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足立に暮らす

十年間、足立区に在住している。上京当初は賃金が安かったので、止むを得ず、賃料が最も安い綾瀬に暮らし始めたのであるが、気が付くとこの街に愛着が湧き、最初のマンションを退去した後も数百メートル離れた場所に部屋を借り、八年ほど同地で生活をした。足立区に本社のあるスーパーマーケットチェーン、ベルクスにて食材を買い、朝昼晩、自炊をし、職場へは弁当を持参して、食費を節約をしながら、傍らで趣味の読書と音楽を愉しんで暮らしていたが、社会人生活が五年を過ぎ、経験社数が四社目となる頃より、少しく貯金が出来、生活に余裕が出たので、近所の酒屋や居酒屋と馴染みになり、曲がりなりにも社交的で文化的な生活をするようになった。
他区の住人が想像するような治安の悪い足立区像は、警察出身の女性区長の区政下で犯罪の取り締まりが強化された為に、名実ともに過去のものとなり、加えて社会的弱者への区によるサポートが充実している他、北千住の学びピア21に代表されるような教育への投資が為され、中央図書館の蔵書は学術的・資料的価値の高いものが揃っている。リスキリングなる言葉が流行する遥か以前より、社会人生活の中で、仕事と直接関係する事柄のみならず、自身の個人的関心の及ぶ分野についても、継続的に学習を続けていたが、その際に私が重宝したのは、他でもなく区立図書館の提供するサービスであった。
二年前に、例によって足立区内での引っ越しをし、区役所周辺に位置するマンションにて起居しているが、千代田線の終点にして始発駅である綾瀬を離れてみると、居酒屋の類が少ない事も関係してか、全般的に落ち着いており喧騒を離れる事が出来ている。最寄り駅が変わった事で、新天地にて近所の酒屋や床屋との関係を一から構築する必要に暫く追われたが、今は街の一員として暮らしていけるようになりつつある。コロナ禍で在宅勤務が世界的にも一般化したが、転職活動によって、今や多くの企業が出社必須でなくなっている事が分かってもいるので、東京駅周辺へのアクセスがし易く、かつ賃料の高くない足立区は地理的・経済的にもメリットが多い。綾瀬は開発対象となり、今後、かつての下町風景は姿を徐々に消してゆく事になるであろうが、私の暮らす地域は、北千住のように人口が集中してはいないものの、銭湯が生き残っており、田舎であった頃の足立区の風景が残存しているが、その傍らで、一方で外国人による飲食店の開業が相次いでおり、日本の外からの新たな風が吹き込む事で、街の風土に変化が生じる事が予測される。
足立区全域で公立学校や図書館等の改修工事が行われているが、家庭を持つ人にとっても住みよい区へと着々と歩みを進めていると言えよう。

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