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ウクライナ戦争2014年のドンバス侵攻から考える
2014年のドンバス侵攻から考える
以前投稿したものを再構成してみた。
ドンバス地方の一部被占領地域(自称ドネツク人民共和国、自称ルガンスク人民共和国)について色々と誤解や理解されていない事が多々あるので、ここでもう一度整理してみたい。
報道などで当該地域(親露派地域と呼ばれる地域)における、親露派勢力、又は分離派、分離派勢力と言われるものは、概ね同一である。混乱を避けるため、以下の説明では親露派勢力と統一させていただく。
親露派勢力と聞いて思い浮かぶのは、ウクライナ人であるがロシア政府に近い考えを持ち、ウクライナの政権よりもロシア政府、政権により親しみを感じる人達(ドンバス地域の民衆)全般を思い浮かべるかもしれないが、それ程単純では無い。
ドンバス住民の多くはロシア語話者で、ロシアに親しみを感じたり、親戚がロシアにいたり(これはドンバスに限らないが)する人達が多いが紛争当初は、「自分達はウクライナ人、ロシアに編入する事には賛成しない」という人達が大半だった(キーウ国際社会学研究所調査)。言語法の法案が制定するかもしれない時には抗議行動が起こったが、小競り合い程度であった。
ロシア政府はここに目を付けて、親米政権との分離を企て、ドンバス地域を親露派勢力圏と策定する事で、ウクライナ暫定政権に揺さぶりをかけ始める。
どこの国にも過激な思想を持つ人間はいる。当然、東部ウクライナ・ドンバス地域にその様な(分離思想を持つ)人間もいる。何もなければ、そういう人間たちが集まるコミュニティの中で活動し、たまに政治活動を行う者達も存在する。ロシアはそういう団体を見逃さない。上手く取り入り、挑発し、武器を与え、自分達の勢力圏に取り込んでゆく、絶妙なタイミングで。ロシアはその様な諜報活動、工作活動はお手の物である。そういう人材とロシアからの義勇兵という名の戦闘員、チェチェン、セルビアからの傭兵部隊が合流して、親露派勢力、分離派勢力というロシアの傀儡勢力が作られてゆく。東部ウクライナ出身の者やそれ以外の地域出身のウクライナ人も、金に釣られて参加する者もいる。紛争当初は犯罪者やならず者なども参加していた(日本にもあるがMETROと言う大規模スーパーマーケット襲撃、強奪事件などは彼等の仕業だ) 。
ロシアの工作員の介入
話が少し前後するがロシア側のドンバス侵攻前にロシア連邦保安庁出身の“ストレルコフ”ことイゴール・ギルキン(Игорь Стрелков = Игорь Гиркин)が傭兵、親露派勢力の部隊を率いてドニェツク州スラビャンスクに攻撃を仕掛ける。
この“ストレルコフ”ことイゴール・ギルキンはいわゆる紛争屋。
長くなるのでここでは簡単に述べるが、ストレルコフは沿ドニエストル紛争、ボスニア・ヘルツェコビナ紛争、第1次・第2次チェチェン紛争、クリミア侵攻、東部ウクライナ侵攻、などロシアにおける紛争地帯を渡り歩いてきた人物でノボロシア提唱者。2019年6月19日、オランダ検察は、マレーシア航空17便撃墜事件における殺人罪でギルキンを起訴し、国際逮捕状を発行している。
ストレルコフは自称ドネツク人民共和国の国防大臣に就任していた。
以下に紹介する自称ドネツク人民共和国、自称ルガンスク人民共和国の初期の重要なメンバーは多かれ少なかれこのストレルコフの息のかかった人間である。ストレルコフが赴いた紛争地域に同行している者もいる。
自称ドニェツク人民共和国主要メンバー
アレクサンドル・ボロダイ、元ドネツク人民共和国首相(Александр Бородай )ロシア人
通称モトローラ、アルセン・パブロフ、兵士(Моторола = Арсен Павлов)ロシア人
通称ギヴィ、ミハイル・トルスティフ、軍司令官(Гиви = Михаил Толстых)ウクライナ出身
アレクサンドル・ザハルチェンコ、元ドネツク人民共和国首相(Александр Захарченко)ウクライナ出身
自称ルガンスク人民共和国主要メンバー
アレクセイ・モズゴヴォイ、軍司令官(Алексей Мозговой)
