巨星不在後の不安は残るも、マレーシアの多民族パワーに期待したい!

ワールドカップ、日本の勝利は、素晴らしかったですね。
平均身長では5センチ差とはいえ、大男を揃えたドイツのバックスと平均的な日本のフォワードの身長差は日本にはかなりのハンデ、ボール支配率はドイツが圧倒、シュート数もドイツが多く、素人が見る限り、どうやって難敵に勝てばいいのか、少なくとも前半は穴も策もないようにみえておりました。

我慢に我慢の前半、そこを、後半、一瞬の隙を突いた、スピードと連携プレーでの2得点!監督の采配もずばりと当たり、最高の結果が出ました。
あれだけの体格差があり、ドイツの高い技術力の中で、日本を飛び出した選手がプレーしていることに、メンタルの強さを含めて改めて尊敬の念を抱くとともに、一瞬の隙を逃さず狙ったゴールを正確に突く精巧な技術、本当に素晴らしいですね。普段は日本に対して、辛口コメントの世界のメディアが揃って称賛、同じアジア勢の中韓も、文句なしに日本の勝利を讃えていたようです。

見方を変えれば、ドイツは、本来なら勝てた試合を落としたのかもしれません。油断があったとはあまり思えませんが、後半、守備にゆらぎがあったのは確かなのでしょう。勝負の世界の恐ろしさを垣間見た瞬間でもありました。

一次リーグは、コスタリカも油断できませんが、さらなる強豪スペインがいますが期待したいですね。そして、スポーツの力は、ビジネス界が束になってもやはり勝てないなあと思いつつ、本大会のスポンサー企業で目立つ中国勢の動向、今回ははじかれていまずが、前回の開催国ロシアの国民は、内心穏やかではないでしょうし・・・選手を応援しつつ、その周辺事情にも注目していきたいところです。

さて、話をアジアに転じていきましょう、アジアではマレーシアで、コロナで延び延びになっていた待望の選挙が行われました。同国は、いわずと知れた多民族国家。元々英領で、マレー人の地に、労働力として同じく英領だったインド人、さらに、華人が入り込んで、概ね3つの主要民族が暮らしていますが、マレー人優遇政策であるブミプトラ政策が継続されています。

建国から長らく、統一マレー国民組織(UMNO)が、華人系、インド系の政党と共に与党連合の「国民戦線」の中核として国家を率いて、マハティール時代(1985年~2003年:第一次)以降もしばらくは開発独裁と言われていた国でもあります。しかしながら、長年の治世のマンネリ化と汚職の蔓延に市民の不満は高まり、「国民戦線」から離脱した90歳を超えたマハティール元首相が、反「国民戦線」勢力を「希望連盟」としてまとめあげて2018年の選挙で勝利(2018年~2020年:第二次)し、初の政権交代が実現して世界を驚かせました。

しかしながら、「希望連盟」は急仕立ての寄せ集めだった感は否めず、2020年にマハティール氏は辞任、首相の座を本来禅譲予定だったアンワル氏には渡さず、連立組み替えの結果、「希望連盟」は野党に落ちて、「国民戦線」を取り込んだ「国民同盟」が与党になり同党のムヒディン氏が首相に、さらにそれが行き詰まると「国民戦線」のイスマイルサブリ氏が首相となるなど、2018年以降、連立の組み替えが続いて政治的に不安定になっていました。

市民としては、コロナが終息すると今度は物価高、まずは政治を安定させて、市民生活を向上させたい。そういう想いが強く、コロナが明けたら総選挙・・・経済再建、そういう流れの中、今般、ようやく選挙が行われました。

マハティール氏が抜け後にアンワル氏が率いた「希望連盟」と、「国民戦線」に接近するもその後反目した「国民同盟」の2大勢力が拮抗したことから、またしても議席数を減らしたにもかかわらず「国民戦線」が、キャスティングボードを握る展開となりました。
https://www.jetro.go.jp/view_interface.php?blockId=34791536

「希望連盟」と「国民同盟」の両者の「国民戦線」を取り込む連立工作は膠着し、最終的には、国王(各州のスルタン「太宗の州には地方君主がいますが、立憲君主となります」の中から輪番制で決まります)が調整に乗り出して、「希望連盟」と「国民同盟」の大連立を模索するも失敗し、結局、「国民戦線」の議員に国王が個別に「希望連盟」と「国民同盟」のいずれを支持するか確認し、最終的に「希望連盟」を与党とし、アンワル氏を首相とする薄氷の裁定がなされました。

アンワル氏は、元々「国民戦線」出身で、長らくマハティール氏の後継と目されていましたが、その後、マハティール氏とは反目して不当逮捕された経緯があり、2018年に再度マハティール氏と手を結び、また離反、など辛酸を舐めた75歳の超ベテランであり、同氏が率いる「希望連盟」のマニュフェストは、足元の物価高対応など、経済対策を前面に打ち出したものであったことは、市場からは一定の評価をされているといえるでしょう。

https://www.nst.com.my/news/nation/2022/11/854712/top-state-leaders-welcome-anwars-appointment


今回の結果を受けて、アンワル氏が、政治混乱に終止符を打ってくれるのではないかという期待はあります。ただ、難しさは、「国民戦線」が求心力を失いつつも、巧みにキャスティングボードを握っている感は残り、それを抑え込める力のあったカリスマ性のあるマハティール氏も、今回の選挙では「希望連盟」と距離を置いたまま落選して政界からはとうとう引退しまいました。

また、「希望連盟」は傘下に華人党も抱えています。それに対して、野党となった「国民同盟」はマレー色が強いとされています。アンワル氏は、その中間色と言える「国民戦線」とは連立を組む以上は妥協せねばならない場面が多々出てきそうです。

なお、「UMNO」はブミプトラ堅持が信条としつつも、華人系、インド系政党と妥結し、「国民戦線」としては、ブミプトラ政策に拠る外資規制を段階的には緩和していましたが、2018年以降、その緩和の方向性は見えなくなっています。

同国は製造業は外資規制はほぼありませんが、非製造業では、まだまだ残っており、その根拠がブミプトラ政策ということになります。

また、ブミプトラ政策に嫌気の差した、華人系、インド系の若者が、英語力も高いことから、隣国シンガポールや欧米への人材流出も大きな課題です。

他方で、同国はこれまで豊富な資源を活かして、インフラを整備しており、半導体など資本集約型の集積が進んでいます。首都クアラルンプールにそびえるペトロナスタワーは、同国の石油会社であるペトロナスの本社です。

さらに、曲がりなりにも民主主義を堅持しており、米欧との関係は悪くありません。多民族国家として、中国、インド以外のアジア諸国との関係も良好です。さらに、イスラム教を強みとすべくモスリムツーリズムにも注力、中東からの観光客が安心して過ごせる先でもあり、人気があります。

それでもマレーシアは、タイと同様に、先進国入りを前に膠着が続く「中所得の罠」に陥っているのではないかと指摘されることがあります。同国が先進国入りするためには、政治の安定を取り戻し、ダイバーシティ国家であることを強みにして、それを活かして、有能な人材を取り込んで生産性を上げていくいくことが肝要なのでしょう。

当面、政治が安定するかどうか見極めが必要ですが、アンワル氏は長年の忍耐と絶妙なバランスで、多民族国家をまとめられるのか、マハティールというカリスマ後の同国に注目しましょう。


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