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辻邦生作品レビュー/短編小説

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辻邦生さんの小説作品のうち、短編のレビューをアップしていきます
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#純文学

『ある生涯の七つの場所2』/夏の海の色 第二回 「海峡」 戦争とは、平和とは?

連作短編『ある生涯の七つの場所2/夏の海の色』第二回になります。第一回及び『ある生涯の七つの場所』については以下をご覧ください。 今回は、「黄いろい場所からの挿話」「赤い場所からの挿話」それぞれ三つずつの短編の中でも、特に「黄いろい場所からの挿話Ⅻ.海峡」について書きたいとおもいました。 今このときも、世界のあちらこちらで戦争が続いています。「海峡」は例によって直接戦争を扱った作品ではないけれど、読み終わったとき、今も続いている戦争について、どうしても考えないわけにはいきま

『ある生涯の七つの場所2』100の短編が織り成す人生絵巻/夏の海の色 第一回

連作短編『ある生涯の七つの場所2/夏の海の色』その第一回です。「黄いろい場所からの挿話Ⅷ・Ⅸ」「赤い場所からの挿話Ⅷ・Ⅸ」の紹介です。『ある生涯の七つの場所』についてはこちらをご覧ください。 1.「黄いろい場所からの挿話」「赤い場所からの挿話」についてここで一度、ここまでの、それぞれの物語の全体像についてお伝えしたいとおもいます。先に取り上げた『霧の聖マリ』が、二つの色の前半になります。『夏の海の色』と題される一連の短編は、その後半です。 ・「黄いろい場所からの挿話」につ

『ある生涯の七つの場所』100の短編が織り成す人生絵巻/霧の聖マリ第二回 黄いろい場所、赤い場所からの挿話4〜7

『ある生涯の七つの場所/霧の聖マリ』その第二回。「黄いろい場所からの挿話」「赤い場所からの挿話」それぞれⅣ〜Ⅶです。『ある生涯の七つの場所』の詳しい説明はこちらをご覧ください。 1.「黄いろい場所からの挿話Ⅳ〜Ⅶ」Ⅰ〜Ⅲのうち恋人のエマニュエルが登場するのはⅢのみですが、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶは常にエマニュエルと一緒にいます。Ⅳはまだ「私」がエマニュエルと知り合う前の話です。 Ⅳ.「ロザリーという女」 「私」は大学生です。ロザリーというのは「私」が下宿していた、中庭のある建物の2階

『ある生涯の七つの場所』100の短編が織り成す人生絵巻/霧の聖マリ第一回 黄いろい場所、赤い場所からの挿話1〜3

辻邦生さんの作品には連作短編というものがあり、中でも一番壮大なのが『ある生涯の七つの場所』だということをこちらでお話しました。 全作を再読したのちにご紹介するのが本当は一番なのだけれど、それだと読了に『春の戴冠』よりも長くかかってしまうので、少しずつご紹介していきたいとおもいます。 その前にまず概要をお話いたします。 1.『ある生涯の七つの場所』その全体像についてこの作品についてご理解いただくには、何よりあとがきにある辻邦生さんご自身の説明をお読みいただくのが間違いないと

『城』小説家 辻邦生の始まり。運命に左右されるリゾート地の夏。

発表年/1961年 短編『城』は、辻邦生作品の中で初めて商業出版誌に掲載されたものです。辻邦生さんはこの小説で「小説を書くというエクスタシーを全身で味わった」とおっしゃっています。そのことは、このあとに書いた『ある晩年』についてのあとがきでも語っておられます。 さらに雑誌『近代文学』を創刊された埴谷雄高氏から、いいものが書けたら「近代文学」に載せてあげる、と言われたことで、辻邦生さんは最初から、 ということになります。何と羨ましい出発でしょうか・・・ 1.フランス滞在か