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発見された手帳の日記 (2007年5月28日〜7月12日)

2007年に工藤冬里のグループMaher Shalal Hash Bazの欧州ツアー、ならびにアルバム『C'est la dernière chanson』のレコーディングに参加した47日分の日記メモが発掘された。この手帳は長らく、誤って棄ててしまったものと思い込んで諦めていたが、17年ぶりに発見され、改めて目を通してみると、自分の書きつけた旅の断片的な印象のメモでしかないのだけど、あのツアーで過ごした日々の細かな記憶がゆっくりと引き出されてくるのを感じた。以下は、その手帳のメモの書き起こしを元に、思い出せた細部を少々肉付けしたものである。( )内の太字の部分は現在の自分が書いた註釈。

5月28日 ロンドン Bethnal Green
雨の夜、大谷君とロンドン着。なかなか連絡がつかず不安になったが、大谷君が頑張って使い方のよく分からない公衆電話で連絡を取り、どうにか宿泊先であるジェイミーとホリーのアパートへ辿り着くことができた。

5月29日 ロンドン Canning Town
ジェイミーお勧めのAdrian Orangeを聴く。次の宿泊先を提供してくれるピートという男が顔を出す。大谷君と街をブラついて食事。昼は一人1ポンドぐらいでパンを購入。カフェで楽譜のおさらい。大谷君と街を歩いて手頃な値段のカレー屋を探していると、「カリ、カリ」と店先で呼び込みをしている男が目に入るが、むしろその向かいのAL-BADARというレストランが安そうだということで、入店しカレーを食べる。デフォルトでコーラが付いてくる。地下鉄でCanning Town、さらにバスで移動してピートの家に泊まる。SutiとSweepという猫を飼っている。CD棚には大量のラリーズのCDがある。

5月30日 ロンドン The Red Rose Club
朝方、置いてあった残りのパンが猫ちゃんにやられていた。ピートに教えてもらい、One day travel cardという便利なものを買う。バスでStratford→電車に乗り継いでHighbury & Islington→Finsbury Parkへ。雨の中、今日の会場を探す。ネットで工藤さんの電話番号を調べてようやく捕まる。駅前で合流。タロイモを並べている淋しげな店でジュース購入、1ポンド。3人でカフェに入る。バスでCamden Rdのスタジオに移動。住宅街のど真ん中にスタジオがある。川手さんと合流。新たに追加された曲を演るが、僕のベースが下手でうまくいかない。再びバスで会場のRed Rose Clubへ。Shiu、ジェイミーと合流。曲が更に25曲ほど追加される。大谷君と会場近くの店へコピーしに行き、分配。床に楽譜を並べて曲順を決める。全く余裕のない練習。その合間にソロのサウンドチェック。20:40ぐらいからソロを演る。「さようなら」「家」「もみの木」「九月の歌」「強い風」「ありがとう」。ミス多く落ち込むが何人もの人に声をかけられ、持ってきたCDも売れたのでプラマイゼロと思うことにする。川手さんソロ、Hamilton Yarns(スライドショーがあり凝ったステージング)、Shiuソロ、最後にマヘル。今日のメンバーは工藤さん、大谷君、僕、川手さん、Shiu。モニターが無いこともあって全体にメタメタ。全員が変。全94曲中5, 6曲はうまくいっただろうか? 0時過ぎに終了。ギャラを41ポンドも貰う。CDの売上と合わせると100ポンド。Hamilton YarnsとCDをトレード。柴山さんも来ていたが、マヘルの前に帰られたとのこと。ジェイミー、Shiu、ピートとバス乗車。途中でジェイミー、Shiuと別れてピート宅へ戻る。大谷君と「疲れたね」と言い合う。パンにホモスをつけて食べて寝る。

5月31日 ロンドン Canning Town
腹の調子がおかしい。11時半まで寝たが、大谷君はまだ寝ている。日記を書き、荷物整理。起きてきた大谷君と外を散歩。スーパーでイチゴを買う。風邪をひいたらしく、本格的に具合が悪い。19時頃、大谷君とピートはタイ料理を食べに出かけたが、僕はひたすら寝る。2人は夜中に帰ってきて、お土産に巨大なケバブを買ってきてくれた。少し食べたけど激辛で無理。夏海さんにメール。

6月1日 ロンドン〜ブリストル Fairfield Place
7時起床。シャワー浴びる。どうにか復調。9時に大谷君も起きてパンを食べる。10時にCanning Townの駅まで徒歩。暑い。Jubilee lineでVictoriaへ。工藤さんとパブで合流。コーヒー2杯。Stone in the Riverの楽譜をもらう。すしバーの行列の話。アルバムは100曲にするという話。メガバスの乗り場を探して歩く。何とか間に合い14時発。蒸し暑い車内で難民のように大人しく耐える。のどかな田園風景を見て、工藤さんは「やっぱりこの辺はArt Bears的ですよね」と言う。16時半ブリストル着。川手さん、アーロンという男、アーロンのお母さんと合流。アーロンの車に荷物を積んでおき、Kino Cafeという店へ歩いていく。どこもかしこも可愛らしく見える。ベジカフェ、アイスコーヒー、グリーンカレーなどシェアする。僕は携帯を持っていないので、工藤さんが夏海さんに電話してくれる。元気そうで安心する。トムという男の車で一旦、アーロンの家へ。大谷君と僕の荷物をピックして、僕らの宿泊先であるトムの家へ送ってもらう。Fairfield Placeのトム宅にはトムの彼女も住んでいる。お茶とクッキーを出してもらい大谷君と喜ぶ。二階に寝室があり案内されるが、彼らはカウチで寝るのか?と心配になる。工藤さん、大谷君と、今回の会場であるArnolfiniまで歩く。Shiuと合流。フェスはもう始まっており、名前の分からない変なノイズ2人組や、Faustのショーを観る。変な女性ボーカル、トランシーなノリとDADAの入れ子式みたいでやり過ぎ感のある演出、しょぼいサックス、ドラマーの背後の巨大な銅鑼など印象に残る。大谷君と2人きりでトムの家に帰ろうとするが、通りの風景がどこも似ていてすっかり迷う。警官に聞いたり、色々やってるうちに何とか勘で辿り着くも、鍵が開かず慌てる。買ってきたフィッシュ&チップスのフィッシュが生っぽくて大谷君がクレームをつけるが、感化院を出たばかりの少年たちみたいなのが働いている店で、ちょっと怖い。トムたちの帰りを待つがなかなか来ないので電話して相談。鍵の開け方を教わってやっと入れてホッとする。大谷君と4時半ぐらいまで雑談して寝る。

6月2日 ブリストル Fairfield Place
9時半に起きる。夏海さんにメールで写真を送る。川手さんから電話あり、King square parkで合流することになる。雑貨屋を探して歩く。工藤さん、川手さん、Shiuと合流して練習するが、あまり進まず腹も減る。Arnolfiniの近くのArchitecture Art Centre (?) という所に楽器を置かせてもらい食事へ。元Movietoneのマットに会う。『小さな穴』を愛聴してくれているというので、『明滅と反響』をプレゼントする約束をする。Arnolfiniの脇にある船を利用した別棟の会場でMy Two Tomsというバンドをちょっとだけ観てから、一人でArnolfiniに入ってScritti Polittiのショーを観る。登場したグリーンは日曜日のお父さんみたいなルックスと服装。女性のベーシスト、禿げたおじさんのキーボード、医学生みたいなドラム。新曲がどれも素晴らしい。終了後すぐに会場から出たら、ステージ脇のドアから汗だくのグリーンが出てきて、目が会う。手を振ったらにこやかに振り返してくれた。ブリストル市内のDark Studioという会場へ移動。19時からアーリントンのショー。客席には僕と工藤さんしか居なくて大丈夫かなと思ったが、次第にお客さんが入ってくる。アーリントンを観てから大谷君と歩いてKino Cafeへ。アーリントンも戻ってくる。彼は22時からCubeという会場で別グループで演るという。ムチャクチャ寒い。Shiuが消えたために打ち合わせが出来ず。マイペースだな。Cubeでアーリントン参加のフリーミュージックを観る。ホットプレートで何か焼いている奴とラモーンズみたいな立ち方でビニールを鳴らす奴、挙動不審(うがいとか紙をパタパタ振って鳴らすなど)な奴とアーリントン、というメンバー。笑う。終わってからアーリントンに挨拶して、アーロンに送ってもらい大谷君と3人で歩いて帰る。途中、Tescoで買い物。レンジ食品のパスタとマフィンとヒマワリの種、ジュース。トム宅の鍵は今日はすんなり開いた。疲れてパスタはほとんど食べられず、大谷君に食べてもらって早々に寝る。

