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イライラする挨拶代わり【毎週ショートショートnote】

「旅運をお祈りいたします!」
「万歳!万歳!万歳!」
ホームに居並ぶ敬礼と万歳三唱。はためく横断幕にプラカード。目頭を拭う人々の惜別と激励に見送られ、僕は旅立とうとしていた。
既に恥ずかしいを通り越して『無』の境地。出立セレモニー開始から30分、達観し過ぎて今にも悟りが開けそうだ。そもそも他人のフリどころか完全に赤の他人と、どう別れを惜しめというのか。

みおくりびと。葬式の泣き屋の旅行版で、旅立ちのシーンを劇的に演出するプロの送別師だ。都合で行けない両親の代わりに呼ばれたらしい。
「無事のご帰還をお待ちしております!」
「いざさらば!」
発車ベルをかき消す号泣の嵐。二泊三日の町内会旅行にどんなドラマを求めているのやら。
締まるドアからそそくさ離脱、シートの影に隠れ人心地ついた矢先、

「お達者で~!」
――クソが、隣の客もか!!


あぁ、叶うなら永久に帰りたくない。
二泊三日後には悪夢の往復サービス、でむかえびとの歓迎が待ち受けている。


副題:みおくりびと