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たくらだ・ファミリア~ねこの日ショートショート

 宝田君ちは、便利屋だ。
 家の掃除、買い物、犬の散歩。電話一本で駆け付けて、仕事を代わりにやってくれる。
『たくらだ屋』が、宝田君ちの店の名前だ。名字の宝田と、『たくらだ猫の隣歩き』って言葉の合体らしい。自分ちのネズミは獲らずに、他の家のネズミを捕る猫。平たく言うと、間抜けとか、馬鹿って意味。それで、みんな宝田君を『たくらだ君』て呼んでた。
 日直や、苦手な給食や、宿題や、何を頼んでも、宝田君は笑って引き受けた。ぼさぼさ頭で、鼻の頭にホコリ乗っけて、ゴミ箱と黒板消しと、クラス分の連絡帳抱えて。猫じゃなくて、チュージツなネズミだって笑われてた。

「みんなにこき使われて、悔しくないの?」
 ランドセルを四つ背負ってる宝田君に訊いた。
「父さんが、使われるウチは宝だって」
 宝田君は笑って、元気に走ってった。


 今、宝田君ちは外国にいる。
 有名な教会を建てる手伝いをしていて、あと何年かで完成らしい。