三木解剖学への誘い(2)吸収系

 三木解剖学は、ヒトのからだを植物性器官と動物性器官とに分類するところから始まるのですが、まずは独立栄養としての植物と共通する植物性器官から見ていくことにしましょう。植物性器官は、吸収系・循環系・排出系の3つに分けられ、通常の解剖生理的には、吸収(消化・呼吸)、循環(血液・脈管)、排出(泌尿・生殖)といったシステムが扱われます。教科書の記載よりも、まとまって系統だっており、こちらの方が実践的かつ想起しやすいように思います。

 まずは吸収系から。生物の上陸に伴って、消化器が咽頭部から枝分かれするような形で、呼吸器が形成されてきます。それゆえに、これらをまとめて吸収系と称するのですが、ここが少し初めは分かりにくいと思います。しかし、栄養、酸素、ともに身体の内部に吸収することを考えれば、特に不思議ではないわけです。

 吸収系はいわゆる、消化器系と呼吸器系であり、各々栄養と呼吸をつかさどる器官で、共に「生命の炎」を燃やすところで、ミクロに考えれば、ともにエネルギー代謝における重要な素材ということになります。これがミトコンドリアでのATP生成の源となるわけです。
 腸管は「鰓腸」といわれる器官から進化したもので、そこから、生命体が上陸し空気中の酸素を取り入れる呼吸を行うために、一部が膨隆して、肺が形成されてきたと考えられます。
 つまり腸管から付随するような形で、呼吸を行うために肺が突出して形成されてきたのであり、これが消化管である咽頭から、喉頭・気管が分かれる理由と考えるとわかりやすいでしょう。
 現状の生理的な機能から見ると、消化と呼吸には大きな隔たりがありますが、最終目的のエネルギー通貨としてのATP生成のための進化と考えると納得できるわけです。

 また吸収系という器官だけでなく、人間においては、二足歩行により解放された「手」による「料理」という機能も忘れてはなりません。
 脳機能の発達をベースにしたこの高度な機能は、「火」や「道具」の使用により、消化機能を補助し、多くのものを消化することを可能にしたと考えわれます。これを「頭進」と三木は呼びます。人間における吸収機能においては、こうした手を用いた動物的機能もまた、非常に重要なものとなるわけです。

 呼吸に関してはATP産生に不可欠な酸素の取入れを行うとともに、吸収の対となる排出系である「腎臓」とともに酸塩基平衡を担います。つまり吸収・排出の協働が、内部環境の調整に大きな役割を果たすのです。これなどは三木解剖学のほうが通常の解剖生理における説明よりも必然性を感じます。

 加えて、呼吸運動は、無意識に行われ、不随意的であるが、横紋筋支配によるため意識により随意的でもある。これにより、植物的機能への意識の介入が可能になります。つまりこれもまた動物的機能の植物的機能への介入であり、これが呼吸法の意義でもあります。

 消化と呼吸を吸収系として捉えた場合、両者の境界に生じる問題もまた忘れてはなりません。つまり口腔においては共通していた食物の道と、空気の道が交差することになります。しかし一方では、これが発声を可能にしているのですが、同時に合流時のトラブルといえる「誤嚥」をもたらす構造的弱点にもなります。
 つまり我々は「声」を得る代償として、誤嚥性肺炎という老齢期におけるリスクを背負うこととなったわけです。。何事にも得るものがあれば、失うものがある、ということなのかもしれません。

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