6月3日 ブリストル Arnolfini
9時起床。洗い物、荷物整理、日記のメモを書く。川手さん来る。13時にArnolfiniの近くのカフェで工藤さん、Shiuと合流。レモネード。Arnolfiniの楽屋でアーリントンを交えて練習。工藤さんが1曲1曲説明していくのでなかなか進まず。楽屋では水、酒、フルーツ、食事などがフリー。ラタトゥイユのパイとサラダを食べる。17時からサウンドチェック。ベースがモニターしづらく難儀する。19:40からマヘル。今日のメンバーは工藤さん、大谷君、僕、川手さん、Shiu、アーリントン。リハとはうって変わってベースがよく聴こえる。工藤さんがその場で曲を選びながら進行。よく受ける。45分ほどで終了。楽屋でまったり過ごしたり、外で喫煙したり、ルーマニアっぽいバンドを観たりなどして、22時過ぎに大谷君と歩いてトム宅へ戻る。ギャラは50ポンド。川手さんからもらったカップヌードルを食べてみたが甘ったるくて変な味。大谷君が録音した今日のテープを聴く。深刻な話をする。目覚ましをセットして就寝。

6月4日 ブリストル〜グラスゴー
7時半起床。荷物を整理。8時前にゆっくり出る。広場でコーヒーを飲む。川手さんに教えられたバス乗り場へ行くが、誰も来ない。近くで働いているマットが偶然通りがかる。川手さんとアーロンが来て、違うステーションだと言われ走る。幸いにも、バスは発車が遅れていたので間に合った。アーリントンも一緒にバスに乗車。工藤さんからトマト拝受。車内で工藤さんとアーリントンのCDr、アーロンの作品、HOSEなど聴く。工藤さんはDon van Vlietの自伝を読んでいて、直筆のサインを見せてくれた。12時過ぎにロンドン着、急いで別のバスに乗り換え。アーリントン、ジェイミーに見送られる。途中のマンチェスターで大勢人が降りて快適になる。バーミンガムで休憩。喫煙できる歓び。グラスゴーまであと1時間という辺りのサービスエリアで20分休憩。コーヒーは2ポンドぐらいする。何も買わず。工藤さんはウサギを見てはしゃぐ。夜21時過ぎの夕焼け、車中のインド人らしき女の子たちの歌。22時にグラスゴー着。思ったほど寒くはない。クリス、リリーと合流。大谷君とクリス宅に泊めてもらうことになる。歩いてMonoへ向かう途中、ジャンキーらしき少年がユラユラ〜と近寄ってきてタバコくれ〜と言われる。大谷君が立ち塞がって「ノーノー」と守ってくれる。Monoに入ると、いかにもグラスゴーという感じのバンドが演奏していた。ビル・ウェルズと再会。名刺をもらう。マヘルのポスターを制作したクリスのガールフレンド、ハンナも合流。一緒にクリスとハンナの家へ。友人のミュージシャン、メアリーも来る。今夜は彼女もここに泊まるという。全員喫煙者。クリスの美味しいベジタリアン料理をいただく。次々にCDをかけながら雑談する楽しいひととき。夏海さんからメールあり。ベッドが足りず、大谷君と同衾することになる。

6月5日 グラスゴー Tchai Ovna
9時起床。シャワー。洗濯物を袋に詰めておく。メアリーと歌舞伎について話す。クリスは4弦ギターを見せてくれて、上手に弾く。ハンナの案内でバスに乗って、工藤さんたちが宿泊しているリリー宅へ。皆と合流。喫煙者の居ないこちらは貴族のような雰囲気で全く馴染めず。工藤さんがSkypeを繋いでくれて、夏海さんに電話する。曲は最終的に300曲ぐらいにしたいとのこと。ひとまず追加が決まった楽譜をコピーするため大谷君と外出。インド系ファストフード店でチキンティッカマサラを食べる。コピーセンターが丁度近くにあって助かる。練習。Each Man Kills the Thing He Lovesのベースラインの見直し。会場のTchai Ovnaへ移動。レジスタンスの少年を描いた壁画がある。店内に置いてある水タバコに工藤さんが反応。サンドイッチを食べる。楽譜の確認に時間がかかる。ライブ前にShiu、リリーとコインランドリーへ。洗濯物を一旦預かってもらう。K氏に突然怒られたが、こちらは何も悪いことはしていないので、理不尽もいいところだ。工藤さんに慰められる。20時半、川手さんソロ。マヘルはリハーサルの余裕が無かったので前回のセットを演る。今日のメンバーは工藤さん、大谷君、僕、川手さん、Shiu。ビルが観に来てくれていた。受けはまあまあ。生姜の効いた濃いチャイを飲む。楽器をリリー宅に置かせてもらい、近くのパブで打ち上げ。ハンナに夏海さんのことを説明し、絵の話などする。パリには巨大な古道具のマーケットがあり、レコードなんかもあるよと教えてくれる。スコットランド訛りの英語にも多少慣れてきた。皆と別れてバスでクリス宅へ戻る。やはりCDを次々に聴く。David Dunnのグランドキャニオンでの録音など。菊地さんに明日の演奏の件でメールを送る。PCでハンナに夏海さんの作品を見せる。やたら盛り上がり楽しい夜。3時頃就寝。

6月6日 グラスゴー Mono
大谷君とバスでリリー宅へ。ランチを頂く。「追悼」ほか、短い曲を練習。川手さん、大谷君と徒歩でMonoへ。ビルにBMXのダグラス・T・スチュワートを紹介される。yumboの「強い風」はいい曲だと言われ、コード進行が知りたいというので見せる。「Doorways」というシングルを拝受。菊地さんとも合流したが、店内では恥ずかしいと言って、駐車場の隅でトランペットを練習しに行く。玄米と温野菜のベジ料理を食べる。ソロ、マヘルのサウンドチェック。曲順を決める。僕と菊地さんが一番手で出る。「さようなら」「次のパイナップル」「ありがとう」の3曲のみ。子供の頃のお誕生会を思い出す。今日のマヘルは歌ものが中心。メンバーは工藤さん、大谷君、僕、川手さん、Shiu、ビル、リリー。カトリーナはStone in the Riverのみドラムを爆音で叩いた。ラストのビルのセットはNalle(クリス、ハンナのバンド)のヴィオラ奏者アビと、ドラムにノーマン・ブレイクというトリオ。最後の曲で我々も呼び込まれてビルの曲をセッション。終了後、外で大谷君、菊地さんと話していたら、スティーブン・パステルが来て少し挨拶する。ジェントルマン。菊地さんにビルを紹介。タクシーに相乗りしてクリス宅へ戻る。今夜は菊地さんも泊まる。ピンク・フロイドの1stを何年ぶりかで聴いた。2時過ぎ就寝。今日のギャラは40ポンド。

6月7日 グラスゴー〜ゲント Faja Lobi
8時起床。荷物の整理。タクシーを呼んでもらい、慌ただしくクリス、ハンナと別れる。菊地さんとはセントラル・ステーションで別れる。駅で皆さんと合流。電車で空港へ。Extra Laggageの手数料の高さ(66ポンド)に閉口する。スコティッシュポンドをユーロに換金。11:44グラスゴー発、ベルギーへのフライト。空腹。14時頃到着。スティーフ、トムという若者たちが出迎えてくれる。空港からゲントまで車で移動。1時間半ぐらい。宿泊先のFaja Lobiに到着。皆さんは宿の下の店でビールを飲む。僕はカプチーノ。宿は5人一緒の大部屋だが快適。ゲントの街を散歩する。路面電車、お城、古いビル、川沿いの道、笹舟などを見る。宿に戻ってからスティーフと彼女のユミが来て、車で近くのレストランで食事。6ポンドのカルボナーラは美味いけど量が少ない。川手さんやスティーフが頼んだミートソースのパスタは量も多くもう少し安いが、味は普通。工藤さんが頼んだ魚のシチューみたいなベルギー料理が一番うまかった。皆が別の所へ飲みに行くというので、もらった地図を頼りに、Lange violettestraatのレコード店Vinyl Kitchenへ行ってみる。中年のおばさんがやっている。色々あるが値段は割と普通。ジョン・ケイルのCarribean SunsetのLPが7ユーロなのに、ボーダー・ボーイズの12"が6ユーロという不可解な値付け。戸田君や濱田さんへのお土産も買う。店のおばさんとICPの話などする。店を出たら雨。宿にまだ誰も帰っていないので、雨の中でもう少し散歩。チンピラみたいな男に片言の英語で「パーティーに行かないか」と腕を引っ張られる。「今から猫の葬式なんだ」と出鱈目を言ったら見たことのないぐらいの真顔になって「そうか…悪かった」と言って去っていった。再び宿に戻ったら、丁度皆さん帰ってきたところだった。シャワー。ShiuにMDの充電を頼む。夏海さんにメールを書く。

