【サラリーマン生活】謹慎させてください
ある部署が閉鎖になることが決まり、部員に異動先の提案をしていた時のことだ。
異動先はいろいろあるが、必ずしも本人の希望に合うとは限らない。
サラリーマンなんだから、そういうことはある。
ある日、上司の妻に異動先を提案した。
だが、上司の妻が希望する部署は別のところだった。
彼女が希望する部署は経験とスキルと資格が必要とされる。
しかし、上司の妻はその資格試験に2回も落ちた。
会社の金で受検させてもらったのに、だ。
その2回とも他の社員は全員合格したにもかかわらず、だ。
客観的事実から、異動は無理だ。
経験はある程度盛れるが、資格はダメだ。
わたしは彼女の資格の有無については触れずに、
今回の提案内容に彼女が希望する部署は入っていないと告げた。
通常営業、定型対応だ。
しかし翌日、同僚がこっそり教えてくれた。
上司の妻がわたしにパワハラをされたと、夫である上司が言いふらしていると。
特別対応しなかったから逆恨みか。
器が小さいな。
それにしても、上司がデマを流して部下のキャリアをつぶそうとしているってどういうことだよ。
間髪入れずに、上司の席に行ってこう言った。
「私、パワハラをしたらしいので。会社の処分が下るまで謹慎を命じていただけませんか」
上司は黙っている。こっちも見ない。
黙るなよ、答えろ。
「パワハラをするような部下を野放しにしてはいけません。厳正に対処してください。支社長に報告されましたか? してないのなら今すぐ報告してください。パワハラを放置することは許されません。
今すぐ支社長のところに行って判断を仰ぎましょう」
まだ黙ってる。手間がかかるな。
一歩近づいて低い声で続けた。
「今すぐ支社長に判断してもらいましょう。謹慎させてください」
上司が消え入りそうな声でやっと答えた。
「ヨメの勘違いだと思うよ、あいつちょっと頭が弱いから」
ヨメのせいか。ますます器が小さい。
ドールハウスの食器かお前は。
わたしはもう一歩近づいて三白眼気味で言った。「勘違いだとわかっててデマを流して、私のキャリアをつぶそうとしましたよね、上司なのに」
シルバニアのお皿野郎はさらに小さな声で
「す、すみません。私が間違っていました。すみません」
わたしは無言で自席に戻った。
その上司はこの日からのちに異動するまで、わたしの目を見て話すことはなかった。
相手を見て喧嘩しろ。
サラリーマンは売られた喧嘩は買う。