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昭和のりぼん読者が『きらめきのライオンボーイ』を読んでみた

あたし、ジュンコ。女子中学生。(を卒業してもう30年経つんだ☆)

というわけで絶賛中年な私ですが、作品制作のためにティーン向け少女漫画を読む機会が多い今日この頃、小学生時の愛読書『りぼん』を20年以上ぶりに読んだ2009年以来、断続的に本誌をチェックしております。
読者再開した時は衝撃でした。私のりぼん脳は昭和50年代で止まっており、付き合ったその後の描写や事後的表現に「これが平成…!」と震えたものです。
そんな私も耐性が付きまして、今ではりっぱな中年りぼんっ子。現役作家も作品もかなり把握できるようになりました。おきゃんな主人公が多かったイメージの2009年、それから10年も経つと時代とともに作品傾向も変わり、最近はウブ化が進んだ王道な恋愛ものがたっぷり読める一冊となっているように思います。

そんな中、近年気になりすぎる作品がありました。
槇ようこ著『きらめきのライオンボーイ』。
槙先生は、私が読者再開した2009年の『りぼん』にも載っており、この10年でいくつかの作品に触れさせていただいた作家さん。作画の可愛さ、ストーリーの可愛さ、登場人物たちのキュートな可愛さ。ともかく可愛さがすごい。
そんな槙先生が手がけた最新作『きらめきのライオンボーイ』は今までのそれより輪をかけて突出していると同時に、いつもはない引っかかりを感じていました。王道を踏まえたありふれた少女漫画ながら随所に感じるこの違和感はなんなんだろうと。頭の整理がてら、全10巻の本作を買い揃えた記念に作品について徒然と書かせていただこうと思います。

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※全巻揃えると決めたその日に買った5巻とその2年前に荒ぶって単発で買っていた5巻。『あしたのジョー』(全20巻)を尻から読めるタイプの人間なので、たまにこういう事故が起こる。

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1.起こらない波乱

部分的にしか読んでいなかった私が感じていた違和感のひとつは通して読んだらわかった。感情取り乱した修羅場が全然ないのだ。
ドジっ子「みわ」と天然イケメン「桐敦」のカップルに訪れる横恋慕たちに二人の関係が揺らいだり揉めることはない。それどころかちょっかいを出してきたライバルを許容する。「どうしたい」か聞き、「好きなままでいいよ」と提案し、自虐するライバルに「自分のことクソ野郎って思っても 俺には大事なクソ野郎だよ」と救済する。何事も肯定するのだ。いわゆる少女漫画における醍醐味「恋の波乱」が幕を開ける前に終わる。


2.悟りの男・桐敦

こんな全方向にソツのない男子高校生が少女漫画界にいただろうかと思うほどできすぎな男・桐敦。イケメンなのに天然という萌えを備えつつ、高校生ながら彼女へのプレゼントに“口紅”というド直球なアイテムを選ぶのみならず、今流行りの新色を勧める美容部員に「ていうより もっと定番の」「むかしからあるし この先もずっとあるやつ」と要望。初めての彼女に対してこんなロマンチックの読み深いDKいるうぅぅぅ〜〜!??
テンションは低温な男子ながら、自分の世界より漫画の世界に没頭し「私なんか」と卑下する主人公に「まずは自分のことを好きになれ」と言い「もっと大事にして 俺のだから」と独占欲で包みながら随所で自己肯定を促す彼氏。
『きらめきのライオンボーイ』の独特な世界は彼なしでは語れない。


3.溶け込むセリフ

少女漫画というと、シャボン玉が飛んだり花が吹いたりする背景により高揚感を共有するが、この『きらめきのライオンボーイ』はすべてが大切なプレゼントのように膜に包まれたきらめきに侵されている。セリフはキラキラしていればいるほど背景と同化し、1.で述べたように肯定力の強い作品なのでいっそう眩しく夢心地で掴めない幻のような感覚に陥る。
実はこれが私が一番最初に自覚した違和感で、さまざまな中年にプレゼンするも断片ではその魅力が伝えきれずに今に至る(消化不良)。
私の周りの人間たちよ、読んで。そして語り合おう…


4.世界観を失わないラブシーン

数年前、美容院で読んだ雑誌に蛭子能収さんのある映画評が載っていた。「映画は良かったが、またセックスシーンがあった。なぜみなセックスシーンを描くのだろう」的なことが書いてあり、私はてるてる坊主のような格好で大きく頷いた記憶がある。
良いと思った手法を繰り返していると本質を見失う。それを映画における濡れ場に感じていた。”作品の必然の中にある濡れ場のリアルさ”とは別に”リアルな濡れ場を演じる=演技派と賞賛される”という本質とは違う流れがあり、皮肉にもそういったシーンが作品に不調和をもたらしていると感じることがある。
話がそれたが、『きらめきのライオンボーイ』はラブシーンが多い。しょっちゅうチュッチュチュッチュしているしベットインもしているのだが、示唆的なのである。小さいコマでめくれる服、でっかいコマのキスシーンの端でジャバラに寄せられている(ように見える)シャツ。逆にエロい。そしてウブい少女たちには気付かれない線を残している。甘い、エロい、されどピュア。そんな難しいバランスが成立している。


5.これはあなたへの優しい物語である

『りぼん』に新しい風が吹いている…!槙先生、さらに一皮剥けるよ!(誰なの私)と『りぼん』を読んでいない仲間たちに吹聴していたのに、まさかの引退作だった時の私の衝撃。
のちに、槙先生は連載前からこの作品を”引退作”と決めていたことを知り、私が感じていた引っかかりは新しい風ではなく”覚悟”だったのだなと振り返る。

少女漫画好きの主人公が、マイバイブル『きらめきハート』に出てくる男の子「星さま」の見ために似ているリアル男子に恋をする。
自分の心の扉を開ける勇気を持つこと。
人と関わること。思いを伝え、返ってくること。
私が私でよかったと思える瞬間が訪れること。
この作品は、少女たちへのメッセージが詰まった、槙先生の深い愛情しか入っていない冒険漫画だったのだ。

きらめきハートが 完結したの
きらめきハートは 永遠になったの
この先も もっともっと大切にしていいんだと思ったら 安心したの…!

作品の最終回に、以前の主人公の全てだった『きらめきハート』も完結する。
それは、読者にとっての『きらめきのライオンボーイ』であったし、槙先生の漫画家人生だったのだろう。
その潔さとカッコよさにしびれ、多くの人に愛される作品であれ…!と思うのであった。


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