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書物に見る昭和の趣 1 色川武夫 喰いたい放題

随筆や小説には、その時代の雰囲気を色濃く残した描写がよく出てきます。その文章を読むだけで、その時代のある場面をありありと思い浮かべることができるのです。
私は、その内、昭和っぽい部分をブログで抜き出しをしています。
そこでは、主に抜き出しで、ちょっとコメントをつけるだけなんですが、ここではもう少しいろいろ書いてみたいと思います。
まず最初は、色川武大の喰いたい放題から。
色川さんという方は昭和4年生まれ。
武大は「たけひろ」もしくは「ぶだい」と読むのだそうで、私はてっきり「たけお」と読むのかと思っていました。
因みに「たけお」お父さんの名前で。武夫と書くのだそうです。なんだかややっこしいです。
この方別の名前でも小説を書いていて、その名が阿佐田哲也。麻雀小説を書きプロ雀士として活躍する時はこの名前を使ったのだそうです。
ナルコレプシーという難病にかかっていたことも往時は有名でした。
往時というのはいつ頃かというと、昭和40年代から昭和50年代。
まさに昭和の日本が元気だった時代に活躍したのですね。
終戦の時に16歳ということは、焼け跡のこともよくご存じの世代になります。
因みに亡くなったのが平成元年。まさに昭和の後半に活躍時期がぴったりと収まるのですね。

「喰いたい放題」というエッセイ集は、1984年、昭和49年に潮出版から出されています。おそにくは何か雑誌に連載されたものと思います。

私がブログで引用した内、まず一つ目が、「おうい卵やーい」という作品からの引用です。

今から十二、三年ばかり前になるけれども、国電目白駅の横手の石段をおりたあたりの路傍に、夕方になると、主婦たちの列ができる。しかしそのへんに店屋があるわけではない。定まった電信柱が彼女たちの目標で、やがて、そこへ七十ぐらいの小柄な老人が、汗のにじみ出た帽子をかぶり、大きなリュックを背負い両手に石油缶をぶらさげて、まるでかたつむりが住み家を背負って移動するような形で、息も絶え絶えになって現れる。

 お爺さんは毎朝、暗いうちに起きて汽車で甲府の在の方まで行き、たまごを背負ってくるのである。降っても照っても、休みなし。雨降りの日は、商店街のアーケードの下に売り場を作る。

 大量生産の無精卵ではなくて、農家の庭で放し飼いにしてある鶏が、自然産んだたまごである。そういうたまごは、甲府の在でも駅から相当に奥へはいらなければならない。

以上が引用箇所になります。
この老人の話はいつ頃の話なんでしょう。
元気な放し飼いの鶏が生んだ卵。おいしそうですね。
それにしても、それを生業にしてしていたお年寄り、どんな人生を歩んでこられたのか、気になります。
いつ頃のことなんでしょう。
昭和30年代の初めころかしら。
この時代にはこんな感じの方がいらっしゃいました。
私の記憶というよりは私の母親の思い出話なんですが、近所に、通称「おんとつそうじのおじさん」と呼ばれている方がいました。
いや、家の母だけがそう呼んでいたのかもしれません。
当時は、近所の家の多くが、風呂の燃料を薪や石炭を使っていました。
そこでその煙突を掃除する必要があるのですが、それを生業にしていたのです。それだけではなくて、小さな養豚場を経営されていてその糞を農家に収めたりもしていました。
同居の家族は多分いなかったのではないかと思います。
こういう人たちの人生の一コマを少しでも残せたらと感じるのですが、今やもはや手遅れですね。

もうひとつ。

私どもの世代が最初におぼえた酒は、例外なしに稀代の悪酒であったはずである。
私が敗戦の年に十七歳。それまで酒を口にしなかったわけではないが、手銭で、きゅっきゅっとやりだしたのはあの乱世の頃からで、酒といえばガソリン、薬用アルコール、バクダン、粕取り焼酎、ドブロク、の次第だった。いずれも強烈な臭いがして、鼻をつまみ、ひと口呑んではあわてて水を含んで口の中を洗い流すという始末だった。

これは、酒は涙かというタイトルの中の一節です。
戦後すぐの闇市の時代のことなんでしょうね。
この時代のことは私は知る由もありませんが、まぁ、壮絶な時代だったんでしょうね。
薬用アルコールを水で薄めて、という話は他でも読んだことがあります。
消毒用アルコールはダメなんだそうですね。なぜか?
メチルアルコールが配合されていて飲用に使えないようにしてあるんださうです。
そういえば、闇市の雰囲気を少しだけ感ずることのできる、今や日本でも限られた一角である、立石の仲通り商店街が風前の灯のようです。
再開発の直前です。
闇市とは違うんだろうとは思いますが、強いて言えばそれを思い起こせる街。ご興味がある方はお急ぎください。

以下に私の引用箇所とブログのアドレスを書いておきます。
ご興味ある方はどうぞお立ち寄りください。
あっそもそも引用した色川武大の喰いたい放題ですが、1984年に潮出版から出され、その後1990年に集英社文庫、さらに2006年に光文社文庫から出ています。
いずれも絶版かもしれません。古本屋を漁ってください。

昭和情緒覗き見 1 色川武大 喰いたい放題 から おうい卵やあい

  

昭和情緒覗き見 2 江戸前の落ちこぼれ もんじゃと豆かん 色川武大

昭和情緒覗き見 3 色川武大 右頬に豆を含んで~ グリーンピース


昭和情緒覗き見 4 及ばざるは過ぎたるが如し 色川武大

昭和情緒覗き見 5 あつあつのできたて姐ちゃん 色川武大


昭和情緒覗き見 6 フライ屋風来坊 色川武大

昭和情緒覗き見 7 酒は涙か 色川武大

昭和情緒覗き見 8 徹夜交歓 色川武大


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