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○日本語教育・日本語教育学評論

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日本語教育と日本語教育学などで折々に感じたことを発信しています。
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2022年10月の記事一覧

日本語教育の内容と方法の論じ方について③ ─ 「わたしたちの実践」の創造に向けて

 日本語教育のために、なぜ教師向けの企画・計画書が重要なのでしょうか。なぜ習得と習得支援の考え方も加えなければならないのでしょうか。このセクションではそのようなテーマをめぐって論じます。 1.Scarcella and Oxford(1992)の言語促進活動仮説 1-1 第二言語の習得をめぐる3つの仮説  第二言語の習得に関しては、以下の3つの仮説が提出されています。筆者流の言葉遣いでごく大雑把に説明します。  そして、第二言語習得研究では、それぞれの仮説を支持する証拠が

日本語教育の内容と方法の論じ方について② ─ 学習段階の解釈について

 「論じ方について①」で、第二言語の習得と習得支援についての考え方を企画・計画書に含めるべきとの議論をしました。また、さらりと日本語力ということも言いました。  日本語技量(Japanese language capacity)、あるいはシンプルに日本語力というのは、どのような知識や技能などがその基盤にあるにせよ、たどたどしく話す状況や語の形式や文の整序性などに問題がある状況や相手の言うことがわからないで何度も聞き返す状況なども含めて、日本語で言語活動に従事する総体としての能

日本語教育の内容と方法の論じ方について① ─ 誰に向けて発信するのか

 言語教育を企画するにあたって参照される基礎資料として、CEFRや、JFスタンダードや日本語教育の参照枠などがあります。後2者はCEFRの焼き直しなのでCEFRを直截に読める人にはあまり価値はないと思います。また、後2者はCEFRの邦訳に基づいて作成されており、そもそもその邦訳での各レベルの訳が十分に原著の趣旨を汲んだものになっていません。そして、より重要な問題は、後2者を作成した主体がその利用方法についてあまり自覚的でないことです。一連の「議論について」では、その点について

日本語の習得と習得支援について丁寧に議論する② ─ シャドーイングのキモは疑似的な当事者経験

 「丁寧に議論する①」で、「学生たちは言語知識を身につけているが運用能力に結びついていない」ということについて、丁寧に議論しました。そして、最後の部分でシャドーイングの有効性を指摘しました。今回は、シャドーイングの有効性について議論します。   1.演劇的指導となぞり語り  言語教育ではしばしば演劇的手法の有効性がしばしば論じられます。セリフをしっかり「身につけて」実際に演じるという方法は有効でしょうし、実際に体を動かして演じなくても台本のセリフをその人物になりきって「演じ