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【取得?使用?開示?】不正競争防止法上の営業秘密侵害となる行為を図解する


■ 営業秘密保護の「じゃない方」

突然ですが、不正競争防止法上の営業秘密の定めといえば何を思い浮かべますか?
おそらく、多くの法務パーソンは「あぁ、営業秘密ね。①秘密管理性、②有用性、③非公知性だったっけ?」と思ったのではないでしょうか。これは、不正競争防止法2条6項に定める「営業秘密」の定義のうち重要部分、いわゆる営業秘密の3要件を説明したものです。

この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

もっとも、不正競争防止法には、上記のような「どのような情報が営業秘密に該当するか」(営業秘密の定義)に加えて、「営業秘密に対するどのような取扱いが不正競争行為に該当するのか」(営業秘密侵害となる行為)も定められています。
営業秘密の3要件のあまりの重要さゆえに(?)霞みがちではありますが、後者も一度はさらっておきたいテーマです。

そこで、本noteでは、つい忘れられがちな営業秘密保護の「じゃない方」である「営業秘密に対するどのような取り扱いが不正競争行為に該当するのか」(営業秘密侵害となる行為)について取り上げます。

■ 条文を読めばわか…らないかもしれない

抽象的で論点の多い営業秘密の定義とは異なり、営業秘密侵害となる行為は、不正競争防止法2条1項4号~10号にその類型が列挙されています。
「なんだ、それなら条文を読めばわかるじゃないか」と思われるかもしれません。もちろん正しい指摘ではあるのですが、それで事足りそうか実際に条文を見てみましょう。

(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密取得する行為(以下「営業秘密不正取得行為」という。)又は営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。次号から第九号まで、第十九条第一項第六号、第二十一条及び附則第四条第一号において同じ。)
 その営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密取得し、又はその取得した営業秘密使用し、若しくは開示する行為
 その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密使用し、又は開示する行為
 営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密使用し、又は開示する行為
 その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密取得し、又はその取得した営業秘密使用し、若しくは開示する行為
 その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密使用し、又は開示する行為
 第四号から前号までに掲げる行為(技術上の秘密(営業秘密のうち、技術上の情報であるものをいう。以下同じ。)を使用する行為に限る。以下この号において「不正使用行為」という。)により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(当該物を譲り受けた者(その譲り受けた時に当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)が当該物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為を除く。)

おそらく多くの方が上記引用を読み飛ばしてここまで来たかと思います。
このように、営業秘密侵害となる行為の条文は非常に読みにくく、そのまま読むのはかなり面倒です。

こんなときは図解してみよう、ということでいろいろと試してみた結果、よく見る一枚絵ではなく、紙芝居風に時系列を追って図解するのが一番わかりやすいのではないかという結論に至りましたので、以下ご紹介します。

■ 登場人物の紹介

 - 保有者

営業秘密の保有者です。
今回のnoteで残念な目に遭うことになります。

 - 一次取得者(善 / 悪)

営業秘密の保有者から、直接に(一次的に)営業秘密を取得する者です。
上記のとおり、「善」い一次取得者と、「悪」い一次取得者が存在します。何をもって「善」「悪」とされるかは後述します。

 - 二次取得者(善 / 悪)

営業秘密の保有者から、一次取得者を通じて(二次的に)営業秘密を取得する者です。
一次取得者と同様に、「善」「悪」それぞれの二次取得者が存在します。

■ ざっくりと3つの類型に整理

営業秘密侵害となる行為は、上記のとおり、大別して3種類に分けられます。
①不正取得類型と②信義則違反類型は、保有者から一次取得者への流れが不正なものか正当なものかで区別される一方、③営業秘密侵害品譲渡等類型は、①②とは毛色が異なる類型です。
以下では、①不正取得類型と②信義則違反類型をメインに説明していきます。

■ ①不正取得類型

まずは①不正取得類型です。
この類型では悪い一次取得者が登場し、②信義則違反類型と異なり、善い一次取得者は登場しません。

 - 悪い一次取得者、営業秘密をゲット

【図①-1】

【図①-1】営業秘密の保有者の元に、一次取得者が現れました。
この一次取得者は、営業秘密を不正な手段で取得する悪い一次取得者です。

【図①-2】

【図①-2】悪い一次取得者については、営業秘密の取得及び使用が不正競争行為となります(4号)。

 - 第二の刺客、悪い二次取得者現る

【図①-3】

【図①-3】一次取得者に営業秘密が奪われてしまった後、今度は、二次取得者が現れました。
この二次取得者は、営業秘密が悪い一次取得者により不正な手段で取得されたものであること知っている(又は重過失で知らない悪い二次取得者です。

【図①-4】

【図①-4】悪い一次取得者→悪い二次取得者の流れについては、悪い一次取得者による開示(4号)並びに悪い二次取得者による取得及び使用(5号)が、不正競争行為となります。

【図①-5】

【図①-5】また、その後悪い二次取得者が営業秘密を第三者に開示した場合には、当該開示が不正競争行為となります(5号)。

 - 善い二次取得者なら大丈夫?

