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量子コンピュータで探る量子重力

量子もつれは、不気味な(spooky)遠隔作用とアインシュタインに言わしめた現象だ。量子もつれは、多粒子系がもつ特別な性質で、ひとつの粒子の測定が別の粒子の状態に影響を及ぼす。2つの量子系が十分な距離を持って離れていても相関がなくならない。系の一部分と見なせるものの測定でも、系全体を測定していると考えなければならない(『現代の量子力学』J.J.サクライ)。近年、ノーベル賞受賞のレオナルド・サスキンドは、量子もつれの関係にある粒子対はワームホールでつながっているという仮説を提案している。ワームホールとは、時空がきわめて強く変形して、元々は遠く離れたふたつの場所だったものが、短いトンネルで結びつけられるという現象だ。レオナルド・サスキンドは、ひも理論の先駆者で、ホーキング博士との「ブラックホール論争」で有名だ。一見、量子もつれとワームホールは何の関係もないかと思われるものだが、量子重力を考えるうえで重要になってきていると言う。
全ての場が持つ性質である波動性は、重力の場合、重力波としてすでに観測されているが、重力の量子は観測も実験での検証もなされていない。
量子重力の検証は、超高エネルギー宇宙ニュートリノを観測すればできることが示唆されていた。高エネルギー天体から放出されたニュートリノは、量子重力の効果を受けて地球へ到達する可能性があるためだ。
ニュートリノの観測といえばスーパーカミオカンデだが、南極の地下という驚くべき場所にニュートリノの観測所がある。アイスキューブ・ニュートリノ観測所だ。スーパーカミオカンデは水を使って、ニュートリノとの衝突を観測するが、ここでは水の代わりに南極の氷床を使う。ニュートリノの観測はスーパーカミオカンデを含め、約数TeV程度までのニュー トリノしか観測できなかったが、アイスキューブではPeV(1000 TeV = PeV)のエネルギーを持つニュートリノを観測できる。

アイスキューブでは、南極の氷床深部にある検出器で得られたデータを解析して量子重力の効果を検証している。
一方、量子コンピュータを用いた量子重力の研究がされ始めている。ワームホールはまだ見つかっていないが、量子コンピュータは、量子もつれを巧みに活用するためワームホールの関係を探ることができる。
カリフォルニア工科大学の物理学者であるMaria Spiropulu(マリア・スピロプル)たちは、9個の量子ビットをもった量子コンピュータを使ってホログラフィック・ワームホールの作成に成功したと報告している。今後、量子重力の検証に量子コンピュータが使用される可能性を示唆している。

参考文献
Nature Physics volume 18, pages1287–1292 (2022)
Nature volume 612, pages51–55 (2022)


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