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76th No.1 STAR:がんばれ!ホッカイドウ競馬のコラム(第278回)より

1986年2月9日、見上げるより遥か高い夜空の先、宇宙に繰り広げられたそのショーに、天文ファンのみならず世界中の人たちが心をときめかせました。その日、約76年という長い長い時間と道のりを経て、わずかな時間だけ地球へと姿を現す星、ハレー彗星が最接近の日を迎えたのです。

ハレー彗星が現れたという明確な記録として残っているなかで最古のものは、中国の司馬遷によって編纂された「史記」に記載されたものだとされています。それによると、秦王政7年、つまり紀元前240年に、あの始皇帝が「彗星を見た」という記述があるそうです。
それから2000年以上が過ぎ、前回の再接近となる1986年に、ハレー彗星はまた地球へとやってきたわけです。
この1986年のハレー彗星の接近の際には、世界各国が観測衛星を打ち上げ、その姿を地球の大気の向こう側から撮影し、その神秘のベールの内側を探ろうとしました。NASAのISEE-3/ICE、ソビエト連邦(当時)のベガ1号とベガ2号、欧州宇宙機関のジオット、そして日本のさきがけとすいせい、ほかにもいくつかの観測衛星がハレー彗星を捉え、観察したのです。
明らかになっていくハレー彗星の姿形、それは「現実の姿」ではありますが、それだけでなく、イメージどおりに天上に一筋の尾を長くひく姿、イメージなどの様々な部分で、多くの人たちがハレー彗星に心をときめかせたわけです。

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そんなハレー彗星の、そのものズバリな名前を持った馬がいます。
ハリーズコメット、父:スターオブコジーン、母:ウィッチズハット(その父:Storm Cat)です。2003年6月、2歳新馬戦でデビューウィンを決めた彼は、それから5年間、7歳になるまで主に短距離のレースを中心に、芝とダートで戦って、6つの勝ち星を挙げました。そのなかには、2005年の北海道スプリントカップ(G3)の重賞勝ちが含まれており、ホッカイドウ競馬のファンの方にも印象が強い馬だと思います。
自らの名前の通り、まるで流れる星のように、その速さを競馬場で見せてくれたハリーズコメット、引退後は福島の牧場で繋養されていたそうなのですが、残念ながら、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)によって起きた津波に流され、死亡したというニュースが報じられました。
サンデーサラブレッドクラブの所属馬ということもあり、会員の方はもちろん、関係者の方々、そして応援していたファンの方々にとっては、本当につらいニュースだったと思います。正直なところ、僕も応援していたファンの一人として、とても悲しい気持ちで一杯になりました(個人的にスターオブコジーン産駒を追いかけておりましたもので、実は何度か馬券を獲らせていただきました)。

ご存知の通り、福島は1000年以上前から続くといわれる『相馬野馬追』で知られる土地であり、競走生活を引退したサラブレッドなど、多くの馬達が過ごしていました。
しかし、この地震や津波の影響で、沿岸部を中心に多くの馬達がその被害に合い、傷を負い、そして一部は虹の橋を渡って、空へと駆けていきました。ハレー彗星という名前を持つ彼も、数多くのそんな馬たちのなかの一頭です。

ハレー彗星は76年に1度しか見ることはできません。
でも彼の姿なら、いつもそこにあるはずでした。76年という長い時間を待たなくても、福島にハレー彗星が、そう、ハリーズコメットが、そこに居てくれたはずでした。
でも悲しいことに、彼も流れる星になってしまったのです。

次にハレー彗星が姿を現すのは、2061年の夏頃とされています。まだまだずっと先のことです。その時まで、僕が生きていることができるかはわからないけれども、絶対に彼の名前を忘れることなく居よう。そして再びハレー彗星が地球に現れた時、もしも僕が生きていたならば、星空に彼の姿を重ねてみよう、そう思っています。
ハリーズコメットよ、ありがとう。そして、また会おう。輝く星空で・・・。

【現代でのあとがき】
個人的に応援している馬たちはたくさんいまして、当然、一口馬主の(出資している)馬であったり、お仲間さんの馬だったり、その兄弟馬だったり、そういった種牡馬や繁殖牝馬の仔だったり、取材をしてきた牧場の仔や、取材で出会った人達が携わる、関わる仔であったり…。
そのなかで、実はハリーズコメットは思い入れが深い馬でした(残念ながら非出資馬です)。
東日本大震災では、私が乗馬ライセンスを取得する際にお世話になった馬、サクラヤマトオー(私は素人ですが「ひょっとして背中が柔らかいってこういうこと?」と気づかせてくれた馬でした)など、他にもたくさんの思い入れがある馬たちが命を失ってしまいました(残念ながら、馬だけではなく……)。
だからこそ、どうしても彼の名前を残す形でコラムを書きたかった、ということなのです。

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