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Château de botté~長靴の城~ねこの日ショートショート

 カラバ侯爵は、弱り果てておりました。
 彼が爵位を継いだのは十日前。粉挽きに拾われた三男坊が、『貴方は侯爵様の落し胤です』と告げられ、見知らぬ土地へ連行されたのです。
 偏屈な独り者の侯爵が急逝し、借金まみれの城と、頼りない家来と、広大な荒れ地と飢えた農民と――つまり貧乏籤を引かされたのでした。

 まだ十八の若造に何が出来るでしょう。元の生活の方が、粉があるだけ良かった。パンも並ばぬ食卓と、家から履いてきた長靴を眺め、溜息を吐いておりますと、
「侯爵様。門に旅人が」
 捨て鉢の侯爵は、旅人を城へ通しました。
「生憎もう、城に食べ物は無い。この靴を煮て食べなさい」
 これを聞いた旅人は、侯爵の長靴を履き、猛然と走って行きました。

 その日の夕刻、城門に王宮の馬車が停まりました。
 旅人から侯爵の行いを耳にした国王様は、彼を娘の婿に迎え、侯爵の城は、長靴印のワインで有名な、シャトー(酒蔵)になりました。


原案:童話『長靴をはいた猫』