6月8日 ゲント Vooruit
9時起床。朝食はクロワッサン、ゆで卵、ベーコンエッグ、コーヒー。楽譜の整理。BDJの追加が20曲以上あり。工藤さんはいつ書いてるんだ? 15時過ぎにコピー屋に寄ってから会場のVooruitへ。古い銀行みたいにバカでかい建物。ステージもけっこうでかい。マクラウドと合流。妙なテンションだ。ShiuのPCで変な映像(クロード・ルルーシュが撮ったポルシェ爆走POV、ブラックユーモアのアニメなど)を観て笑う。23時半からマヘルの出番となる。今日のメンバーは工藤さん、大谷君、僕、川手さん、Shiu、マクラウド。曲順の混乱あり、メンバーがキレる。BDJとスウィートな曲を交互に演る。1曲1曲受ける。アンコールでDonne-moi a boire。楽屋でまったり過ごす。なぜかボーイスカウトの話になる。諸事情ありFaja Lobiに戻れず、1時過ぎにファストフードの店でチップス、ソーセージ、焼き鳥などを食いまくって宿に戻る。日記メモを書く。

6月9日 ゲント Faja Lobi
9時起床。外は雨。昨日は宿で流れているBGMが「コーヒールンバ」など陽気な感じだったが、天気に合わせているのか今日は淋しげですね、というような話を工藤さんとする。皆さん10時過ぎまで起きず暇を持て余す。何人かで散歩。蚤の市、教会見物、公園など。大谷君と美術館へ。ボッシュ、エルンスト、マグリット、ルオーなど、僕でも知っているような有名な画家の絵も多数あるが、それ以上に、全く知らないベルギーの画家の絵も大量に展示されており、ずっと見ていても飽きない。宿に帰る途中でレコード屋に寄るが、何かありそうで何もない。一旦宿に戻ってから待ち合わせ場所のVooruitへ。Shiu、工藤さん、マクラウドと合流。しばらく大谷君を待つが来ないので食事に出る。トムおすすめの店は満席なので、別のレストランを求めて歩く。結局、かなり平凡な「スパゲッティ・ヴォードヴィル」という店へ。僕はこういう場所の方が気楽でいい。朝さんへのポストカードを工藤さんと連名で書く。Vooruitへ戻り、フェス2日目を観る。PA後ろの指定席でゆったりと観られる特権。最初の弾き語りの奴は情けない感じ。2組目はオンダさん(誰だろう?手帳にはそう書いてあるが全く思い出せない)とトランペット&ヴァイオリンのおっさん。オンダさんのアクションにShiuがいちいち反応。トリはNurse with Wound。スキンヘッドのおじさんたち+デヴィッド・チベット+映像。アンコールまで観る。宿に戻ると大谷君が居た。工藤さんと3人で2Fのロビーで語り合う。2時過ぎ寝る。

6月10日 ゲント〜パリ〜シェルブール Studio Chaudelande
7時半起床。急いで荷物を整理。朝食。8時過ぎに9人乗りのでかいバンで出発。乗合なのか、途中で知らない人々を拾ったりする。ゲントを出てパリへ。12時頃に到着。今日は夏日とのこと。普通のファストフード店で食事。空腹なので何でもいい感じ。北駅で玉柳さんをピックし、シェルブールへ向けて出発。車中で寝る。目が覚めたらシェルブールの町の広場だった。長閑でいい場所。車で少し移動したところにStudio Chaudelandeがあった。石造りの2階建てで、スタジオはなかなか広くて立派。広いリビングに3部屋+トレイラーもある。周辺は完全な田舎の風景で、スタジオの前の道の向こうの草原にはヤギが繋いであった。ヒゲのおじさんが料理も作ってくれる。これで一人分の滞在費が50ユーロ。夕食は具の違うクスクス3種と卵。みんな、紙パックのボルドーワインを飲みまくる。猫も2匹いる。目ヤニだらけのミウというのと、名前の分からないモコモコした奴。この辺りは見たことがないほど日が長く、23時ぐらいまで完全に日が落ちないので驚いた。玉柳さんとのジャンケンに負けて、トレイラーでマクラウド、大谷君と寝る。夜中に目が覚めたら完全な闇だった。

6月11日 シェルブール Studio Chaudelande
10時頃起床。シャワー。朝食はパンとコーヒー。クロワッサンの異常な美味さ。工藤さんは朝からスタジオで演奏に使うビンの準備をしていた。新曲Parisシリーズを練習。14時過ぎからセッティングをしてレコーディングが始まる。さっそくParisⅣが難航。一発で録っているが、思ったより分離が良い。1曲1曲時間をかけて録るのでなかなか進まず。22時頃までかかって10数曲といったところ。夕食は、ヒゲの人の誕生日ということで子羊のステーキ、ポテトグラタンと豪華。チーズも美味だったが、工藤さんは「動物園の味がする」と言う。夏海さんからメール。写真を沢山送ってくれて嬉しい。大場さんからもメールあり返信する。今日は2階で12時過ぎに就寝。

6月12日 シェルブール Studio Chaudelande
9時起床。外で工事の音がする。MDで工藤さんの「Liar」を録る。工藤さんはギターを持って芝生を転げ回る。なんでこんなに元気なんだ。午前中からレコーディング。けっこう進む。午後になって小林君と長谷川さんが到着。すぐ録音に加わる。急に音がリッチになる。思わぬ曲でものすごく演奏につまづく。昼食はパスタ。ホリーという誰かの友達が来る。夕食はパンとトマトだけかと思ってビビったが、肉も出てきた。K氏とT氏が口論。今日はトレイラーで寝る。

6月13日 シェルブール Studio Chaudelande
雨。9時起床。小林君がオムレツを作る。みんな割と早くに起きて、今日も午前中からレコーディング。今日は調子が良く、「深煎り」など、次々に名演が生まれる。昼食はパスタ。食べてすぐまた録音。「私の心も私を捨てました」で超難航。夕食は蟹と、ハモみたいな魚の料理。みんな酒を飲んでいるが、勢いで真夜中まで「ハリマ塚」など録音。100曲に達する。2時ぐらいにトレイラーで寝る。

6月14日 シェルブール Studio Chaudelande
8時過ぎ起床。工藤さんが蟹のスープを作る。工藤さんと長谷川さんと玉柳さん、マクラウドは海へ出かける。小林君がハムエッグを作る。出されたメロンが苦かった。工藤さんたちが戻ってきて録音を再開。Donne-moi a boireのベーシック録りとOD。紛失してしまったかと思っていたこの手帳をスタジオ内で発見する。マクラウド、Shiuと話す。Shiuがマヘルに登場した頃の話など。レコーディングはロンドン追加分の曲に突入。アンサンブル系の曲を中心に録る。夕食は白身魚のヒレの部分のクリームソースの料理、ポテト、苦いメロン、パンなど。ここでもAdrian Orangeが聴かれている。なかなか良い(と手帳に書かれているが、数年後に7e.p.のレーベルメイトのCDとして聴いた時には初めて聴いたものと勘違いするぐらい記憶から抜け落ちていた)。3時半ぐらいまで夜更かしして、長谷川さん、大谷君、小林君と話し込む。

6月15日 シェルブール Studio Chaudelande
前日の夜更かしがたたって昼過ぎまで寝てしまう。工藤さんは歌録りをしており、楽譜が新たにコピーされていた。Machinations in Your Daysのコーラス録り。休憩時に楽譜にメモを書き入れる。あしたのジョー、ロッキー、巨人の星の話で盛り上がる。バーベキューソーセージ、犬2匹(と手帳に書いてあるが意味不明)。ShiuとLes frères mélodicaを結成。16時より工藤さんの歌録りの続き。Sayonaraの人力ディレイ。こういうのはどうも好きになれない。歌入れが終わって演奏の録音の続きを22時頃までやる。More Errorsなど。夕食は何だったか忘れた。もうあまり時間が残されていないということで、食後にしつこく真夜中の録音。HDが一杯になる。大谷君、小林君、長谷川さんと話し込む。玉柳さんは朝方に去っていった。お疲れ様。8時頃就寝。

6月16日 シェルブール Epicentre
昼過ぎ起床。バックアップ作業後に、省いていた曲をギリギリまで録音する。179曲ぐらい録った筈。16時過ぎ、車3台に分乗して会場のEpicentreへ向かう。途中で小林君は帰る。お疲れ様。Epicentreは港沿いのステキなロケーション。このまえスタジオに遊びに来ていた人たちの姿あり。Shiuと打ち合わせ。大谷君と街を散歩。パンを買う。会場に戻ってサウンドチェック。曲順を決め、楽譜を整理。パンと野菜のスープで簡単な食事。数日ぶりのライブ。最初はマクラウドのソロ。アカペラで歌ったり、お客さんに「ポンポン」とベースラインを歌わせたりする。次に僕とShiuの即席ユニットLes frères mélodica。打ち合わせた事は、半々の打率でうまくいく。川手さんのソロ、Shiuのソロと続き、最後にマヘル。今日のメンバーは工藤さん、大谷君、僕、川手さん、Shiu、マクラウド、長谷川さん。歌ものを中心に選曲したのが良かったのか、よく受ける。ダブルアンコールがあり、Each Man Kills the Thing He Lovesで終わる。楽屋で主宰のトム・ウエイツみたいな人と話す。イギー・ポップみたいな女性も居て、yumboを知っているという。マニュエルたちと別れると思うとやや感傷的になる。大谷君と車で移動。誰の友人なのか、張りつめた感じの女の人のアパートに泊まることになる。顔つきから、これまでの人生での苦労が刻み込まれている感じがする。水を一杯もらいたいが、なかなか言い出せず。キッチンに彼氏のものらしきDJブースがある。夏海さんにメールを送る。今日は大谷君と同衾。

