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大増殖天使のキス【毎週ショートショート】

世界に季節が生まれて間もない頃のお話です。

ある日、神様のお使いで地上へ降りた愛の天使は、色とりどりに咲く春の野の花々に、一輪だけ冬の名残りを見つけました。
それは白い菫でしたが、地上をよく知らない天使は、花が雪に覆われ、凍えていると思ったのです。
「かわいそうに。太陽が届かなかったのだね」
せめてもの慰めにと、天使は菫に祝福の口付けを与えました。
愛の天使に触れて、愛を抱かぬものがありましょうか。白い菫は太陽の金色に輝き、熱い眼差しを天使に注ぎました。
天使は微笑み、再び菫に口付けました。菫は小川の青を宿し、溢れる想いをせせらぎに乗せて囁きました。
「良かった、これで全て春になった」
天使は微笑み、三たび菫に口付けると、天上へ飛び去ってしまいました。

「……愛しています、美しい方」
紅顔の若者に変じた菫の言葉は、伝わらぬまま風に溶け、やがて方々で芽吹き、鮮やかな三色の花を咲かせました。
愛の使者と言われる三色菫の始まりです。



副題:三色菫異聞
この物語は、三色菫にまつわる西洋の伝説を、創樹風に脚色したものです。