バグり渦中、ドリップ溺愛注意報
家で彼氏作りたいけど量が多すぎになんのまじだるいな。あまったやつはじゃがいもとかにんじんアイラップの上から揉んで潰して、そんで冷凍保存すれば? っていうけど、冷凍庫いつもぱんぱんなんだもん。でさ、いつ食べる? ちょっと放置して問題ないとこがまたいいんだけどさ。
「いつでも。食べたいとき! 冷凍庫に彼氏があると安心じゃん」
うちは半バグ派。いつも小分けにして、ちゃんとふたつずつにして整頓してる。
紗弥は、彼氏は飲み物って豪語してて週3で食べるらしい。胸焼けしそう。田岡ってやつだよね、顔の高低差がエグくてどっちかというとイケメンふうで紗弥の好みにぴったり。(うちはもちょっとマイルドがよきです。)あの子は家の彼氏も好きだけど、遠出の度にご当地彼氏のチェックも忘れない。まめじゃね? っていったら豆彼氏はインドではダール・タドカって呼ぶらしくてうける。田岡のやつがだるすぎでまめ。まめはいいなあ。
まめっていうとなんか、愛おしさがこみあげる。
たべたくなる。
あったかい気がする。
ひだまりみたいな色でまるい。
歪んだ愛情って、呼びたきゃ呼べば?
溺愛?
ってことで。
うちは水煮の大図鑑を買ってきた。
たまねぎを一個適当な大きさにそれこそ適当に切って、ブンブンチョッパーに放りこむ。ぶんぶんぶんぶん。あのさ、カラコンしだしてから、玉ねぎ切ってもそんな泣かなくなったんよ。目に沁みないの、これライフハックだから。こまかすぎる微塵切りはフライパンにざざっとは出せないところが面倒だけど、スパチュラ使えば問題なし。そのままぺろーんと微塵切られた玉ねぎを撫でてから火をつけて、待ち焦がれてセピア色ってことまではやっとこう、これだいじ。おいしさがちがう。そんでさ、おんなのこはキノコが好きでしょ。うちはきのこの山派なんだけど。えのきとかしめじとかもぶんぶんして一緒にぺろーんして火を通すとまじうまいから。これほんと。
ほろ苦だとか甘いとか。
愛なんだか恋なんだか。
遊びだって、遊ばれだってそう。
一回冷ますのよ? 緩急が必要なの、なんてドラマティック。
大図鑑は栄養満点ですでに火も通ってるから扱いも簡単。マッシャーでつぶしてから逢い引き肉と混ぜていく。まめまめまめ、肉肉憎々に苦肉肉くらいの割合ね。うちは懐メロをたっぷり振るのがすき。
いい香り。
こう見えておばあちゃんこだったからさ、火曜曲が染み付いててね。なんにも考えないで口をついて出てくるわけよ。聞き分けがないからとかって顔を張られても、ジュエリーがきれいなわけ。かぶった帽子が飛んでいって、水曜日になったら水に流すの、それでまた恋に立ち向かっていくんだ、昔の人ってタフだよね。
うち?
その種のタフさって必要? って思っちゃう。
大食いの女の子が大皿ぺろって平らげるのを見るのもすきだし、弾丸旅行で片っ端からあれこれ食べていくの見るのもいいよね。そうはいっても番組企画でもないと、どこにもいけないから家でつくるわけ。
そんで大図鑑眺めてみる。世界中で作られてて世界中で食べられてる豆がいっぱいつまってる。ありふれててやわらかくてまるくて、実は遺伝子も組み替えられてる。
そのまま食べたっていいしなんなら常温でほっといてもいい、その感じがよき。鮮度が命の逢い引き肉だけ、食べたいとき食べれるときに調達すんの。それで十分。
あとはこねてこねてこねて、だだこねてみてこねられてみて白くなるまで混ぜてさ。てのひらでパンパンっとキャッチボールして、真ん中へこまして聞き分けよくすんの。重々焼き入れて、この形しかあり得ないからねってわからせてひっくり返すの。その間にわからせられることもあるから厄介だよね。
うちら半バグだからさ。
逢い引きの肉の果てに遺伝子を、組み替えるみたいにシャッフルすんの。半分じゃなくてひとつになりたくて、だから二個食べて、二個合わせて冷凍すんの。
地球が熱くなりすぎておわったら腐る。でも、冷えすぎてだったら化石になる。どろっどろに融け合って一緒に微生物に分解されるのもよし、がっちがちに固まってほどけないのもよし、そんなことを思いながら冷凍庫に仕舞うの。
重々焼きがまわってるよね。不健全なのに健康すぎて笑える。
もうやめよう。そう思っては引き返す。
そうだ。やっぱ彼氏つくろうかな。半バグ崩して野菜もブンブンしてさ。