6月17日 シェルブール〜ランス Reims Punknroll House
10時過ぎ起床。カフェオレとパンを頂く。名前も分からなかったけど、昨夜はどこか悲しそうな冷たいような印象だった女性は、今朝はとても暖かく優しい印象。車で待ち合わせ場所のEpicentreへ。皆さんと合流。レンタカーに荷物を積み、マクラウドの運転で11時半に出発。川手さんは電車移動するとのこと。後部座席にShiu、大谷君、長谷川さん、僕がギューギューに押し込まれる。1時間後、サービスエリアで休憩。ドロップを買う。15時に小さな村で休憩。教会の広場、地面に着地すると死ぬ鳥の話など。17時にドゴール空港に着き、長谷川さんはここから帰る。お疲れ様。車中では工藤さんのフランス語の発音の練習が過剰に続けられる。18時半頃にランス着。会場であり宿泊先でもあるReims Punknroll House着。フツーのアパート。ここで本当にライブが出来るのだろうか。夕食にキッシュ、ピザ、ラビオリなど頂く。川手さんも合流し、曲順を決める。ショーのOAは地元ランスのバンド。ボーカルはノンPAで頑張る。ナードだけど熱血な感じで、ちょっとVirgin Insanityを思わせるところがある。次にマクラウドのソロ。マヘルのショーは、反応がいまひとつ。主宰者が頑張ってブラボーと言っている。まあこういう日もあるだろう。今日のメンバーは工藤さん、大谷君、僕、川手さん、Shiu、マクラウド。終わってから、パリ在住の日本人から、パリの蚤の市の話を聞く。マクラウドのプライベートな話を聞く。いつも楽しそうに振る舞っているけど、沢山悲しい事があったんだね。夜は会場だったフロアにマットレスを敷いて2時ぐらいに寝る。

6月18日 ランス〜パリ Criox de Chavaux
8時前に目が覚める。シャワーを使おうとドアを開けたら誰かの部屋で、ジョン・ケイルみたいな人が裸で寝ていたので慌てて閉じる。シャワーを浴びたら急激にまた眠くなり、二度寝。夢に工藤さん、さやさん、植野さんが出てくる。9時頃起床。皆で近くの大聖堂を見物。工藤さんの希望により酒屋にも寄る。355ユーロのウイスキーが売っていたりする。カフェに入りエスプレッソ。フランスで買ったゴロワーズがうまい。13時近くに出発。ここで川手さんと別れる。お疲れ様でした。サービスエリアで休憩。蟹のサラダ、ジュース、ポテトチップスなど買う。15時にはパリ着。遠くにエッフェル塔、ルーブルを見る。サン=ラザールの近くで一旦停車。工藤さんとマクラウドが、宿泊先を提供してくれるアパートの持ち主に会いに行ったりして、しばらく暇になる。街をブラつく。マックでコーヒーを買おうと思ったら日本とシステムが違っていて、コインで買うようだ。レンタカーを返しに行き、地下鉄を乗り継いで移動。宿泊先の部屋はアパートの8階にあり、荷物を持って上がるだけで死にそうになる。取り敢えず近くのスーパーへトイレットペーパーや水などを買いに行く。途中、メリエスのスタジオ跡を偶然見つける。アパートに戻り、部屋の持ち主を待つ。疲労。21時頃、サミュエルとメグミさん、犬のリョータが来る。彼らは隣の部屋に住んでいた。彼らの友人のフランス人、ドイツ人が次々に来る。ドイツ人の女の人にグイグイ質問される。ヴェルヴェッツやギターの話など。クスクス、きゅうりのサラダ、ナス、カブの蜂蜜煮のような料理、グリルソーセージなど頂く。大谷君と街をブラつく。ケバブ屋でジュース購入。黒人の青年に声をかけられる。薬屋になぜか行列。12時過ぎに、また8階まで階段を登って疲れ果てて寝る。

6月19日 パリ Criox de Chavaux
6時半頃、工藤さんはパンを買うと言って出て行った。8時頃に目が覚め、大谷君と外出。パンを買い、中国人がやっているらしきカフェに入る。一服していたら工藤さんが通りがかる。部屋に戻ってマクラウドと今後のスケジュールの相談。サミュエルの部屋でシャワーを借りるが、ドアが無いので戸惑う。11時頃、4人で外出。近くのネットが使えるBrazza Caféに寄る。夏海さんにメール。大谷君とお茶する。シニード・オコナー似の店主。ボルドー〜パリ〜コペンハーゲンの道程がまとまっていないらしい。ボルドーへはレンタカーで行くことになる。地下鉄はOne Day Travel Ticketを買う。5.50ユーロ。マクラウドは途中で別行動。Trinité - d'Estienne d'Orvesという駅で下車。少し道に迷う。トルコ料理の店で昼食。工藤さんのお目当てだったモロー美術館は休みで、非常に残念。モンパルナスへ行くが、観光地だけあって、なんだか原宿みたいで拍子抜けする。適当なカフェでエスプレッソを飲む。ゴロワーズをカートン買い。地下鉄でセーヌの近くまで行こうとするが、サンジェルマンデプレで間違えて降りてしまう。道を間違えて反対方向に。何とかセーヌ左岸に辿り着くも疲労。居並んだ古本の屋台が面白そうなので、工藤さん・大谷君と別行動。一軒ずつ仔細に見ていき、フライング・リザーズのフランス盤7"や、ZIGZAG、夏海さんへのお土産の小さな鞄などを買う。どれも安い。地下鉄の駅を探して歩く。適当な所で乗っても乗り継ぎが分かりやすくていい。マクラウドが「レコード屋があるかも」と教えてくれたBellevilleで下車。ここは移民度が高いのか、通行人の雰囲気が独特でいい感じ。ギルバート・オサリバンみたいな風貌の青年が近寄ってきて「怖いな」と思ったら、なんとグラスゴーのショーを観たのだという。こんな偶然があるものだろうか。次のショーについて訊かれるも、全くスケジュールを把握できていないので謝る。更にあちこち歩いて、ようやく古本とレコードを置いている店を発見したが、ここは全く使い物にならず。無目的的にブラつく。20時頃、疲れ果ててアジアっぽい店構えのレストランに入り、フォーを食べる。7ユーロ。店を出たら雨。地下鉄でCriox de Chavauxへ戻る。スーパーMONOPRIXで買い物し、アパートに戻った直後に雷、大雨。部屋の鍵を持っているマクラウドが不在のため、トイレで寝る。21時半に大谷君がずぶ濡れで帰る。さらに1時間待ち、ようやくマクラウドが帰ってきて部屋に入ることができた。疲弊。23時過ぎに工藤さんも戻り、サミュエル宅でレンタカーの予約などする。0時過ぎ就寝。

6月20日 パリ〜ボルドー Le centrale
9時過ぎ起床。マクラウドと工藤さんは車を取りに出かけていた。10時半ぐらいに荷物を下ろす。車が軽自動車だったのでビックリする。4人分の荷物で車内がパンパンになる。11時に出発。車内でワイルドマン・フィッシャーを聴く。途中、スーパーに寄ったり、気持ちのいいパーキングエリアで休んだり、ガソリンスタンドでコーヒーを飲んだりする。走行中、工藤さんは窓からオリーブの種を捨て続けたり、シートに逆に座ったりする。実に9時間かかってボルドーのLe centraleに到着。カフェかレストランなのかな? 奥に広いスペース。楽譜を揃え、打ち合わせ。日本が好きだという女性にしつこく質問され疲れる。今日のメンバーは工藤さん、大谷君、僕、マクラウド。ずいぶん人が減った。今日のショーは、完全にお客さんと我々の波長が合わないまま時間が過ぎていった。やっていることはいつもと変わらないんだけど、全然受けない。マクラウドはいつになく攻撃的なノイズを出す。「MISAKI」で終わる。アンコールが来るが無視。終了後、楽器をLe centraleに預けて夜の街へ。グローサリーでワインを買って、噴水のある広場でまったりする。大谷君がソーセージを買ってくる。どこからか変な絵も貰ってきた。マクラウドの、ボルドーに対する屈折した思いを聞く。車に戻るかと思いきや、3時ぐらいまで街をグルグル歩く。メンバーの一部に不満が募る。宿泊先のアパートに到着。アパートまでの道のりがきつかった。女の人が居て、この家の人だと思っていたが、翌朝そうではないことが判明。なかなか広い家で、レコードや楽器が沢山ある。マクラウドと一緒の部屋で寝る。

