見出し画像

愛媛新聞『超ショートショートコンテスト』その他応募作まとめ

この度、創樹が特別賞に選出いただいた愛媛新聞『超ショートショートコンテスト』
500字ショートショートの募集テーマが5つあり、応募本数に制限がなかったため、実は5テーマ全部に挑んでおりました(笑)
この際ですから、受賞作以外も掲載させていただきたく思います。
記事をまたぐのもご面倒になりますので、5作まとめてどうぞ。

①まずは受賞作から
テーマ:老人ホーム
題『交感』

☟下のリンク内、小石創樹で載っております。


テーマ:新聞紙
題『ぶんしんし』


 掃除機を持って子供部屋に入ると、今日の朝刊が兜と刀に化けて源平合戦していた。
 あの子ったら、また新聞で遊んだわね。掃除機のホースで刀をさばき、兜はヘッドで一撃。討ち取った新聞紙を順番に重ねて畳む――はい、半分紙。ごちゃ混ぜにしないで、分身はきちんと片付けなさいと言ってるのに。
 部屋の掃除に入ろうとするも、物陰からもう一部。ばらばらの灰色吹雪に変身した散分紙へすかさず霧吹き、落ちたところを掃除機で吸う。床がきれいになって丁度良いわ。
 掃除が終わってひと息つこうと畳んだ新聞を広げると、記事から文字がほつれて飛び出し、より合わさって大量の新聞糸。なるほど、クレヨンで『氏』の字を消したのね。掃除機のコードと一緒に巻き取り玉に丸める。
セーター一枚分かしら。新聞紙は意外と温かいから、午後のお茶がてら編んでみましょう。
掃除機のフィルターから散分紙を取り出し、元通りに並べて白紙へ貼り、原文紙。
 やれやれ今日も大変だった。掃除機と朝刊を抱えて部屋を出る。
まったくあの子ったら、散らかすだけ散らかして、ちっとも親の言うことを聞かないんだから。
 新聞紙より『親』聞紙がほしいものだわ。



テーマ:そうめん
題『星流しそうめん』

 七夕の夜に雨が降ると、天の川にそうめんが流れる。
 夏の盛りにそうめんが食べたくなるのは、地上も空の上も一緒らしい。雨でかさを増した天の川では、織姫と彦星が対岸に並び、笹舟椀とかささぎ口箸をかまえている。
 流星の軌跡をすくって食べる星流しそうめんは、三大流星群に合わせ年三回開催するが、七夕のそれは別格だ。日頃二人に厳しい天帝も、夜空の星座もこぞって天の川を囲み、きらめくそうめんに舌鼓を打つ。
たまに織姫が失敗した糸くず星や、六日の洗車雨で彦星が落とした星草、短冊と共に地上から届いたお中元が混じるのはご愛嬌。五色の願いで飾った夢の軌跡を一筋すくえば、日々の悩みや会えない淋しさもさっぱり水に流してくれる。
涙雨のつゆで流星を味わい、笑って、少ししんみりして、たっぷり食べて。またそれぞれの一年を過ごしていく。
 八日の夜に空が晴れたら、お椀に水を張って天の川を映しておくといい。二人がすくいそこねた流星のおすそ分けが拾えるだろう。
 もしも色付き星が流れたら幸運だ。緑は健康、黄色は金運、赤なら恋愛の願い事が叶う証だ。
 もちろん成就のあかつきには、短冊に添えてお礼そうめんを忘れずに。



テーマ:ライオンの像
題『ライ・バル』

 新日本観光誘致事業とやらで、神社の狛犬がライオン像に統一された。
 事業担当が視察先の某国の名所に感化されたのは間違いないが、今年度から変更との通達を受け、神社本庁と全国の神社氏子衆は大混乱に陥った。
 石像の狛犬が気軽に替えられるはずもない。そもそも狛犬は文字通り犬だし、所により片方は獅子としても、獅子=ライオンでもないのである。
対応に苦慮した末、たてがみ部分の石カツラを作って狛犬にかぶせたり、頭部だけ獅子舞の頭と入れ替えたり、手水舎にミニチュアライオン像を置いたり、野球チームからマスコットを助っ人に呼んだりと、各々がバラエティ豊かに無茶振りに応えた。
そして皮肉にも、その支離滅裂ぶりがSNSでバズり、日本の観光収入が激増、景気は大きく上向いた。
これにクレームをつけたのが、元ネタにされた某国のライオン、無視されたエジプトのスフィンクス、中国の獅子に沖縄のシーサーなど、各地のライオン像類である。
 国際問題と利権がらみの調停の末、最も有名なライオン像はどれか、投票で決する世界ライオン総選挙が近年開催される事となった。
 とある百貨店のシンボルも出馬、いや出ライオンとの噂だ。



テーマ:本
題『本棚田』

 春の校外学習、僕たちは図書館へ本植え体験に来た。
「はい皆さん騒いで! 本植えには言葉が必要です。おしゃべりしながら、楽しくにぎやかに!」
 本植え用の棚田室で先生が声をはる。図書館で騒げるなんて最高だ。みんなワイワイガヤガヤはしゃぎながら、手にした白紙のページを棚田へ並べていく。
「すごーい。もう文章になってる!」
「え~、こっちまだ真っ白」
 しゃべっていい。書いてもいい。自由に考えて、表現して形にする。その時間と、文字と言葉が重なって本を育てる。
「本植えの後は、印象室で印刷の見学をします。こっちは静かに、生まれたての本がびっくりしないようにね」
 先生が指で『しーっ』をやると、みんな騒ぐのをやめ、行儀よく並んだ本棚田を後にする。
 本の電子化が進み、紙の本が世界から消えた。声に出して読む習慣も、交わす意見も、書く文字も減って、今では絶滅危惧種だ。こうやって言葉を使い、本植えで保護や育成を行わないと、いつか本当に絶滅するかもしれないんだって。
 印象室で新生本の温かいページをめくらせてもらい、ワクワクしながら学校に帰る。
 僕たちが植えた本は、秋に印刷され、学級文庫の棚に並ぶ。


以上になります。
お楽しみいただけていれば嬉しいです。
どうぞ皆様も、良きショートショート・タイムを⏱