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巨大加速器の現在地

2012年、大型ハドロン衝突型加速器 (Large Hadron Collider、略称LHC)を使って、ヒッグス粒子が発見されました。ヒッグス粒子の発見によって、素粒子物理の標準模型で記述される粒子は全て出揃いました。そのため、今後の素粒子物理の大きな流れは、素粒子の標準理論を超える新しい物理現象の探索にあります。そのひとつは、エネルギー・フロンティアを目指し、超対称性粒子などのような新粒子を探索し、より高いエネルギーにおける統一的な理解を得ようとする方向です。もうひとつの方向は、高精度の実験により、クォークやレプトンの混合を詳細に調べていく方向です。

クォークの混合においては、従来K中間子において研究されてきたものが、B中間子において研究がなされ、小林-益川理論の検証がなされています。日本においては、Belle実験によってB中間子における粒子・反粒子非対称が発見され、大きな成果があがっています。一方、エネルギー・フロンティア実験については、欧州原子核研究機構(CERN)のLHCが現在稼働していますが、標準理論を超える新しい物理現象は未だ発見されておらず、今後の研究を待たねばなりません。

エネルギー・フロンティア実験の使命は、標準理論の先にあると思われるより基本的な物理法則についての手がかりを得ることにあります。LHCは、重心系14TeV のエネルギーを実現し、世界随一のエネルギー・フロンティア加速器ですが、素粒子物理学の標準模型では説明できない現象をまだ見つけていません。

日本では、LHCの後継加速器として、国際リニアコライダー(ILC)計画が、具体的に進んでいました。しかしながら、LHCが新たな現象を発見できていないため、ILC計画はうまく進んでいません。そこで、登場してきたのが中国です。中国が2030年代に加速器を持つ計画を提案しました。この加速器は全周50~100kmの円形の衝突型加速器です。中国は、最先端の加速器実験においても、主導権を狙おうとしているかのようです。

出典:Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 11

一方、米国は加速器の巨大化ではなく、ニュートリノ研究に注力する方向性のようです。素粒子の標準模型は、ニュートリノには質量がないことを前提に築かれていますが、ニュートリノ振動の発見により、ニュートリノに質量があることが分かり、素粒子の標準模型の修正を迫っている中心的な粒子にターゲットを絞り込もうとしています。

最近になって、高エネルギー宇宙ニュートリノを観測することで、量子重力の検証が出来ることが示唆されました。量子重力は、今だ観測も実験での検証もなされていませんが、素粒子物理の標準模型では説明できない現象です。素粒子の標準模型を超える現象は、巨大な加速器を使った実験ではなく、観測という手段によって見出されるのかもしれません。

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