不実証広告規制の効果範囲?~否定された立法担当者見解~
景品表示法の特徴的な制度として、「不実証広告規制」があります。この不実証広告規制を巡っては、かつてその効果範囲について、立法担当者の見解を巻き込んだ議論がありました。
今では決着した議論ではありますが、同法の歴史的(?)なトピックとして、本noteで解説します。
1 不実証広告規制とは
不実証広告規制とは、ある表示に対して消費者庁が資料提出要求をした場合において、事業者が15日以内(景品表示法施行規則7条2項)に「当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料」を提出しなかったときに、当該表示は優良誤認表示(5条1号)とみなされる(措置命令の場合。7条2項)又は推定される(課徴金納付命令の場合。8条3項)というものです。
実は、この不実証広告規制はもともと景品表示法に存在していたものではなく、平成15年改正時に追加されたものでした。
というのも、不実証広告規制がなかった時代は、ある表示を優良誤認表示と認定するためには、国側が試験等を行って、商品等に表示どおりの効果効能がないことを立証する必要があったことから、その立証、ひいては行政処分を行うまでに多大な時間がかかってしまうという問題点がありました。他方、商品等の効果効能を訴求するのであれば、事業者側はその訴求内容を裏付けるデータなどを保有していてしかるべきです。
そこで、上記の問題点を解消するため、平成15年改正時に不実証広告規制が景品表示法に追加されることとなったわけです。
2 処分のライフサイクル
ところで、措置命令及び課徴金納付命令は、少数ながら、命令後に取消訴訟が提起されてその効力が争われることがあります。その場合、当該取消訴訟においても、問題の表示が優良誤認表示に該当するか否かが争点となり得ます。
一方で、7条2項及び8条3項は、「同項の規定(注:7条2項につき7条1項=措置命令、8条3項につき8条1項=課徴金納付命令)の適用については」優良誤認表示とみなす or 推定すると規定しています。
この文言に注目すると、不実証広告規制によるみなし又は推定効果は上記ライフサイクルでいう「①措置命令 / 課徴金納付命令」に限られる、つまり、「②取消訴訟」では不実証広告規制は適用されず、国側が、問題の商品等の効果効能、ひいては問題の表示が優良誤認表示に該当すること自体を立証しなければならないことになるとも読めそうです。
3 平成15年改正時の解説
この点について、公正取引委員会(当時の所管官庁)による平成15年改正時の解説書である『改正景品表示法と運用指針』(商事法務、2004年) には、以下のとおりの記載がありました。
上記記載は当時の景品表示法の文言、条文番号、制度等を前提としたものであるため、現行法には当てはまらない部分もありますが、不実証広告規制の効果範囲という観点でみると、以下のことを説明しているといえます。
4 現在の解釈
それでは、この論点は現在ではどのように解釈されているのでしょうか?
結論から言ってしまうと不実証広告規制の効果は訴訟段階にも及ぶとされているのですが、この点が争われた裁判例がありました。
(1)裁判例
その裁判例が「翠光トップライン事件」(東京地判平成28年11月10日判タ1443号122頁)と呼ばれる裁判例です。
この裁判例では、重要な考え方がいくつか示されていますが、不実証広告規制の効果範囲については以下のとおり判示されました。
引用部分は長いですが、ざっくりいえば、「訴訟物=処分の違法性一般という取消訴訟の審理構造に照らせば、不実証広告規制の効果は処分の取消訴訟にも及ぶ(これに反する立法担当者の見解は採用できない)」との判断を示しています。
そのため、取消訴訟においても、争点となるのは事業者が提出した資料が「当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料」に該当するか否かであって、優良誤認表示の該当性そのものは立証対象ではないことになります。
(2)補足:取消訴訟における立証責任
ちなみに、不実証広告規制は「優良誤認表示該当性の立証責任を事業者側に転換する規制である」と説明されることがありますが、この説明はミスリーディングです。
つまり、上記説明を素直に理解すると、訴訟段階において、「事業者側」が「問題の表示が優良誤認表示には該当しないこと」につき立証責任を負うことになります。
しかし、行政処分の取消訴訟では、国側が問題の当該行政処分の適法性につき立証責任を負います。そのため、不実証広告規制が用いられた措置命令又は課徴金納付命令の取消訴訟でも、当該措置命令又は課徴金納付命令の適法性、具体的には、「事業者側が提出した資料が『当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料』ではないこと」につき「国側」が立証責任を負うことになります。
したがって、不実証広告規制は、立証対象を変えるものではありますが、立証責任を国側から事業者側に転換するものではないのです。
5 おわりに
本noteで解説した論点は、現在では日の目を見ない過去のトピックです。
とはいえ、法律学習では、過去の話を知ることで、より現在の法制度の理解が進むこともあります。本noteを読んで「へぇ~そんな話があったんだ」と面白がってくれた方が1人でもいらっしゃれば幸いです。
※ 消費者庁が行った措置命令及び課徴金納付命令を集積したデータベースサイト「景品表示法 執行事例データベース」を運営しています。ご興味がある方は是非覗いてみてください(PC利用推奨)。
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