6月21日 ボルドー F​ê​te de la Musique
10時半起床。家の人に投げ飛ばされる夢を見た。昨夜の女性の赤ちゃんと姉夫婦に会う。レコードを片っ端からかける。 Can、ビーフハート、コレット・マニー、アラン・ヴェガ、チャーリー・ヘイデン、モンクなど。シャワーは壊れており冷水しか出ず。昼過ぎに車で街へ。工藤さんたちがネットをしている間に大谷君とお茶する。Le centraleへ楽器を取りに行って一旦車に積み、再びネットを使うということで徒歩移動。古道具屋を見つけて入ってみると、オモチャみたいなミシンが売っていて、いいなと思ったが123ユーロもする。マクラウドに中古レコード屋の場所を教えてもらい行ってみる。大量の7"を見たが、カスばかりで残念。ケバブ屋で食事。大谷君が頼んだクスクス+チキンにすれば良かったと後悔。ミニアンプを共有するための二股シールドを買う。別の古道具屋を発見。可愛いメロディカがあったが64ユーロもする。車に戻って二股シールドを試すがうまく鳴らない。が、マッドサイエンティスト・マクラウドの知恵によって鳴るようになり、18時頃から路上での演奏を開始。ひたすらBDJ。偶然通りかかったマクラウドの友達のカップルも加わり盛り上がる。夜中からLe ton mité、PAN状態。ベースラインで無理矢理BDJに戻す。楽器を仕舞ってからはマクラウドのラップによる名曲How do you wash the clothesの大合唱で幕を閉じる。車に乗り込んだら、ずっとウロチョロしていた黒猫のものらしきオシッコの臭い。マクラウドと工藤さんは人混みを車で通りつつ奇声を発したりラップをしたりして騒ぐが、宿に帰った途端に二人とも寝てしまう。なんなんだ。大谷君とコーヒーを飲みつつ話す。日記のメモを書いて2時半頃寝る。

6月22日 ボルドー〜クロー・デ・ボー Thomas Land
10時頃起床。パン、サーディン、コーヒー。荷物を車に積んで出発。スーパーに寄ってバスタオル、電池、飲み物、食料など買い込む。プラスチックの容器に入ったクスクスは軽く3食分ぐらいの量で1.20ユーロは安い。塩分高めだけど。一時間ほど走って、Planet Bordeauxというワイナリーの施設へ。みなさんがテイスティング・ツアーを楽しんでいる間、僕はすることがないので近くを散策。畑が広がるフランスの田舎道を、日に照らされながらトボトボ歩く。何か曲が思い浮かばないかと思ったけど、絶望的なまでに空っぽだ。2時間後に再び車で出発。途中、工藤さんが「ローリエの匂いがする。あそこに木がある」と言う。降りてみると、ものすごいローリエの芳香。何枚か葉を摘んでこの手帳に挟んでおく。マクラウドの友人のトマという男の家、というか広大なキャンプ場に夕方着。森に囲まれた小さな湖があり、そのほとりにテントと小屋がある。トマはこの小屋で生活しているのか、ヴァカンス中で別荘感覚で使っているだけなのか、よく分からない。トマが、彼の森を案内してくれる。いい土があると言って工藤さんは喜び、珍しい苔があると言って慎重に掘り起こし、美穂さんに送ると言って小さな箱に入れる。トマは畑もやっていて、工藤さんが少し作業を手伝う。その後も小屋に置いてあったバンジョーと大谷君のギターでセッションしたりして上機嫌だった。トマトソースを作り、シェルブールで貰った2種類のパスタを食べる。しかし、料理をするにはなかなか厳しい設備である。23時頃、テントで就寝。

6/23 クロー・デ・ボー Thomas Land
8時前に目が覚める。工藤さんとトマは既に起きて活動していた。湖に入って水浴びしてみる。トマが言うほど暖かくは感じないが、上がった後はそれほど寒く感じない。トマの鶏がジャンプしながら卵を産むのを見る。工藤さんが一念発起して手製のオーブンを瓦など使って試作。トマは感激して、湖畔のスロープを掘って本格的に作ることになる。昼頃、車で街へ。コインランドリーで洗濯している間、Cyber Cocoへネットしに行く。紙コップのコーヒーが薄くてまずい。夏海さんからメールあり、返信する。ランドリーに戻って乾燥。時間と金がかかる。歩いてスーパーへ。食材、ジュースなど買う。軽食。明後日はPau(ポー)という街、その次はSers(セール)という所でショーがあるとのこと。パリには29日から4日に滞在するが、ショーがあるかどうかは分からない…という予定。トマのキャンプ場に戻って、引き続きオーブン作りを再開。あっという間に出来上がり、矢も盾もたまらずという感じでピザを焼くが、なかなか火が通らず苦心。工藤さんが新たに書いたBDJの楽譜をこの手帳に書き写す。寝るまでに、ピザは6枚焼いた。最後の1枚でプロっぽい味に到達。23時過ぎに就寝。

6/24 ポー
8時起床。工藤さんが焼いたトマトとパン、トマが仕込んでおいたスモークピザ(失敗)を頂く。工藤さんは、自分で店を開くなら焼いたトマトと紅茶しか無い店をやりたいと言う。ジャンベみたいな音がするなと思ったら、牛のベルだった。今日は朝から大勢の釣り人が遊びに来ていて騒がしい。トマ考案のトイレは、用を足した後におがくずを上からかけて、火種を入れて燃やす、というもの。燃やしたあとの残骸は肥料になるようだ。車で出発し、ポーへ向かう前に近くの湖畔のカフェに寄って、トマにエスプレッソを奢ってもらう。うまいコーヒーを久しぶりに飲めて満足。11時過ぎに再出発。昼過ぎ、サント=フォワ=ラ=グランドという街に立ち寄り散歩。適当に入ったレストランでチキンとマッシュルームのオムレツで昼食。しばらく車で寝る。16時過ぎ、「アルメニアックを飲む」というよく分からない事情で、名前も分からない静かで小さな町に寄る。「もし自分がこんな町で生まれたらどうなるだろうね」と工藤さんが言うと、「サッカー選手になりたいと思うでしょうね」と大谷君は言う。17時過ぎに目的地のポーに到着。やたらでかい城の周りを通って焼き物の露店を見物。どれも安い。夏海さんへのお土産にブルーのカップを買う。明日のライブの主催者で、ザッパみたいな風貌のジェロームが娘さんのイヴォンヌと現れる。宿泊先である彼の家へ。ここは妻のクレモンさんと3人暮らしだが、驚くほど広い。小皿でたくさんの料理とワイン、お茶などを出してくれて、スペイン流のもてなしをしてくれる。この家では音楽は100%、PCで再生される。ジェロームのセレクトでムーンドッグ、レジデンツ、ムタンチスなどがかかる。音楽よりも、我々はイヴォンヌちゃんの可愛らしさに参っていたのだが。スパニッシュライス(魚介の入っていないパエリアみたいな料理。具材にレモンの果肉など入っている)が美味しい。ジェロームたちの友達が来る。みんな英語の発音が聴き取りづらく会話が難しい。ジェロームが見せてくれたクレモンのダンス・パフォーマンス映像、室野井さんの映像を観たり、ジェロームがやっているメタリカみたいなバンドを聴いたりする(1曲1曲解説してくれるが言葉がよく分からない)。PCを借りて写真を送る。いつの間にかその辺の楽器でセッションとなるが、もう夜中だったので上の階の住人に床をドンドン叩かれる。リアル『テナント』だ。1時過ぎ就寝。

6/25 ポー Studio Henri Ⅳ
9時起床。みんなまだ寝ている。工藤さんは二日酔とのこと。シャワーを浴びて日記のメモを書く。パリの中古レコード屋の場所を調べてみたが、2軒しか見つけられず。朝食にパンを頂く。調子が悪かったカメラはスマートメディアを初期化して復活。暇なのでネットを借りたりボーッとしたりする。昼食はスパを頂く。甘みのあるトマトソース。15時過ぎ、ジェロームの車に荷物を積み、我々は歩いて会場へ。大学みたいな建物の一室に辿り着いて会場セッティング、サウンドチェック。学祭みたいですねと大谷君と話す。会場の名称はStudio Henri Ⅳというらしいけど、アンリ4世と何か関係があるのだろうか。会場のすぐ隣に幼稚園があって、子供たちのお遊戯を見に行く。花とミツバチ。曲順の打ち合わせ中、トマも合流。19時半開演、最初にマクラウドソロ、子供たちに受けている。小休止のあとマヘル。今日のメンバーも工藤さん、大谷君、僕、マクラウド。辛かったボルドーから一転して反応が暖かく、癒される。トマがずっと嬉しそうに客席から見ていた。Donne-moi a boireで終了。別室で小屋打ち。牛を使ったスペイン料理、ポテト、パンを頂く。ジェロームのホスピタリティーに感動・感謝する。似顔絵大会。23時過ぎにジェローム宅へ帰る。イヴォンヌはまだ起きている。夏海さんにメールを送る。工藤さんがYouTubeで森田童子やちあきなおみを、その場に居たエジプト人(名前分からず)にプレゼンする。1時頃就寝。

