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辻邦生作品レビュー/短編小説

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辻邦生さんの小説作品のうち、短編のレビューをアップしていきます
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#物語

『叢林の果て』キューバ革命を下敷にした、ゲリラ軍の男性と少女の生き様のドラマ

発表年/1968年 1968年に、雑誌「文学界」に発表された短編『叢林の果て』。ストーリーは、1955年に革命軍のカストロ兄弟とチェ・ゲバラが、政治犯として亡命していたメキシコから、戦闘開始のためキューバへプレジャーボートで渡ったという歴史的事実が下敷になっています。 キューバは長らくアメリカの支配下にありましたが、クーデターで政権を奪取したフルヘンシオ・バティスタは、その後もアメリカの力を借りて独裁体制を築き上げようとしていました。そんな政府に対し革命の狼煙をあげたのがカ

『ある生涯の七つの場所2』/夏の海の色 第二回 「海峡」 戦争とは、平和とは?

連作短編『ある生涯の七つの場所2/夏の海の色』第二回になります。第一回及び『ある生涯の七つの場所』については以下をご覧ください。 今回は、「黄いろい場所からの挿話」「赤い場所からの挿話」それぞれ三つずつの短編の中でも、特に「黄いろい場所からの挿話Ⅻ.海峡」について書きたいとおもいました。 今このときも、世界のあちらこちらで戦争が続いています。「海峡」は例によって直接戦争を扱った作品ではないけれど、読み終わったとき、今も続いている戦争について、どうしても考えないわけにはいきま

『ある生涯の七つの場所2』100の短編が織り成す人生絵巻/夏の海の色 第一回

連作短編『ある生涯の七つの場所2/夏の海の色』その第一回です。「黄いろい場所からの挿話Ⅷ・Ⅸ」「赤い場所からの挿話Ⅷ・Ⅸ」の紹介です。『ある生涯の七つの場所』についてはこちらをご覧ください。 1.「黄いろい場所からの挿話」「赤い場所からの挿話」についてここで一度、ここまでの、それぞれの物語の全体像についてお伝えしたいとおもいます。先に取り上げた『霧の聖マリ』が、二つの色の前半になります。『夏の海の色』と題される一連の短編は、その後半です。 ・「黄いろい場所からの挿話」につ