通称バットマン、アレクサンドル・ベドノフ、軍司令官(Бэтмен = Александр Беднов)
通称お父さん、パベル・ドレイモフ、軍人(Батя = Павел Дрёмов)
上記、両人民共和国のメンバーの6名(ボロダイ以外)は既に死亡。暗殺されている。
両人民共和国やロシア側はウクライナ側が暗殺したと言っているが、警戒の厳しい占領地域では、かなり難しい。私は、ロシア側がコントロールしづらくなってきたので、邪魔者として暗殺されたのではないかと考えている。
彼等の死後は、ドニェツク人民共和国には事務方に近い人間(デニス・プシーリン/Денис Пушилин)が送り込まれている。
(因みにこのプシーリンはロシアの企業MMMが「МММグローバル」という出資金詐欺及びネズミ講を行い、プシーリンは2011年から2013年まで、この新詐欺商法のウクライナにおけるリーダーの一人として活躍)
前述のドネツク人民共和国の主要メンバーは、友人によると「ある日突然現れた」という。ロシア政府が侵攻後、人民共和国を作るにあたり急遽集めたものと思われる。
ストレルコフがスラビャスクに傭兵部隊と一緒に攻撃侵攻すると同時にドンバス地域にもチェチェン人傭兵、セルビア人傭兵達が軍事物資とともに続々と送り込まれている。
この様な大規模な派兵はストレルコフ個人の力では出来ない。ここでもロシア政府が介入している。まず傭兵である、ご存知の通り傭兵とは金銭で雇われる兵士の事で大規模な傭兵部隊なら、それなりの金額を支払わなければならない。とても個人の力では無理な話である。
もう一つ気になったのは、チェチェン人傭兵、セルビア人傭兵と言う点(後には色々な国の傭兵も来るが数は少ない)。ここで、当時ロシア大統領補佐官、チェチェン人で灰色の枢機卿 と呼ばれたウラジスラフ・スルコフ(Владислав Сурков)という役人が登場する。当時プーチンの側近で裏方の仕事を請け負い、プーチンお気に入りの人物が、コネクションがあるチェチェン共和国、セルビアに働きかけ傭兵派遣を要請した。
その後ウクライナ政府と親露派勢力との戦闘が続いていく。
少し長くなったが、現在のドンバスの被占領地域は、ロシア政府の介入無しでは成り立たない。ウクライナ人の親露派達だけで構成する事は物理的にも資金的にも無理な話である。
忘れないでいただきたい。親露派勢力、親露派地域とは、ロシア政府の傀儡以外のものではない。ロシア政府の後ろ盾が無ければ存在出来ないのである。
私の友人もドネツクのセンター(中心街)に自宅がある。親戚、家族もいて、その自宅を捨て他の地に移り住む事は出来ない。友人はロシアのパスポートは取得していない。移動にはかなりの不便がある。首都キーフに向かう際、幾つものチェックポイント(検問所)を通る。ウクライナ側から被占領地域に入る場合も、幾つものチェックポイントを通過(中にはチェックポイントで嫌がらせを受けたり、身の危険を感じる事もある)せざるを得ない。
海外に行く場合、ウクライナ側から行く場合とロシア側から出る場合がある。
ドンバスの住民は、ロシアのロストフからドネツクに入る場合はほぼノーチェックで入ることが出来る。
煩わしく危険なチェックポイントを嫌いロシア側から入出国する住民も多い。逆に実家がドンバス地域にあるために、行く事を我慢し数年もの間、家族に会えないウクライナ人も多い。
2014年のドンバス侵攻直後のドネツク様子を少しだけ紹介する。友人はドネツクのセンター、イリチャ付近に住んでいた。イリチャ付近には大きな池などもある。
友人の報告では大通りにはロシア側の兵士(傭兵や現地で集められたならず者や分離主義者)のスナイパーが隠れて居てウクライナ軍兵士に向けて狙撃をしていた。そこは以前私がドネツクに行った時良く通った大通りだった。もうひとつは親露派が都市伝説のように言っている臓器売買の真実。
戦闘が夏場に差し掛かると戦死した兵士の処理に困るようになる。移動火葬車が登場するのはもう少しあとになる。友人は池のほとりで異様な光景を目にする。内臓を抜かれて腹部が凹んだ遺体が積み重ねられていたという。友人もこんな異様な光景は見たことがないという。なぜ遺体から内臓を抜いていたか?それは臓器売買が目的ではなく、遺体の腐敗によって腹部が破裂することを防ぐための処置だった。特に夏場は遺体の痛みが酷くなるためだ。遺体を保管する霊安室にも限りがあり池のほとりに積み重ねておいておくしかなかったようだ。