【図①-6】

【図①-6】さて、今度は別の二次取得者が現れました。
この二次取得者は、先程の悪い二次取得者とは違って、営業秘密が悪い一次取得者により不正な手段で取得されたものであることを知らない(かつ知らないことにつき重過失のない)善い二次取得者です。

【図①-7】

【図①-7】悪い一次取得者→善い二次取得者の流れについては、悪い一次取得者による開示のみが不正競争行為となります(4号)。
つまり、悪い二次取得者とは異なり、善い二次取得者による取得は不正競争行為にはなりません。

【図①-8】

とはいえ、人は変わる生き物です。いくら当初は「善」だったとしても、後から「悪」に変わってしまうこともあり、このことは善い二次取得者についても同じです。
【図①-8】悪い二次取得者と化してしまった元・善い二次取得者による使用及び開示は、不正競争行為に該当することになります(6号)。

【図①-9】

もっとも、いくら悪玉になったとはいえ元々は善玉、一定の範囲で保護してあげる必要があります。
【図①-9】そこで、元・善い二次取得者による営業秘密の取得が、悪い一次取得者との取引による場合には、当該取引で認められた範囲内使用及び開示は、損害賠償請求、差止請求、刑事罰等の対象とはならないとされています(19条1項6号)。

第十九条 第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
 第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争 取引によって営業秘密を取得した者(その取得した時にその営業秘密について営業秘密不正開示行為であること又はその営業秘密について営業秘密不正取得行為若しくは営業秘密不正開示行為が介在したことを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその取引によって取得した権原の範囲内においてその営業秘密を使用し、又は開示する行為

■ ②信義則違反類型

次は②信義則違反類型です。
この類型では、①不正取得類型とは異なり、悪い一次取得者は登場しません。

 - 油断できない善い一時取得者

【図②-1】

【図②-1】営業秘密の保有者の元に、一次取得者が現れました。
この一次取得者は、善い一次取得者であり、営業秘密を保有者から正当に取得します(例:従業員、業務委託先、下請企業など)。

【図②-2】

【図②-2】ところが、やはり人は変わる生き物、善い一次取得者も取得後に「不正な利益を得よう」「保有者に損害を与えてやろう」といった邪な気持ち(総称して図利加害目的といいます。)を持つこともあるでしょう。

【図②-3】

【図②-3】図利加害目的で行われた善い一次取得者による使用は、不正競争行為に該当します(7号)。

 - またまた登場、悪い二次取得者

【図②-4】

【図②-4】悲しいことに図利加害目的に取り憑かれてしまった善い一次取得者の元に、今度は二次取得者が現れました。
この二次取得者は、自身に対する一次取得者による営業秘密の開示が、図利加害目的によって行われたものであること知っている(又は重過失で知らない)悪い二次取得者です。

【図②-5】

【図②-5】善い一次取得者with図利加害目的→悪い二次取得者の流れについては、善い一次取得者with図利加害目的による開示(7号)並びに悪い二次取得者による取得及び使用(8号)が、不正競争行為となります。

【図②-6】

【図②-6】また、その後悪い二次取得者が営業秘密を第三者に開示した場合には、当該開示が不正競争行為となります(8号)。

 - やっぱり大丈夫じゃない善い二次取得者

【図②-7】

【図②-7】さて、次に現れた別の二次取得者は、自身に対する一次取得者による営業秘密の開示が、図利加害目的によって行われたものであることを知らない(かつ知らないことにつき重過失のない)善い二次取得者です。

【図②-8】

【図②-8】善い一次取得者with図利加害目的→善い二次取得者の流れについては、善い一次取得者with図利加害目的による開示のみが不正競争行為となります(7号)。

【図②-9】

【図②-9】ただし、悪い二次取得者と化してしまった元・善い二次取得者による使用及び開示は、不正競争行為に該当することになります(9号)。

【図②-10】

【図②-10】もっとも、①不正取得類型での説明と同様に、元・善い二次取得者による営業秘密の取得が、善い一次取得者with図利加害目的との取引による場合には、当該取引で認められた範囲内使用及び開示は、適用除外となります(19条1項6号)。

■ ③営業秘密侵害品譲渡等類型

なお、ここまでの①不正取得類型及び②信義則違反類型の図解において赤色の吹き出しで示した行為(=営業秘密侵害となる行為、不正競争行為)のうち、技術上の秘密を使用する行為により生じた物譲渡等する行為は、③営業秘密侵害品譲渡等類型として、不正競争行為に該当します(10号)。

■ 不正競争防止法をもっと勉強したい方は…(宣伝)

さて、本noteでは、営業秘密保護の「じゃない方」である「営業秘密に対するどのような取り扱いが不正競争行為に該当するのか」(営業秘密侵害となる行為)に絞って図解してみました。

もし今回のテーマに限らず不正競争防止法の基礎をサクッと学んでみたいという方がいらっしゃいましたら、以下のウェブ講座もチェックしてみてください(宣伝)。


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