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猫目爪~ねこの日ショートショート

 新(ニイ)は鳴かない猫でした。
 元々、兄が助けた猫です。車道に飛び出し、庇った兄は即死でした。私が駆け付けた時、動かない兄の胸で、新は香箱を組んでいました。雪白の被毛に金の瞳の、とても美しい猫でした。
 お葬式が済み、四十九日が過ぎても、飼い主らしき人は現れず、私は、新を兄の化身と思う事にしました。兄の他に、私には身寄りがありませんでした。

 鳴かない猫と喋らない女。一人と一匹の生活は静かでした。新は特に懐くでなく、かと言って離れるでもなく、端然と私の傍にありました。

 兄の十三回忌の夜、枕辺に翳を感じました。
 練り絹の様な闇に浮かぶ、月を固めた様な青年。
「行かないで」
 思わず発した声は濡れていました。
 青年は仰臥した私の手を取り、額に押し頂きました。

 翌朝、新は息をしていませんでした。
 見開いた目の、左は白く濁っていました。
 私の左薬指の爪で、猫目石を貼った様に、一条線が煌めきました。