見出し画像

急に寒気の流入で関東は寒くなりましたが、皆様、お気を付けください。
先週、タイについて政治と為替についての取材を受ける機会がありました。
そこで、今回はまず政治、次回は為替について考えてみたいと思います。

タイでは、2014年のクーデターで、陸軍大将だったプラユット氏が暫定首相となって以降、プラユット政権が続いています。2019年のクーデター後の選挙で、伝統的には政治の表舞台からは身を引いてきた国軍は、身を引かずに
「国民国家の力党」を立ち上げ、プラユット氏が正式に首相になった形です。

当該選挙では、比例代表の枠を大きく縮小して、大政党には不利になりました。そのため、大政党の「タイ貢献党」(タクシン元首相支持派で東北・北部が基盤、支持者は赤シャツ隊で知られる)は、第一党を維持しながらも議席数を減らし、第二党の国民国家の力党が、「民主党」(首都圏・南部が基盤で、支持者は黄色シャツ隊で知られる)などと連立を組んで与党となり、国軍の力の強い状態が続いています。

2014年からもう8年になりますが、憲法規定上、首相の在任期間は8年と決められており、それが違憲かどうかで紛糾し、一時的にプラユット氏は休職していましたが、憲法裁判所は2017年に新憲法が発布されたので、それから8年後の2025年まで合憲と判断され復職しました。


2019年の選挙から下院議員の任期満了で来年5月までに総選挙を迎えるタイですが、国軍=国民国家の力党=プラユット首相に対しては、もううんざり・・・という市民の声が上がっています。憲法裁判所は、国軍に近いとみられています。そのため、プラユット氏を勇退させて、刷新する手もありましたが、今年11月にAPEC議長国を務めるという喫緊の課題に加えて、これといった有力な後継者が見当たらず、続投になったとみられます。

ところが、プラユット氏続投で、野党は勢いを増していきそうな気配です。
その急先鋒は、そもそも第一党ながら野党に甘んじているタイ貢献党です。タクシン氏の娘を選挙の顔に担いで、勢いを増す動き動きを見せています。比例代表の枠が、2019年以前の制度に戻されるので、貢献党には有利です。

2019年選挙の際、小政党の有利を活かして急進改革派の「新未来党」が若者の支持を伸ばして躍進したのですが、その後に解党令を出されるなど、かなり民主化に抑圧的な情勢が続いています。「新未来党」が解党された後、議席数を減らしながら「前進党」が新たに立ち上がるなど、若者の民主化への期待は続いている状態です。反与党の若者層が、どのように動くかも注目されます。

タイは、日系製造業が集積し、観光地としても大変人気がある先であり、近年は、非製造業の進出も、日本へのインバウンドも期待される国です。
ですが、政情は、上記の通りかなり複雑かつ厳しいものがあります。

このまま来年5月までに総選挙が行われると、
おそらく「タイ貢献党」が躍進し、政権を奪還することになるでしょう。
そこに、若者が支持する「前進党」などが加わるかどうかは、定かではありませんが、反国軍で、利害が一致する面はありそうです。

国軍は、産業振興では、タイランド4.0政策といわれる、産業高度化政策を進め、その実践地を東部経済回廊(EEC)という、パタヤビーチで有名な、バンコクから100~150km離れた地域を指定してきました。この施策は、政権交代があっても変わることはなさそうですが、EECはそもそも製造業の集積が進んでおり、頓挫気味のバンコクと地方を結び高速鉄道の整備など、財政懸念が残る中で、地域振興に舵を切ることも考えられます。

そして、最大の懸念は、野党の増勢、一旦沈下している若者の反政府動きが静かに再燃した場合、国軍の影響力の強い現与党が、それを看過するかどうか・・・クーデターが、一つの政治手法と化してことは否めず、疑心暗鬼が残ります。

これらの根底には、タイにおける所得格差の問題、若者と年配者の価値観の問題、さらには、同国は王国が、かなりの国有財を有しており、それを国軍が支えている面がありますので、国体の在り方自体が問われてます。

外からはうかがい知れない部分もありますが、同国が、権威国家なのか、民主国家なのか、それとも、これからも両者の間でスイングする国家なので、理解しながら付き合っていく必要があるのでしょう。

次回は為替について考えてみたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?