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読書メモ 『なぜ人と組織は変われないのか』

なぜ、日本語タイトルこうなったのだろう。少し手に取りづらい。英語タイトルは、"Immunity to Change - How to overcome it and unlock the potential in yourself and your organization(変化への免疫〜それをどのように克服し、あなたと組織の可能性を解き放つのか)"。これでもかなり自己啓発色の強いタイトルだが、著者は Havard graduate school of education の Robert Kegan 教授で、adult learning と professional development が専門。昨年に出た同氏の「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか」の方が、よく知られているかも。

「変化への免疫」の構造

「うまくチームをマネジメントしたい」「イライラせずにコミュニケーションを取りたい」「やせたい」などあらゆる「変えよう・変わろう」とする行為が失敗する、どうしてもうまくいかないのは、そこに immunity(免疫)があるからだと著者は主張する。それは、その「改善目標」に対して「阻害行動」が働いていることが多く、その背景には本人すら自覚できていない「裏の目標」があるからだ。さらにその「裏の目標」は、その人の経験や認識により形成された「強力な固定概念」があると、考える。

例えば、「新しい考えを柔軟に取り入れるようになりたい」という改善目標があるにも関わらず、「相手の話を最後まで聞かない」「すぐに自分の意見を言ってしまう」というような阻害行動に至ってしまう。それをなくそうとしても、なかなかうまくいかない。なぜか。
よく振り返ると、そこには「自分のやり方でやりたい」や「自分が影響を及ぼしていると実感したい」というような裏の目標が見えてくる。そしてそうした目標は、これまでの自分の成功や失敗の経験によってつくられてきた「固定概念」によって、知らない間につくられてしまっている。例えば、「経験豊富な自分の考えの方が正しいはずだ」「全てをフィードバックしないと、部下は成長しない」など。
改善目標は同じでも、人によって裏の目標や固定概念は様々だ。そして、これを認知して本質的な改善をしなければ、人や組織はなかなか変わることができない、というのが本書の趣旨。後半は、その実践例が続く。この「変化の免疫」の構造、自分や組織に当てはまると、感じる人も多いのではないだろうか。

知性の三段階

もう1点。冒頭での主張は、「大人になると脳の成長は止まる」は嘘で、「大人の知性」は成人後も成長し続けるというもの。筆者は、「大人の知性」を三段階で説明しており、段階を経るごとに仕事の能力は上がっていくとしている。「変化への免疫」を克服しながら、この段階を上っていくことを目指すことを、よしとしている。
① 環境順応型知性
周囲からの見られ方や期待によって、仕事における自分のあり方が決定される。従順、指示待ち。従来の決まった仕事を行う組織では、このタイプで問題なかった。
② 自己主導型知性
周囲を客観視し、自分の価値基準に基づいて判断できる。自律的、主体的にものごとを考えて、行動し、それを通じて自分の仕事でのあり方を決定する。
③ 自己変容型知性
自分自身の価値基準を客観的に見て、その限界を知り、他者の価値基準を受け入れながら「学習すること」に重きをおく。自分の価値基準と他者のそれを絶えず統合しながら、自分のあり方を決定する。

①は、いわゆる「指示待ち」状態だろう。どんなに仕事が速くて正確でも、①の状態では、仕事に「判断と決定」が伴わないため、任せられる仕事の大きさは限られてしまうし、他の人のマネジメントやコーディネートは難しい。
②は、多くの人が思う「できる人」のイメージではないだろうか。私の「できる人」像も1年くらい前まではそうだった。多くが論理的に考えられる人で、自分で意思決定をし、ぐいぐいと物事を進めるイメージ。
正直③のタイプの人に出会うことは、非常に少ないように思う。自分の考えも持ちながら「話を聞ける」リーダー。かなり個人的な印象だが、②は少し上の世代の従来のリーダーシップのあり方、③はこれからの新しい組織のリーダーシップといった感じがした。

感想

ここ1年くらいで、自分の内的な変化を感じている(まだまだそれが組織やさらに外側に、十分にはアウトプットされていないが)。「仕事のパフォーマンスや組織のあり方は、リーダーとしての自分の状態やセルフマネジメントに大きく依存する」と感じ、それを少しずつ考えようとしてきたからだと思う。振り返ると、多くの「裏の目標」や「固定概念」があった(今もこれからもあるだろう)。自分の経験、特に成功体験に根ざした「固定概念」を溶かしていくのは、非常に時間のかかる、精神的にも負荷のかかる作業。ただ、先の「変化の免疫の構造」に納得がいった方は、本書を読んでみてもいいのではないだろうか。

また、うちの団体では、1on1(上司と部下の個人面談)を職員からボランティアまでやっているが、改善のための具体的な方法を考える上でも参考になるのではと思う。「できる人」ほど、自己主導的にアドバイスをしがちかなと思う。私もやってしまいがち。

知性の三段階について、特に「②自己主導型」から「③自己変容型」への変化は、これからは必然的なものだと思う。どんなに優秀な人でも、こちらの意見を聴かず、質問にも答えず、ずっと自己主張を繰り返す人には、うんざりしてしまう。
変化のスピードが上がれば上がるほど、「今いる文脈で優秀か」ではなく「これからの文脈でも優秀か」が問われる。社会の多様性が増せば増すほど、「自分がどう感じ、考えるか」では十分にはならず、「他の人がどう感じ、考えるか」を取り込んでいく必要がある。
これから、「優秀さ」のもっとも重要な要素は「学習する力」になっていくのではないだろうか。そして、大人になってからの「学習」の根幹は、子どもの学習が「自己(認知、思考、価値観)をつくること」に対して、「自己と他者を統合し、自己を変容させていくこと」なのでは、と思う。


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