見出し画像

まともじゃいられない ①ーおかしい格好ってなんだ?ー

「生きにくいなぁ」と思っていたのはいつからか。「大人になればなるほど窮屈…?」そんな風に思ってた。全4話の簡単なエッセイ。わたしが「生きにくさ」から、どうにかして脱出したお話。
もちろん今でももちろん困難な状況はたくさんあるけれども。でも全て腑に落ちるようになれたということ。生きづらいと思っている人に、少しでも届けばいいと思う。


「いやいや、そんなのありえないでしょう笑」

タイツの上から靴下を履いていたわたしに、同僚が苦笑して放った言葉だ。

10年前、東京の下町にある中小企業で働いていた。

制服着用だったので、通勤はわりと自由な服装でよかったのが楽だった。

新卒入社をしたての頃は周りの目も気にして、”それなり”の大人の格好と少しヒールがある靴を履いてたものの、時間が経つと「そんな必要もないのだ」と周りの先輩を見て気づき、いつも小汚いジーンズにスニーカーと黒いリュックで通っていた。

その日は少し寒かった。レッグウォーマーのようにタイツの上から、もう一枚ちょっと明るめの靴下を履いていた最中に、同僚から「それはおかしいでしょう」と言われたのだ。

入社3年目くらい。その頃キャンプに少しハマりつつあって、会社に着る洋服も少し変わっていたせいかもしれない。

「おかしい格好ってなんだ?」

少し感覚のズレがあった。以前のわたしだったら、恥ずかしがって隠すように靴下を脱いでいたかもしれない。


−−−−−−−−



そのときわたしは、SNSやブログで仲間を見つけながらキャンプに少しずつハマっていったときだった。

その頃、女子だけで真冬にキャンプに行ってるのは周りを見渡しても皆無で、ましてや冬のキャンプ場を利用する人は男女問わず少なく、休日でも貸切状態だった。

「誰もやっていない趣味」をやるのは怖かったけど、ブログやネットを通して出会えた新しい友人たちと、全てが目新しい外遊びの世界に無我夢中になって遊んでいた。

山ガールのブームもあって、アウトドアショップに行くと派手なウェアが立ち並んでいた時期だった。
キャンプには山ウェアはあまり必要なかったけれども、キャンプをしてると山にも登ってみたくなり少しずつ山ウェアを揃えることにした。
いつも黒や灰色ばかり選んでいたわたしが初めて買ったウェアの色は、赤。
ホグロフスの真っ赤なソフトシェルだった。

着た瞬間パッと華やいだ気がした。

鏡にうつる自分を見て。「あ、案外似合うもんだな」とも思った。

街で着ると多少派手なデザインや色も、自然の中だとあまり目立たない。

森のなかに赤や黄色の原色があったとしても、うまく融合してくれる。いつもは履かない明るめの短パンにタイツと、寒いからとレッグウォーマーを履くスタイルがお気に入りだった。
おしゃれかどうかは正直今思うとわからないが(笑)、

自分に、似合う色を見つけた。
自分が、着たい服もあった。

「おしゃれ」「トレンド」「コスパ」「ブランド」
そんな雑誌やショップが掲げるものに、いちいち左右されなくて済むことを知ったのだ。

−−−−−−−−



わたしは、同僚の(嫌味をまじえたかもしれない)言葉を無視して、思いっきり靴下を履き、
「じゃ、お疲れ!」と明るく更衣室を出た。

あのとき、1つ、生きやすさを得たのだと思う。


それが、「生きづらさ」からは抜け出せない自分の小さな一歩だった。


次回は”キン肉マン” です。22日頃公開予定。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?