6/26 ポー〜クロー・デ・ボー〜セール Hameau de la brousse
10時起床。ontonson吉本さんに返信。昨夜の録音を聴く。ジェローム一家と別れて出発。ロングロングドライブ。昼頃、ドライブインみたいな店でフォアグラのパテのサンドイッチとコーヒー。サント=フォワ=ラ=グランドの店に再び立ち寄り、工藤さんが置き忘れた服を回収。車内でエクレアを食べる。17時にトマのキャンプ場に戻り、荷物をバンに移して出発。1時間ほどで今日の目的地であるセールのHameau de la brousseに到着。昔からある数軒の空き家をアーティストたちが生活や制作の場として利用している小さなコミューンのようだ。Hameau de la brousseの主宰者は中年の夫婦と息子さんで、このお父さんは「大佐」っぽい感じの貫禄。彼らの家の二階の広いスペースに機材をセッティング。ギターはミニアンプをマイキングしただけだが、空間のナチュラルリバーブでいい感じの音になる。少し練習した後、夕食にカボチャのラザニアを頂く。かなり淡白な味。22時半ぐらいに何処からかお客さんが集まり、マクラウドのソロから始まる。工藤さんが鍋釜を叩いてサポート。今日のマクラウドは短め。マヘルはBDJが中心のショーで、とても反応が良く幸せな雰囲気。タイトにまとまった内容で、大幅にメンバーが減って以降では一番良かったように思う。終了後、トマのバンに乗り込んでキャンプ場へ帰る。0時過ぎ着。工藤さんとマクラウドは即寝し、大谷君、トマと3人で話す。トマは29才だという。ZENIGEVAを知っていて驚く。夏海さんのことなど話す。1時過ぎ就寝。深夜、蛙が一斉に鳴き出して目が覚めたが、大谷君が何かしたのがきっかけだったようだ。

6/27 クロー・デ・ボー Thomas Land
9時過ぎ起床。マクラウドと工藤さんが湖にボートを出して釣りを試みる。しかし二人ともボートでユラユラ動いてるし、エサもコーンだし、これじゃ釣れないだろうと思う。車で街へ。何かの雑誌の企画で宇波拓さんと往復書簡を書いていて忙しい工藤さんをCyber Cocoで降ろし、スーパーで買い物。煙草を売っている店を探してひたすら歩く。道端に、カラカラに乾いた鳥やヤマアラシの死骸。通行人に尋ねたりしてどうにか煙草をゲットして、皆さんが待つタイ料理屋へ。コーヒー。Cyber Cocoへ。大谷君とうつ病の話になる。再び車でキャンプ場へ戻る。しばし呆けてからカセットでの野外レコーディングを始める。マクラウドに木を切ってもらいノコギリの音をアレンジに取り入れたり、湖の両岸に離れて音を出したりする。途中、街で買ったさきイカを貪りつつ休憩。今日は工藤さんがあまり音楽モードではないらしく、あまり進まず。マクラウドとパスタソース対決。彼はトマトソース、僕はアボカドとマッシュルームのを作る。マクラウドが焼いたパンが美味。21時だというのに、トマはボートで湖に出て泳ぐ。自分の湖だから寒くないのだと言う。夜中にトマがフレンチトーストを作ってくれて、ガブガブ食べて22時半頃には寝てしまった。

6/28 クロー・デ・ボー Thomas Land
9時半起床。大谷君がベッドの真ん中に寄っていて、かなり辛い体勢で寝ていたせいか首が痛く、ちょっと風邪っぽい。葛根湯を飲む。工藤さんはベッドの板が壊れていて、骨盤が痛いという。骨盤って。水浴び。工藤さんが、調理台と風呂釜も作りたいと言い出す。話を聞いただけで疲れる。工藤さん、マクラウドと街へ。Cyber Cocoで夏海さんにメールを送る。近所のグローサリーで接着剤を買う。ついでにスーパーで夕食の買い出し。レタス、いんげん、パセリ、コーン、ツナ、ソーセージなど。マクラウドが蜂蜜酒を買い物かごに追加。工藤さんを拾って戻る。大谷君はまだベッドの真ん中で寝ておりちょっと心配になるが、僕と工藤さんが録音を再開すると飛び起きて来た。途中、オムレツとサラダを作る。再び録音に取り掛かり、20時までノンストップで演奏し続ける。マクラウドの姿がいつの間にか見えなくなっていて、心配になり森で探したりする。トマはいつの間にか出かけており、先に夕食にする。トマが作ったパプリカのパンの出来はまあまあ。録ったものを全て聴きながら曲名を書き出しておく。「こうやって自然の中に居るようでも、結局自然などは本当は目に入っていなくて、ここにいる蛙も自分の中に閉じて勝手に鳴いているんですよ」と工藤さんが言う。よく意味が分からない。一旦寝ようとしたが、工藤さんは眠れないと言って、蛙の声に呼応してボイスパフォーマンス。トマがちょっとキレる。23時過ぎ就寝。

6/29 クロー・デ・ボー〜パリ Hoche
9時前に叩き起こされ、慌ただしくトマに別れを告げて出発。車内でウィリアム・テル序曲がかかっていて、ますますいかれた感じがする。スーパーに寄って買い物。カフェでコーヒーを飲んで再出発。スーパーで買ったペンネを食べる。16時過ぎにパリに到着。宿泊先であるマクラウドの友人宅はアパートの5階にあり、シャワーがちゃんとあるのが有難い。家主は二週間ぐらい留守らしいので気兼ねもいらない。キャンプ場と長距離の移動でストレスがたまっていたのか、マクラウドは嬉しそうにしている。工藤さんとマクラウドが車を返しに行っている間、大谷君とアパートの近くの大きなスーパーE. Leclercで買い物。水、野菜、卵、牛乳など。アパートに戻ってカレーを作り始めたが、缶切りが無いことに気づき買いに行く。パリのスーパーのレジは行列が凄くて、缶切り一つでかなり待たされる。日本と違って店員が椅子に腰かけて仕事しているのは良いと思うけど。大谷君が米を炊き、僕はカレーを作る。工藤さんたちが戻り、夕食にする。シャワー浴びる。ジョン・ケイル、テレヴィジョンなど聴く。いざ寝ようと思ったら、薄い寝具の寒さと腰の不調で眠れず。何度も起きてキッチンで喫煙。6時前に諦めて洗い物をしたり、朝食のチャーハンを作ったりする。マクラウドが起きてきて「なんで皆はこっちの部屋で寝ないんだ!」と言うので行ってみたら、そこにはちゃんと掛け布団があり、非常に快適に眠ることができた。

6/30 パリ Mycroft Galerie
10時起床。チャーハン食べる。クリニャンクールへ行くことになり、11時頃出る。マクラウドは洗濯をしたいということで残る。北駅で乗り換えてすぐ到着。つまらない土産物屋が多く「こんなものなのか?」と思いきや、もっと進むと圧倒的なボリュームの古道具屋が密集した迷宮のようなエリアに出くわす。しかし、やはり観光客相手の商売なのか、気軽に買える値段のものは少ない。ここは全部はとても見られないし、自分の見たいところもじっくり見られないので、明日また一人で来ようと思う。結局、今日は工藤さんがスプーンを買っただけだった。北駅の近くのインド料理屋でPlat de jourを頼む。なかなか美味いが、大谷君はロンドンのカレー屋の方が美味かったと言う。14時半にHocheのアパートに戻る。クレイオラを聴きながら日記を書く。昼寝。17時頃に起きて新曲の楽譜を急いで書き写して外出。地下鉄でOberkampfへ。Mycroftという小さなギャラリーが今日の会場。ピカソの目、という写真展をやっている。楽譜を揃える。19時過ぎからマクラウドソロ。続いてマヘル。お客さんは10人も居なかったと思うが、けっこう受けた。スーツの男が連絡先を訊いてくる。終了後、1時間ぐらい大谷君と雑談などしてウダウダする。マクラウドはパリの友達と何処かへ行って飲んだりしていたようだが、工藤さんは疲れてるし、僕らも楽器を持ってウロウロしたくないので別行動となる。Hocheに戻り、城外城という名の中華レストランで13ユーロのバイキング。日本食に近いせいか、嬉しくて過剰に食べそうになり危険。満腹になり、3人でユラユラとアパートに戻る。ロスキレの演奏内容について話す。マクラウドは満足そうに帰還。アパートにあったアマンダ・レアのLPを聴いて寝る。

