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心無い野次をなくしたい:がんばれ!ホッカイドウ競馬のコラム(第289回)より

44年ぶりの女子オートレーサーとして、多くのメディアで取り上げられ、注目を集めていた坂井宏朱選手が、2012年1月15日、船橋オートレース場で、練習中の事故により亡くなりました。
テレビで複数回にわたり密着取材が放映されたこともあり、オートレースファンではない方にも、その真っ直ぐな瞳と、ただ夢に向かって突き進む、ひたむきな姿が伝わっていたと思います。それだけに、彼女の死は大きな衝撃だったといえるでしょう。
ただ速く走るためだけに、ブレーキすらそぎ落とし、まるで研ぎ澄まされたナイフのようなバイクに乗って、1周500mのトラックを駆け、競い合う。それがオートレースです。
速さの向こう側は、人間にとっての限界を超えた世界です。そこには人が乗り越えることができない壁が立ちはだかっていて、壁の手前で踏みとどまれなければ、このような悲しい結末が待っているのです。
事実、オートレースの世界では、坂井宏朱選手のほかにも事故により殉職したレーサーがいます。

僕はそのニュースを聞いて、2004年に亡くなった竹本貴志騎手のことを思い浮かべました。その年の3月にデビューして、わずか3週間。熱い夢を抱え、度重なる苦労を乗り越えて騎手になった若者が、突然に天へと駆けていってしまう。それは、あまりにも辛いことでした。
サラブレッドたちも、自分の命をかけて、限界ギリギリの走りをしています。そしてもちろん、その鞍上で騎手たちも限界ギリギリの騎乗をしています。もちろん、命をかけて。
そんななか、残念ながら竹本騎手も限界を超えてしまったということなのかもしれません。
本当は限界で踏みとどまり、そのギリギリの世界で少しでも速くゴールを駆け抜けようとしていたはずです。竹本騎手も、坂井選手も。

オートレースや競馬、競輪、競艇。いわゆる公営競技では、そこで競う人たちに、お金をかける人たちがいます。それは、応援することの一つの形でもあると、僕は思っています。
とはいえ時折、まれにではありますが、非常に残念なことに……これはお金という要素が入るからかもしれませんが、ただ応援するのではなく、自分が応援している対象以外の存在にむかって負の気持ちを声にして発する人がいます。
「落ちろ!」そんな心無い野次を、僕は競馬場で聞いたことがあります。それは、オートレースや競輪などでもあると聞きます。

先日、JRAの福永祐一騎手が、それまで続けていたTwitterを止めると宣言しました。理由は、そういった心無い言葉のせいだったと。どこか見えないところで言われる悪口はともかく、直接向けられる、心無い言葉は我慢できなかったとの説明がありました。

アンスポークン_2

競馬場で聞こえる声援、それは本当に最高です。あの場所にいったことがある人なら、誰でも知っているはずです。本馬場の外にいるファンも、中にいる関係者も、きっとそう感じているはずです。
オートレースでも、ボートレースでも、競輪でもきっとそうでしょう。

そんな場所で、限界点ギリギリで戦う人たちには、ぜったいに熱く、そして心からのあたたかい声援をおくって欲しい。そして心無い言葉は追放したい。そう願うのは、ごく普通のことではないでしょうか。
だって本当にそんなことが起きたとしたら、悲しむのは僕らファンなのですから。

あらためて、坂井宏朱選手のご冥福をお祈りします。


【現代でのあとがき】
本文でも書いていますが、実は私自身、『潜入!リアルスコープ』を続けてみていたこともあり、個人的に坂井宏朱選手を応援していた一人でした。
真っ直ぐな瞳と、ただ夢に向かって突き進む、ひたむきな姿は本当に素敵だったと思います。それだけに、あのニュースは本当にほんとうにショックでした。
そこにオーバーラップしたのが、竹本貴志騎手のことでした。苦難の道のりを乗り越えてデビューを迎えて、騎手と呼ばれたのはわずかな期間…それもデビュー同期の中で真っ先に勝利をもぎ取ってからわずか21日後。翌週末、競馬場に設置された追悼の祭壇に手を合わせたのですが、考えれば考えるほど、悲しみが増すように感じました。
それだけに……度を越えたヤジ、嫌悪の言霊は本当にイヤで。
事実、某地方競馬場で耳にしたヤジはどうしても許せず、さすがにその言葉の主にくってかかったことがあります(私以外の数人にも怒鳴られた言葉の主は、すごすごとパドックから離れていきました)。

そうそう、そういえばあれからずいぶんと時が経ちまして……福永祐一騎手はダービーを3勝する、まさに名手となりました。そろそろTwitterを再開して欲しいな、なんて思ったりはします。

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