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○日本語教育・日本語教育学評論

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日本語教育と日本語教育学などで折々に感じたことを発信しています。
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2022年4月の記事一覧

生活者のための日本語教育と日本語支援のあり方について ④: 実用的な日本語と自己表現の日本語という2本柱によるカリキュラムの標準化

1.人と交わってお互いのことを話して人生を分かち合う日本語=自己表現の日本語の提案  生活上の諸活動を営む上で必要な日本語、仕事を遂行するために必要な日本語などを実用的な日本語と呼ぶことにしましょう。文化庁がこれまで進め、今後も進めようとしているカリキュラムの標準化では、端的に、実用的な日本語のみが注目されています。この4回シリーズで主張してきたことは、生活者のための日本語教育/日本語支援として、実用的な日本語だけでよいのか、ということです。  「人が生きることを営むというの

生活者のための日本語教育と日本語支援のあり方について ②: 教員養成という課題と「カリキュラムの標準化」という課題

 先に発信した「日本語教育の制度化の光と影」と並行して、もう一つ、発信したかったより重要なテーマがこのテーマです。前者(教員養成)については特に説明は必要ないと思います。後者(「カリキュラムの標準化」)は、「標準的なカリキュラム」(2010年5月)や、「日本語教育の参照枠」(2020年11月)とそれに続く予定となっている「生活Can do」、「就労Can do」、「留学Can do」などを包括して「カリキュラムの標準化」と呼んでいます。  最初に結論的なことを言ってしまいます

生活者のための日本語教育と日本語支援のあり方について ③: 人間というこの何ともことばに依拠した存在 ─ そして、日本語教育のカリキュラムの標準化の問題

1.昆虫や動物の個-性  人間の個-性ということを考えてみたいと思います。「個性」とするとすでに人間だけの話になってしまいますので、「個-性」としています。「その個体としての特別な性質」という意味です。まずは、昆虫や動物の個-性から。  昆虫や動物に個-性はあるでしょうか。例えば、セミのことを考えてみましょう。クマゼミというのをご存じでしょうか。夏に早朝から「シャンシャン」と鳴く何ともうるさいセミです。  虫好きの人でない限り、「すべてのクマゼミは、同じ大きさ、胴体と羽根の

生活者のための日本語教育と日本語支援のあり方について ①: 日本語教育の制度化の光と影

 「生活者のための日本語教育と日本語支援のあり方について」ということで①から④までの4回シリーズで発信します。①は、いわば「前哨戦」、②が主要な主張。そして、③は、②の主張をサポートする人間学的orことば学的な根拠。最後の④は、②の主張に沿った改革案の提案となります。  日本語教育振興法の施行(2019年6月)以来、文化庁国語課を推進母体として、日本語教育の制度化が「重要な壁」にぶつかりながらも、前進つつあります。「重要な壁」というのは、制度化が、(a)「日本語教師の資格」