7/1 パリ Hoche
10時前に起床。皆さん出かけるというので一緒に出る。多分、僕が最も早く帰るので鍵を預かる。地下鉄で皆さんと別れてクリニャンクールへリベンジの旅に出る。巨大なワゴンに無造作にLPやCDを詰め込んだ業者が何軒かあって、さっそく手強い…。お土産に良いかな、というレコードはある。レコード以外の店もあちこち見て回るが、手頃なものはなし。やはりお土産を買う。人形の様々なパーツを売っている店は夏海さんに見せたいと思ったが、写真撮影お断りとのこと。かなりの範囲を見て回ったと思うが、思ったよりレコードは無いことが分かったので、カルネ(回数券)を購入して地下鉄でサンティエ、ヴォールテールなど回る。下調べしていたレコード屋はすぐに見つけられたが、なんとどちらも閉まっていた。日曜日にレコード屋が休むものだろうか? 18時頃、パンと水を買ってHocheへ戻り、シャワーを浴びて寛ぐ。E. Leclercが休みなので、インド人らしき人の肉屋でホールトマト、ヒヨコ豆の缶詰を買ってカレーを作る。CD棚にThis Heatのボックスがあったので、ボーナスのライブ盤を聴く。やはり部屋にあったHideji Odaの漫画「拡散」を読む。フランス語だけどなんとなく解る。部屋の持ち主は漫画好きらしく、花輪和一の仏語版などもあった。23時過ぎになっても誰も帰らず、勝手にオムレツを作ってパンと一緒に食べる。0時半ぐらいに工藤さんと大谷君が戻る。大谷君にご飯を炊いてもらい、作ってあったカレーを食べる。モロー美術館の図録を見せてもらう。1時過ぎにマクラウドも帰ってきた。2時頃就寝。

7/2 パリ Hoche
10時過ぎ起床。昨日のカレーを食べるが、ご飯が固くて何これ?と思ったら、工藤さんが炊いたタイ米とのこと。そのせいかどうかは分からないが、ジオグラフィックのマグカップをくれた(このカップは今も大事に使っている)。12時前に外出。地下鉄で、蚤の市があるというモントレイユへ向かう。街中に沢山テントが出ていて、人も多く盛況。道端には物乞いまで居る。道路沿いのテントは貧しい感じの店が多いが、その分ものが安い。シャツを2.50ユーロで購入。レコードも少しあったけど、沢田研二のフランス盤LPで手が止まっただけだった。14時頃、再び地下鉄でヴォルテールへ。昨日休みだと思っていたArts Sonoresはどうやら閉店したみたいだ。駅前で煙草を買い、また地下鉄でサンティエへ。Chez Youriという店、今日は開いていた。どうやらDJ寄りの店らしく、僕はあまり見るものが無かったけど、1枚だけ、コレット・マニーのLPを8ユーロで購入する。Hocheに戻り、スーパーで買い物。鶏肉、卵、洗剤など。17時過ぎアパートに戻ってマニーを聴く。20時過ぎに大谷君、程なくして工藤さんが帰る。親子丼を作る。マクラウドも帰り、夕食にする。マスタリングの重要性、フランスの夏休み(ヴァカンス)の話など。2時頃就寝。

7/3 パリ Hoche
11時過ぎ起床。雨。台所を片付ける。大谷君は昼過ぎに病院へ行く。1時過ぎに工藤さんと出かける。ピガールで地下鉄を降りて散歩。本屋に2軒寄る。3.95ユーロの絵本を購入。ムーラン・ルージュを通ってモンマルトルへ。ピガールでは昼日中から呼び込みをしているというのに、こちらは観光地然としている。あちこち歩いて、工藤さんが探していたAu Lapin Agileを偶然見つける。モンマルトルの安めのレストランを探してスパを食すが量が少ない。エスプレッソが2.80というのも高い気がする。店を出たら雨。地下鉄で工藤さんと別れ、Hocheに戻る。17時過ぎに大谷君帰る。E. Leclercで夕食の買い物、3.31ユーロ。玉ねぎの計り売りのシステムがよく分からず、英語を話そうとしない店員にキレられる。ショーン・コネリーみたいな優しいおじさんが間に入ってくれて解決。アパートに戻ってトマトソースのペンネを作る。23時頃に工藤さん帰る。ロスキレの選曲は予想通りあまり進まず残念。マクラウドが帰ってきたのは1時頃だったろうか。

7/4 パリ〜コペンハーゲン
6時半起床。7時頃Hocheを出る。北駅から電車で空港へ移動。エスカレーターで乗り合わせた黒人男性に対して、あからさまに「シッシッ!」と、犬にするような仕草をする白人女性を目の当たりにする。電車内では、通路にはみ出した大谷君の荷物を忌々しげに睨みつけている、身なりの良い白人たちの視線が非常に不快だった。スーツケースが20kgを少し超えたので、レコードなどは手荷物にする。10時半にデンマークへフライト。13時前にはコペンハーゲンに到着。Shiuが迎えに来てくれていた。電車で中央駅、そこからバスに乗車。フランス人らしき黒人男性に話しかけられる。Shiuは広いアパートを友人の家族とシェアしており、普段は子供部屋に使っているらしき部屋の2段ベッドを提供してもらえた。遊び盛りの子供たちはいつもと違う部屋に追いやられているみたいで、何だか悪いなと思う。昼食にパン、サラミ、魚の酢漬けなど頂く。表通りに出て両替。ロスキレは毎年、雨で地面がひどくぬかるむというので、長靴を買いに行く。『マニトウ』について大谷君と話す。スーパーで買い物。シリアル、牛乳など。Shiu宅の勝手口の階段が喫煙スペースになっており、適度にさびれているのがネオレアリズモの映画みたいでいい感じ。さやさん、植野さん、ニカさん、青柳さんが来て一気に賑やかになる。Shiu作の中華料理を頂く。美味。ツアーの話、明日以降の相談。22時頃に皆さん帰る。ネットを借りて夏海さん、大場さんのメールを読むが、返信する元気なし。子供の2段ベッドで就寝。

7/5 コペンハーゲン
9時前に起床。大谷君が先に起きているのは珍しい。朝食はシリアル。工藤さんとマクラウドが来て、ようやく選曲作業。Shiuがデンマークのオープンサンドというものを買ってくる。この丁度いいタイミングで食いしん坊のテニスコーツが来る。ジャンケン。15時ぐらいにShiuとマクラウドだけ先にロスキレへ行く。あとから出てカフェに寄る。工藤さんと大谷君はまだ行かないとのこと。中央駅で元宮さん、ニカさんと合流。ロスキレへの電車代が、仙台─東京の新幹線代ぐらいする。ロスキレ駅に着いてホッとしたのも束の間、ここから臨時列車に乗り換えるという。乗り込んでから発車まで50分ぐらい待たされる。車内で何語なのかよく分からない大合唱が始まる。ニカさんのお寺での仕事の話など聞く。フェス会場に到着。駅から案外近い。出演者用のテント村を通って会場へ入る。マヘルが演奏するAstoriaを下見がてら覗くと、Matmosが演奏していた。Orangeという会場でよく分からないバンドをチラ見。屋台でカレーを買ったら、ボンカレーにケバブが乗ったような雑なものが出てきて閉口する。休憩所のテントでビル、青柳さん、Shiuと合流。今回マヘルを呼んでくれたキュレーターのラスムス、出演者のTaxi Taxiの2人にも会う。22時から、会場内の一番大きいステージへビヨークを観に行く。ここへ来て雨足が強くなる。人形のようなコスチュームの女性たちが管楽器でバックアップ。しばらくは人混みの中に立ち尽くしてスクリーンに映るステージを眺めていたが、少し離れた場所にある塀の上によじ登って座るとかなり快適に観られることが分かり、ステージも肉眼で楽しめる。ビヨーク終了後、待ち合わせしていた7番出口で集合。マクラウドだけが行方不明。心配だけど、「大人なので何とかするだろう」という結論に達する。行列で移動のバスになかなか乗れず。さらにロスキレ駅では列車が超過密状態で我々も弾かれてしまい、同様に乗れなかった人たちのイライラで暴動が起きるんじゃないかという険悪な空気になる。3:20にもう1本臨時列車が来るとアナウンスされていたが、フェス関係者のキャスパーという男が我々のために長距離タクシーを手配してくれて、4時ぐらいにはどうにかShiu宅に帰り着くことができた。ネオレアリズモの階段で植野さんと喫煙しつつ雑談。もうクタクタだ。マクラウドはどうしているだろう?

