《昭和時代の国産量産型コントラバスを調べる》概要①


一昨年(2022年)から昭和時代につくられた低価格帯の国産量産型コントラバスを調べている。昭和時代の国産量産型コントラバスのなかでも最低ランクのスペックである合板製、所謂“ベニヤ製”のコントラバスが対象の中心だ。
昭和時代の国産量産型コントラバスについて、現在手に入れられる情報は極端に少ない。一部を除きメーカーのほとんどが廃業している。オークションサイト等に記される僅かな商品説明と写真等以外にその情報を手に入れるのは難しい。
日本ではどのような低価格帯のコントラバスがつくられてきたのか。私は高級で権威的なものよりも庶民的なものに興味を持つ傾向があり、低スペックの量産品に興味を持った。製品を実際に知る事が調査の大前提となるので、資料となる楽器を購入し記録することにした。これまでに(2024年3月現在)およそ30ほどの個体を記録し、この作業は現在も継続中である。

記録が大量になってきたので、整理のため記録をネット上に順次アップしていく事にした。
記録は録音と写真及び計測となる。音を記録した動画をyoutubeに、写真や記述はこのアカウントに記事を置いていく。記事は個人的なメモ程度のものだが、「概要」「各資料について」「各メーカーについて」「作業について」「合板製コントラバスについて」「量産型コントラバス全般について」等の内容でだいたい60〜70程をアップする。

【予定記事大枠 (数)】
概要    4
資料記録  40〜50
各メーカーとブランド    9
作業雑記   5
考察 5
資料一覧 1

私は楽器職人ではないので、残念ながら楽器の“つくり”についての知識は乏しい。長年この楽器を弾き続きてきたこともあり、“演奏者の視点で” 昭和時代の国産量産型コントラバスにあたっている。
昭和時代といっても、昭和初期の個体にはなかなか出会えないので、資料は主に戦後の経済成長期以降のものが中心となる。日本で国産の合板製コントラバスが大量に生産された時期がこれに当たる。個人が出会える事のできる数は僅かでしかないが、出会った個体それぞれの音を録音し、写真を撮り、計測し、印象を書き留める、という単純な作業を行なっている。おそらく、量産型の楽器がこの様な記録/記述がされた事はこれまで無かっただろう。

さて、量産型コントラバスにはどの様なものがあるかみてみよう。
ボディに使用される材の差異から量産型コントラバスは以下3つのタイプに分けられる。

⑴「オール合板」タイプ
     laminated wood(plywood)

⑵「単板/合板ミックス」タイプ
    solidwood/ laminated wood mixed

⑶「オール単板」タイプ
      solidwood

細かく見ると⑵「単板/合板ミックス」タイプには主に「表板のみ単板」「側板のみ合板」の2種がある。⑵と⑶「オール単板」タイプには、通常使用される材のスプールス、メイプルではない材が使用されているものがあるようだ。
ちなみに材の差異ではないが、上記の他に「消音ベース(サイレントベース)」と呼ばれる自宅練習やピックアップを装着して鳴らす、形状の異なるタイプが数社から生産されている。

この調査での資料分類は以下となる。
先ず対象のメインである「オール合板」タイプの資料は年代別に以下の3つのグループに分け、それぞれのグループからランダムに個体の記録をアップしていく。

group⑴  オール合板 1950年代〜1960年代
              laminated wood around 50〜60's  

group⑵  オール合板 1970年代
    laminated wood around 70's  

group⑶ オール合板 1980年代
               laminated wood around 80's  

ラベルから製作年代が判別できないメーカーがある等の理由によりグループ分けは大雑把となった。今後もしかしたら何体か追加する可能性はあるものの、「オール合板」タイプはひとまず24体程を記録する。

以上、年代別の3つの「オール合板」群の後に、以下の「単板/合板ミックス」「オール単板」のグループに移行する。

group⑷  単板/合板ミックス
    solidwood/laminated wood mixed  

group⑸  オール単板
    solidwood

量産コントラバスのなかでも比較的スペックの高いオール単板仕様(group⑸ )は、扱う数はごく僅かとなる。そうした楽器は今後もオーナーが変わって音楽の現場で弾かれ続ける可能性が高い。楽器として長い生を得られるだろう。それに対して合板製の楽器は寿命が短く、やがて廃棄される運命にある。group⑷及びgroup⑸  は合わせて約20数体を予定している。

この調査の目的には「消えゆく昭和の庶民文化を現代的な視点で記録/記述する」という側面がある。ここでいう“消えゆく庶民文化”とは、昭和時代に国内で生産された低価格帯の(主に合板製)コントラバスである。
一説によれば合板製楽器が楽器として使用できるその寿命は30年程とも言われる。この説に私はあまり同意しないが、例えば、国産の合板製楽器の数が多く見られはじめる1960年代のものは、つくられてからおよそ60年間くらい経ったていることになる。昭和時代の国産の合板製コントラバスはその寿命ゆえに、だんだんと数を減らし、やがてほとんどが消失してしまう事も考えられなくはない。

低スペックの大量に量産された古い国産楽器についてなど、多くの人にとっては興味のない事ではあると思うが、私はこの作業を通して、昭和時代の音楽文化の底辺の有様を感覚的に学んでいる気がしている。量産品とは、良くも悪くも時代的な何か、庶民的な何かを纏っている。奏者人口の少ないコントラバスという楽器も例外ではない。

この調査をどれくらいの期間続けるかは未定だが、長期的に続けるのは困難だと感じている。いまのところ全体で40〜50体ほどの資料を扱った時点でひとまず一区切りしようと考えている。資料購入のための資金面の問題や、コントラバスはサイズが大きいので置き場の問題もある。又、そもそも楽器というものは、所有者に愛着を持たれ音楽に寄り添う存在であるほうが好ましい。調査資料としてではなく、音楽表現のために弾かれ続けたほうが良いので、記録の為に楽器の購入売却を繰り返す行為にはどうしても疑問が残る。
ある程度の期間を決めていまの自分の出来る範囲で地道にやっていこうと思っている。

【対象メーカー及びブランド】
■名古屋スズキ(現存)
(Masakichi Suzuki)

■マリオ・ナガタ

■木曽ニチゲン

■コイン

■イナジャパンキョウメイシャ
(kyomei bass)

■木曽スズキ

■チャキ
(Salvatore)

■クレモナ

■ オリエンテ(現存)
(昭和時代 Zen-On Talent)

※上記は私が現在知り得る昭和時代の主なコントラバスメーカー(及びブランド)であり、この他にあるのかもしれない。現在まで資料購入できていないメーカー/ブランドを含む。(「昭和時代の量産型コントラバス」が対象という理由により個人製作銘はひとまず除外した。)



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