想いは似ているのかもしれない)

と……

朔父「青ちゃんパパ……」

黒父「……!?」

朔父が注意を促す。

公園の広場。
和装束で人型。
牛の頭をしたような異形が宙を漂っている。
ファントムだ。

朔父「なんですか、あれは……また変わった姿ですね」

朔父は思わず苦笑いする。

黒父「そうですね……」

黒父
(ファントムについて)
(日が沈んでから日が変わるくらいまでの間に現れ、子供をさらってしまうということは、はっきりしている)
(しかし根本的な発生原因などは未だ不明だ)

(その姿は様々であり)
(子供が想像した怪物の姿であるという説が有力だ)

(なぜ子供だけが忘れてしまうのかについても詳しくはわかっていない)
(しかし、一晩眠ると翌朝には忘れることから、夢と一緒に忘れるという説が有力だ)
(忘れてしまうのは個人差があるが中学生くらいまで)
(高校生くらいからは忘れなくなり、狙われることもなくなる)
(しかし、稀に、大人になっても子供と同様であったりといった事例もある)

(また、少人数でいる子供が狙われやすく)
(大人が近くにいたり、屋内にいたりすることで狙われにくくなる)
(しかし何事にも例外は存在する)
(町内のファントムが増えすぎると、大人と一緒に屋内にいるといった予防策の効果が薄れるのだ)

黒父「よし、いきましょう」

朔父「はい……!」

ファントム「うぅう゛ううう」

ファントムは黒父と朔父の存在に気付く。

黒父(いくら大人を襲うことはないとはいえ、こちらが殺意を向ければ、話は別だ……)

ファントム「大人……い゛らない…………殺す……!」

ファントムは勢いよく二人に迫ってくる。

と……

朔父「青ちゃんパパは下がっててください、ここは俺にお任せください」

黒「……!」

朔父はそう言うと、
子供用の水鉄砲のようなものを取り出す。
100円くらいの安い奴ではなく、数千円するゴツイタイプの奴だ。

朔父は集中するように、一瞬、目を閉じ、そして開く。

と、同時に、水鉄砲が、マシンガンのような姿に変化する。

朔父「悪いね……ファントムさん」

朔父がそう言うとライフルから、水の銃弾が、まさに雨のように連続的に発射される。

ウォータースプラッシュマシンガンだ。

朔父(〝水珠砲すいじゅほう五月雨さみだれ――)

ファントム「あぎゃぁああああああ!!」

ファントムは無惨にも蜂の巣にされてしまい、そのまま消滅していく。

朔父「一丁上がり!」

朔ちゃんパパはニコリと微笑む。

黒父「さ、流石です……」

朔父「いえいえ、青ちゃんパパには及びませんよ」

朔父は、そんな風に謙遜する。

と……

朔父・黒父「っ!?」

二人は驚く。

また別のファントムが発生していたからだ。

今度はティラノサウルスにトリケラトプスの角が生えたような姿だ。

朔父「今度のは、なかなかワンパクそうですね……」

黒父「はい……」

そう言って、二人はそれぞれの武器を構える。

深夜0時。

黒父「はぁ、疲れた……」

黒父は疲弊した様子で、一人、帰途についていた。

黒父
(今日は一日で二体も出現するとはな……二体目は結構強くて流石に疲れた……)
(なんとか退けたけど、最近の増え具合はやはり……)

黒父は複雑そうな表情を浮かべる。

そして、家の玄関の前に立つ。

黒父(……子供達を起こさないように静かに入らないとな……)

そんなことを思いながら、黒父はコソコソと玄関のドアを開ける。

黒父(あ、あれ……? 電気ついてる……? …………ま、まさか……!)

黒父は焦った表情となる。

が……

むにゃむにゃ……

黒父「ん……!?」

視線を下げると、玄関の廊下で、女性が一人、体育座りでウトウトしている。
黒母……つまり黒父の妻である。

黒父「…………ママ?」

黒母「うにゃ!?」

黒父に声を掛けられて、目を覚ます。

と……

黒母「し、しまった……! うたた寝してしまった!」

黒母は、やってしまったという表情を見せる。

そして……

黒母「おかえりなさい、お疲れ様です!」

少々、気まずそうな微笑みを黒父に向ける。

黒父「……」

黒父は驚いたような様子を見せつつ、次第に和らいだような表情となる。

黒父「ただいま、ママ」

黒母「もうー」

と、黒母はすねたようにほっぺたを膨らませる。

黒父「……?」

黒母「二人の時くらい名前で呼んでくださいよ」

黒父「……!」

黒父ははっとする。
そして、照れくさそうに頭をかく。

黒父「そうだな……ただいま……あや

黒母「にひひ……」

黒母は照れくさそうに微笑む。

黒父は照れくさそうだ。
だが、急に真剣な顔付きになる。そして……

黒父「彩…………〝白〟は必ず見つけるから……もう少しだけ待ってくれ……」

黒母「っ……!」

黒母は、はっとした表情になり、
黒父に抱き付く。表情は見えない。

そして、

「……はい」

とだけ、返事する。


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