7/6 ロスキレ Roskilde Festival Astoria
10時頃、工藤さんに叩き起こされる。大谷君と防寒着などを買いに出る。11時半に迎えの車が来て出発。約1時間でロスキレ着。昨日とはえらい違いだ。アーティスト用のエリアは別世界だった。フリーの昼食(ベジ/ノンベジ)、コーヒーもあり、楽屋はシャワーとトイレを完備しており清潔。大谷君、工藤さんとLoungeへ。バックステージパスを受け取り、ニカさんのライブを覗く。工藤さんがパスの腕輪を壊してしまい、少し面倒な事になる。楽屋に戻って曲選びの詰めと練習。夕食を取り、ギリギリまで練習してからサウンドチェックのため、サーカステントみたいなAstoriaに入る。21時半から本番。女性司会者のMCがあり、客席の過剰な反応に驚く。今日のマヘルは工藤さん、大谷君、マクラウド、僕に加え、さやさん、植野さん、ニカさん、Shiu、青柳さん、ビル、飛び入りした知らない人たち、というメンツ。予定していたセットの全部は出来なかったが、アンコールで「無限の鯨の行列がふたつずつ」が演れたのは良かった。終了後、プレスが多数来て、工藤さんが連続でインタビュー攻めにあう。マクラウドは今日で34才になったという。1時にバスが来て、皆でホテルへ移動。ロビーでマクラウドの歌と大谷君の暗黒舞踏。部屋はShiuとシェア。植野さんと大谷君の部屋は喫煙出来るので居座ってトーク。深刻な話からモータウンの話までいろいろ話す。さやさんもちらっと顔を出す。3時半就寝。

7/7 ロスキレ Roskilde Festival Astoria
10時近くに起床。パンとソーセージとコーヒーの朝食。バスで会場へ。今日はテニスの関係者としてLoungeの楽屋へ。元宮さんの記録を手伝う。Loungeは大きな納屋を改装したような「でかい小屋」という感じの場所。元宮さんの説明を受け、録音を担当。ライブ中、会場の電気が落ちてしまい、ニカさやのスタートは急遽アンプラグドとなる。ノンマイクでアコギ、ピアニカ、パーカッション。非常に盛り上がる。少しして電気が復活し、改めてニカさやの普通のセットも演奏。15時からテニス。ビルと青柳さんが参加。Mural of Musicが聴けたのは嬉しかった。屋台で、今日はタイカレーを買ってみる。まあまあ普通。また雨になる。Loungeに戻りTaxi Taxiのショーを観る。植野さんがレッチリを観に行くべきだと主張するが、なぜか誰も乗らない。大谷君、元宮さん、さやさん、ニカさんと買い物エリアをぶらついたり、大谷君と安住の地を求めてブラブラしたりする。工藤さんとバッタリ会ってLoungeでちょっと休んでから、21時半に物見遊山でザ・フーを観に行く。最初は遠慮して端で観ていたが、突然目の前のフェンスが開いて中へ入らざるを得なくなり、いつの間にか真ん中の2列目あたりで熱狂的ザ・フー・ファンの女の子に肩を組まれながら観ることになってしまった。イントロで「これこれ、これいいよねー」という感じで喜んでいるので、全然知らない曲だけど「ですよね…ですよね…」と頷く。ザ・フーのアンコール前の隙間を狙って脱出。集合場所へ辿り着く。バスでホテルに戻る。Shiuは即寝。浴室でブーツを洗う。今日も植野・大谷部屋で話し込む。さやさん、元宮さんも加わる。ザ・フーの話までは良かったが、メタリカの映画の話で雲行きが怪しくなる。人々が情報や知識で武装し過ぎという元宮さんの主張にさやさんが反駁。途中から壮大過ぎて何の話なのか分からなくなった。4時半頃部屋に戻って寝る。

7/8 コペンハーゲン
10時半ぐらいに起こしてもらい朝食。送迎用のバンに乗車してコペンハーゲンへ。昼にはShiu宅に戻っていた。工藤さん、大谷君と外出し、近くの公園内のカフェで一服してから美術館へ。グロテスクな彫刻、古ぼけた絵と新しいがしょうもない作品が並置されていて微妙。12世紀のテンペラ画、マチス、ノルデ、ピカソ、ヤコブセンなどはとても面白い。売店で鉛筆を買う。帰りに川の近くのスーパーでビールなど買ってベンチで休憩。再びバスでShiu宅へ戻る。ShiuのPCで夏海さん、山路さん、大場さんに返信。知恵子さんからメールあり。Shiu作の中華で夕食。Shiuのルームメートの家族がトルコへ発つ。日記メモを書く。工藤さん、大谷君とロスキレの録音を聴く。なんだかひどく疲れてきて、21時過ぎまで仮眠。夏海さんに返信。大谷君も寝ていたが、23時過ぎに起きてくる。階段で3時間ぐらい話し込む。大谷君もいろいろ不満やストレスがあるのだ。工藤さんは夜中までネットを使っていた。日記のメモを書いて3時過ぎにようやく就寝。

7/9 コペンハーゲン〜マルメ Scaniaparken
9時半起床。朝食はシリアル。バスで中央駅へ。列車でマルメへ。こんなに短時間でデンマークからスウェーデンへ移動できるとは思っていなかったので驚いた。車内にあった新聞に今日のショーの宣伝が載っていた。昼頃にマルメ着。ホテルにチェックイン。4人部屋に元宮さん、植野さん、大谷君と泊まることになる。部屋はまともだが、エレベーターの動きが変。バンに乗りこみ会場へ。着いてみたら海辺の公園だった。海の家の隣にステージが組まれる。ビルと合流。豚肉の串焼きとサラダ、パンで昼食。ビルから、ロバート・ワイアットに『Osaka Bridge』を送ったこと、そのワイアットがDominoと契約したらしいこと、スティーリー・ダンをグラスゴーで観た話など聞く。工藤さんが近くにジェラートの店を発見し、皆で買いに行く。ピスタチオのジェラートを物珍しさで買ってみたが、異常なうまさ。小さいカップで25クローナ。18時15分より海辺のフェスが始まる。ニカさんソロに始まり、テニスコーツ(Riding Into the Sunをカバー)、ニカさや、青柳さん。マヘルの出番になり出てみたら、けっこうな人数のお客さんが居る。今回のツアーでは初の「夏」を長めに演奏。アンコール「danske」。22時終了。植野さん、青柳さんとホラー映画、『ブルース・ブラザース』、世界3大小男、リー・リトナーの話などする。バンでホテルへ戻り、一旦荷物を置いて食事に出る。グローサリーでJohn Silverなる煙草を買う。迷った末、結局ケバブを買う。皆さんバーに行くというので、一人ホテルへ戻る。日記メモを書く。植野さんが戻ってきて喫煙所へ。大谷君、さやさんも加わってトーク。犬が2匹、パンクの女の子も通り過ぎる。部屋に戻り、(の話など。映像も見せてもらう。

7/10 マルメ〜コペンハーゲン
8時半頃植野さんに叩き起こされる。元宮さんは先に帰る。朝食はパン、チーズ、ハム、トマトなど。部屋で植野さん、大谷君と話し込む。うつ病の話など。12時にチェックアウト。駅まで車で送ってもらう。ビル、ニカさん、青柳さんとはここでお別れとなる。朝から風邪気味、喉が痛くてだるい。スウェーデンの工業デザインを展示している建物(これはもしかするとマリメッコかもしれない)の近くのカフェでコーヒー。ちょっと展示も見るが、体調が悪いせいかあまり心に入って来ない。14:42の列車でコペンハーゲンへ戻る。15時過ぎに到着。本当に近い。マクラウドがバスの日付を間違えて乗れなかったトラブルがあったらしい。駅のカフェでカプチーノ。バスでShiu宅へ戻ろうとするが、工藤さんが降りる場所を間違え、けっこうな距離を歩く。疲労。葛根湯を飲んで寝る。夕方目が覚めたら、工藤さん、大谷君は出かけていた。Shiuの友人のサラさんという人が来ている。植野さんとさやさんが来て一緒に夕食、トーク。大谷君から写真をもらう。0時近くに就寝。

7/11 コペンハーゲン
11時過ぎ起床。工藤さんから僕の全身を描いた似顔絵をもらう(このページのトップの画像)。写真の件を頼まれるが、体調が最悪になっており、またすぐ寝てしまう。15時半に起きると植野さんとさやさんだけがアパートに居た。テーブルに残っていたサンドイッチを無理やり食べて薬を飲む。少し話をするが、20時頃までまた寝込む。多少良くなったように思う。さやさんに起こされて夕食。階段での喫煙トークもこれで最後か。明日は5時起きとのこと。Shiuに食費を150クローナ払う。安くしてくれて助かった。21時半頃にまた寝る。早朝に何度も目が覚める。

7/12 コペンハーゲン〜パリ〜北京
4時半起床。食卓にあったナンを食べる。工藤さんも間もなく起きてくる。Shiuと戸口でお別れして出発。人気のない街を工藤さんと歩いていると、日本に居るのと何も変わらない気がしてくる。バスで中央駅、電車で空港へ。コペンハーゲンからパリへは飛行機。動いたせいか、咳が出て調子が悪くなってくる。シャルル・ド・ゴールでチェックイン前に長時間暇になる。工藤さんは荷物をうまく組み立ててベッドにしてしまう。さすが旅慣れている人は違うな…。ちょこちょこ煙草を吸いに外へ出る。中国人の学生の団体がいる。MDを録音。19:10の便が1時間ほど遅れて飛ぶ。9時間半後に北京でトランジット。やっぱりこの空港は好きになれない。北京から成田の飛行機は空いていて快適だった。体調もやや良くなる。

7/13 東京 谷保
18時過ぎに成田着。漢字が沢山目に入ってきて、中国に居るような錯覚をおぼえる。成田エクスプレスで工藤さんと別れて、矢川へ移動。23時頃に関さん宅に辿り着く。夏海さんに電話をかけた。



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