ドネツクの友人と連絡を取り合う時に嫌がったのが電話での会話。2014年頃は今のようにViberやLINE、What‘supなどのアプリも無く、今ほどネット環境も良くなかった。そのため良く使ったのがブラステルという格安国際通話だった。当然無料ではなくプリペイド方式で支払う。通話品質もそれほど良くなかった。ネット系で言えばSkype、こちらも通話状況があまり良くなかった(繋がらない時や途中で良く寸断した)。
友人はとにかくブラステルによる通話を嫌がった。なぜなら旧ソ連時代に建てられた集合住宅では盗聴の危険があるからだ。ロシアが侵攻する前は普通にブラステルを使って通話していたが、侵攻後は主にSkypeを使用することとなる。なぜ盗聴を嫌がるかと言えば、ドネツク人民共和国の建国宣言後、激しい言論統制が始まり分離主義者達の検閲が厳しくなった事が理由だ。人民共和国に敵対する市民は徹底的に取り締まられ、拷問や処刑なども行われていたようだ。徐々にロシア化が進められていく。侵攻直後からウクライナ側からのテレビ放送は遮断され、ロシアからの放送のみが放送されるようになる。
なぜ2014年頃の話を今するのか?2014年のドンバス侵攻からすでに10年の年月が経っている。当時少年少年だった子供達が10年にわたり、ロシア化された教育を徹底して受ける。その結果立派な親露派というよりロシア人が作られていく。親達も弾圧を恐れ反ロシア的な発言はしなくなっていく。子供達に対しても、学校で反ロシア的発言をしないように気をつけるようになる。
2022年に始まった戦争は今年で3年目にはいる。占領されている4州とクリミアもロシア化とそれに伴う弾圧、子供達のロシア領内への連れ去りも頻発している。
先に占領されたドネツクとルハンシクに加えてザポリージャ、ヘルソン、2州の一部地域も時間が経てば経つほどロシア化を進めていくだろう。
今の時点ですぐに解放という事は非常に難しいが、それでも出来るだけ早く解放されるよう国際社会が協力し強い態度でロシアに立ち向かっていかなければならないだろう。
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ドネツク人民共和国首相
後に暗殺される
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自称ドニェツク人民共和国主要メンバー
通称モトローラ、アルセン・パブロフ、兵士(Моторола = Арсен Павлов)ロシア人
通称ギヴィ、ミハイル・トルスティフ、軍司令官(Гиви = Михаил Толстых)ウクライナ出身
アレクサンドル・ザハルチェンコ、元ドニェツク人民共和国首相(Александр Захарченко)ウクライナ出身
2段目左から
自称ルガンスク人民共和国主要メンバー
アレクセイ・モズゴヴォイ、軍司令官(Алексей Мозговой)
通称バットマン、アレクサンドル・ベドノフ、軍司令官(Бэтмен = Александр Беднов)
通称お父さん、パベル・ドレイモフ、軍人(Батя = Павел Дрёмов)
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(別名イゴール・ギルキン)
2023年7月21日過激主義活動の疑いでロシア連邦保安局により訴追された。
現在ロシアで拘束されている。
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2014年当時ロシア大統領補佐官
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この後腐敗による腹部破裂を防ぐため内臓を抜かれ放置される
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