第25回「夏に聴きたい!植木さん、谷さんの平成の名盤」
1970年代以降、クレイジーキャッツのメンバーは個々の俳優活動などが中心になっていましたが、平成に入ってから植木等さんは「スーダラ伝説」「スーダラ外伝」など次々とCDアルバムをリリース。スチャラダパーのアルバムに参加するなど若手のミュージシャンとの共演機会を増やしていた谷啓さんもソロアルバムを発表しました。その中から、夏聴くのに最適なお二人のCDアルバムを紹介します。
○「植木等的音楽」(1995年7月発売、ファンハウス)
アルバムをプロデュースした大瀧詠一さんは、解説で次のように述べています。
とにかく、植木等は何度でも復活する。そして21世紀は必ず植木等で幕を開ける。これは歴史的必然である。ここに私が(予言)する。これぞマコトの「うれしい予言」。このアルバムは(予言集)である。
娯楽映画研究家・音楽プロデューサーの佐藤利明さん著「クレイジー音楽大全」(シンコーミュージック・エンターテイメント)では、このアルバムを次のように紹介しています。
「スーダラ外伝」以来、四年ぶりとなったオリジナル・アルバム。草野浩二(大瀧詠一さんを起用し、クレイジーキャッツの「実年行進曲」を制作した音楽プロデューサー)によれば当初、フランク・シナトラのアルバム「デュエッツ」を目指したという。
三波春夫との「新二十一世紀音頭」、裕木奈江との「花と小父さん」、谷啓のトロンボーン伴奏による「旅愁」などの豪華共演が実現。また植木の好きな「しかられて」もアクセントになっている。
ナイアガラ的には新曲「針切じいさんのロケン・ロール」(「ちびまる子ちゃん」の主題歌として大瀧さんがプロデュース。原曲はシェブ・ウーリーの「ロックを踊る宇宙人」。さくらももこさんやTARAKOさん、イルカさんもコーラスで参加)、「FUN×4」そして「ナイアガラ・ムーン」のカバー。
そして超大作「サーフィン伝説」は、60年代ポップスの日本語による洋楽カバー、そしてクレイジー・サウンドの幸福な融合。これこそ、カバー・ポップス史の楽曲による実験的検証でもある!
「サーフィン伝説」は、60年代のサーフサウンドに植木さんの日本語を載せた軽快な楽曲です。また大瀧詠一さんの代表的なアルバム「ア・ロング・バケーション」の中の曲を植木さんがカバーした「FUN×4」は、ナイアガラ・ワールドそのもので、暑い夏にオススメ。
植木さんの「FUN×4」について、とんねるずの石橋貴明さんはTBSラジオ「石橋貴明のGATE7」(2022年3月6日)の中で、次のように語っています。
このね、この軽さが出ないんだよね。やっぱり植木さんのこの軽さって、もう天性なんだよね。植木さん、本当に物静かな方で、紳士で。でもすごくとんねるずを好きでいてくれて。「あいつらはいい」って。うん、やっぱり大瀧さんのアレンジも最高だよね。
○「ハラホロ・ワールド 谷啓」(1992年2月発売、ファンハウス)
ミュージシャンとしても1級の実力をもち、稀代のエンターテイナーである谷啓さんのバラエティに富んだアルバム。
谷啓さんのヒット曲「愛してタムレ」平成版は、ヒップホップから転調してのハワイアンサウンド。「アイヤ・ハラホロ」は沖縄サウンド。「今宵カリビアン・ショー」はカリブ海を彷彿とさせるロマンティックな南国ムード。「怪奇ラップ現象」は、ホラー映画マニアの谷さんならでは。不気味なイントロではじまり、古今東西のホラー映画の主人公が登場。谷さんがラップに挑戦し、ラップ音楽と食品包装のラップとのヘンテコリンな融合。いずれも聴けば涼しくなる夏にピッタリの作品。一転「雨あがり」はスイング・ジャズの魅力とともに谷さんのトロンボーンと優しい歌声が心地良い楽曲です。
谷啓さんは、これらの楽曲を引っさげ1992年7月、自らが率いるバンド、スーパーマーケットのメンバーと共に渋谷のクラブクアトロでライブ「ガチョーン・in the night〜谷啓のハラホロ・ワールド」を開催。私も見に行きましたが、幅広い年齢層のファンが集結。今や日本を代表するトロンボーン奏者中川英二郎さん(当時高校2年生)やコーラスのハラホロガールズとの共演で、アルバムの楽曲だけでなく、スカ風の「ヘンチョコリンなヘンテコリンな娘」、世界の民族音楽メドレー、ビリーヴォーンメドレー、スイング・ジャズメドレー、「カクテル・フォー・トゥー」の一人当て振り演奏模写など音楽とギャグの多彩な内容で、谷啓さんの魅力満載、これぞエンターテイメントという内容でした。植木等さんのコンサートのエンディングは「星に願いを」(作詞植木等・藤田敏雄、作曲萩原哲晶)ですが谷啓さんのコンサートのエンディングは谷さんのトロンボーン演奏で、ディズニー映画の主題歌「星に願いを」(作詞ネッド・ワシントン、作曲リー・ハーライン)でした。この模様は、1992年の夏にNHKのBSで放映されましたので、是非、アンコール放送してもらいたいです。
今回紹介した2枚のアルバムは、入手困難でファンの間でプレミアム盤となっていたため、2019年7月、植木等さんの「スーダラ伝説」「スーダラ外伝」と共に、ドリーミュージックから完全復刻盤として発売されています。
植木さんは68歳、谷さんは60歳でこのアルバムを発表、お二人の新しいものへ挑戦する姿勢を見習いたいと思っています。
暑い夏に、これを聴けば身も心も軽く涼しくなること請け合いです。
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