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辻邦生作品レビュー/短編小説

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辻邦生さんの小説作品のうち、短編のレビューをアップしていきます
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2024年5月の記事一覧

『ある生涯の七つの場所』100の短編が織り成す人生絵巻/霧の聖マリ第二回 黄いろい場所、赤い場所からの挿話4〜7

『ある生涯の七つの場所/霧の聖マリ』その第二回。「黄いろい場所からの挿話」「赤い場所からの挿話」それぞれⅣ〜Ⅶです。『ある生涯の七つの場所』の詳しい説明はこちらをご覧ください。 1.「黄いろい場所からの挿話Ⅳ〜Ⅶ」Ⅰ〜Ⅲのうち恋人のエマニュエルが登場するのはⅢのみですが、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶは常にエマニュエルと一緒にいます。Ⅳはまだ「私」がエマニュエルと知り合う前の話です。 Ⅳ.「ロザリーという女」 「私」は大学生です。ロザリーというのは「私」が下宿していた、中庭のある建物の2階

『ある生涯の七つの場所』100の短編が織り成す人生絵巻/霧の聖マリ第一回 黄いろい場所、赤い場所からの挿話1〜3

辻邦生さんの作品には連作短編というものがあり、中でも一番壮大なのが『ある生涯の七つの場所』だということをこちらでお話しました。 全作を再読したのちにご紹介するのが本当は一番なのだけれど、それだと読了に『春の戴冠』よりも長くかかってしまうので、少しずつご紹介していきたいとおもいます。 その前にまず概要をお話いたします。 1.『ある生涯の七つの場所』その全体像についてこの作品についてご理解いただくには、何よりあとがきにある辻邦生さんご自身の説明をお読みいただくのが間違いないと

『城』小説家 辻邦生の始まり。運命に左右されるリゾート地の夏。

発表年/1961年 短編『城』は、辻邦生作品の中で初めて商業出版誌に掲載されたものです。辻邦生さんはこの小説で「小説を書くというエクスタシーを全身で味わった」とおっしゃっています。そのことは、このあとに書いた『ある晩年』についてのあとがきでも語っておられます。 さらに雑誌『近代文学』を創刊された埴谷雄高氏から、いいものが書けたら「近代文学」に載せてあげる、と言われたことで、辻邦生さんは最初から、 ということになります。何と羨ましい出発でしょうか・・・ 1.フランス滞在か

『空の王座(からのみくら)』運命を操るかのように、王座は待ち続ける・・・

発表年/1966年 以前にも以下の記事で、辻邦生さんは《運命》や《宿命》に翻弄される人物をよく描く、といったことを書いたことがあります。 この『空の王座』に登場する考古学者、南村順三も、そんな、自分ではどうすることもできない運命にたびたび弄ばれた人物のひとりです。 話は南村の訃報に始まり、その後遡って、新聞記者である「私」と「私」の旧友で考古学者の田原、そして南村の三人を軸に展開されます。南村も田原も考古学調査隊の研究者として海外で遺跡調査に従事していました。 1.<空の