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ジュリエット釣り【毎週ショートショートnote】

樹里じゅりと再会したのは、24時10分発のメトロだった。
終電の薄暗い蛍光灯をスポットに、天井から媚びた微笑を投げるグラビアは、養成所時代の同期だった。
「止めても無駄だろうけど、移籍なら『ヴェローナ』はやめとけ。評判最悪だぞ」
博巳ひろみの意見なんか聞いてない。あたし行くから」
話は平行線のまま樹里は移籍し、俺は芽が出ずに役者をやめた。夢叶って良かったなとは、正直言えそうにない。

手の届かない高窓の君に引っかけ、美人画の中吊りを業界用語でジュリエットと呼ぶ。
奇しくも養成所の卒業公演が『ロミオとジュリエット』で、あれが最初で最後の共演だった。樹里の中で、俺は未だにお節介なティボルトなんだろう。今の彼女には何人のロミオがついてるのか、下世話な想像を巡らしてしまう。

夜釣りには向かない日だから、そういう事にしておこう。
もう通じないアドレスを閉じ、ホームに降りる。ネオン瞬く漁場で、獲物がドレスの裾を泳がせている。


副題:Backstage of Nightless Cast