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司法審査の機会を奪ったチャーター便送還を違法とした2021年1月13日名古屋高裁判決確定しました〜その意義について

 2021年1月13日、名古屋高裁民事第2部(萩本修裁判長)は難民申請の異議棄却を告げられた翌日に強制送還された男性について、司法審査を受ける機会を奪った違法な強制送還であったと認め、国に賠償を求める判決を下しました。

 この判決に対して、原告側も国側も期限内に上告しなかったことから、判決は確定しました。

 非常に意義ある判決だと思います。

  国は、2013年からチャーター機を利用した一斉強制送還を度々実施してきました。その対象者の中には、今回の原告と同様、難民申請の手続中のため、法律上強制送還ができなかったところ(入管法61条の2の6第3項)、入管がチャーター便送還のタイミングに合わせて呼び出した上で異議棄却の通知をし、即時に収容、法律上は強制送還が可能な状態にした上で、外部の支援者や弁護士への相談をする機会を奪って強制送還された人も複数います。

 裁判の中で、国は、このような手法を取ることはチャーター便による一斉送還を実施するためには必要な方法であると開き直っています。

 今回の名古屋高裁判決は、このような入管の手法を真っ向から違法であると断じたものです。過去に同様の手法でされた強制送還をめぐる裁判(筆者も代理人で、現在東京高裁係属中)だけでなく、今後のチャーター便送還の在り方も変更を余儀なくされる、とても強い影響力のある、重要な判決だと思います。

以下に、判決中重要と思える部分を引用します。

判決引用(判決文12頁8行目以下)

(ア)入管法は、難民認定申請者を本邦にある外国人に限定しており(61条の2第1項)、当該外国人が退去強制令書の失効により本邦から出国した場合、難民不認定処分の取消しを求める訴えの利益は失われると解される(最高裁判所平成5年(行ツ)第159号同8年7月12日第二小法廷判決・集民第179号563頁)から、同処分に対する異議申立棄却決定がされた被退去強制者が集団送還の対象者に選定された場合、入管当局の前記の運用を前提とすると、異議申立てとは別に事前に難民不認定処分に対する取消訴訟等を提起するなどしていなければ、難民該当性に関する司法審査の機会を失うことになる。
 しかし、入管法等は、前記イのとおり、難民不認定処分に対する不服申立てについて、異議申立て、取消訴訟等又はその両方の手段を採り得るいわゆる自由選択主義を採用し、同処分を受けた者に異議申立てによる行政不服審査によるか取消訴訟等による司法審査によるかの選択を委ねており、もって同処分に対する是正の機会を保障する仕組みを採用している。そして、行政事件訴訟法46条1項は、行政庁の教示義務を定めて処分の相手方に対し権利利益の救済の観点から司法審査を受ける機会を保障しようとしているところ、これは難民不認定処分に対する異議申立棄却決定においても等しく打倒するものであり、現に本件不認定処分及び本件異議棄却決定の各通知に当たっても取消訴訟の出訴期間の教示が行われている(本件異議棄却決定の通知の際に交付された教示書2は直接には本件異議棄却決定に対する取消訴訟の出訴期間を教示する者であるが、これに先立つ本件不認定処分の通知の際に交付された教示書1で本件不認定処分に対する取消訴訟の出訴期間が教示されており、その出訴期間は同一である。)。また、同報14条3項は、行政不服審査請求をした場合にはこれに対する裁決が出るまで取消訴訟の出訴期間が開始しないとする旨を定めており、難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後において取消訴訟を提起することを可能なものとしている。

 このような入管法等による難民不認定処分に対する不服申立ての仕組み(自由選択主義)や実効的な権利救済の観点から司法審査を受ける機会を実質的に保障しようとする行政事件訴訟法の上記規定からすれば、難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後においても、同処分に対する取消訴訟等の提起を可能とし、もって司法審査を受ける機会を保障しようとしているものと解される(もとより、異議申立てによる行政不服審査は処分行政庁である法務大臣による簡易かつ迅速な違法不当な処分に対する是正の機会を保障するのに対し、司法審査は処分行政庁から独立した裁判所による違法な処分に対する是正の機会を保障する者であり、行政不服審査を司法審査と同一視することはできない。)。そして、上記の規定等からすれば、難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後に送還を停止すべき旨を定めた規定が存在しなことや、難民認定申請者が被退去強制者に該当する場合に被退去強制者について速やかに国外に送還すべき旨を定めた入管法52条3項が存在することをもって、その者の難民該当性に関する司法審査の機会が実質的に奪われることを正当化することは困難である。
 さらに、入管当局は、前記イのとおり、難民不認定処分に対する訴訟が提起されている場合には、これを提起した者の裁判を受ける権利に配慮し、当該訴訟が終結するまでの間、その送還を見合わせる運用を行っており、国際連合の条約審査(自由権規約、拷問等禁止条約)においても、行政事件訴訟法の定める教示義務等を踏まえ、難民認定申請者の司法審査の機会を確保すべく措置していることや、被退去強制者が難民不認定処分に対する訴訟を行う意思を有しているか否かを確認するなど裁判を受ける権利に配慮し、相当の期間その手続の経過を踏まえた上で送還の実施を判断していること等を表明している(甲13,14)。そうすると、難民不認定処分に対する取消訴訟等が提起されている場合における上記の運用が、入管当局に対し法的義務を課すものでないとしてもその自由裁量に属する事実上の取扱いにすぎないものと位置づけるのは相当ではなく、上記の運用との権衡に照らせば、難民不認定処分に対する異議申立てをした被退去強制者が、異議申立棄却直後に取消訴訟等を提起する意向を示していたにもかかわらず、集団送還の対象とされたことをもって、異議申立棄却決定について適切な時期に告知を受けられず、難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪われるものとすることは許容し難く、上記の対外的な表明とも整合しない。
 以上からすれば、難民不認定処分に対する異議申立てをした被退去強制者は、異議申立てを濫用的に行っている場合は格別、異議申立棄却決定後に取消訴訟等を提起することにより、難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪われないことについて法律上保護された利益を有すると解するのが相当であり、このように解することが憲法の定める裁判を受ける権利及び適正手続の保障や各種人権条約の規定(自由権規約2条3項、14条1項、難民条約16条)に適合するものというべきである。実質的にも、このように解さなければ、集団送還の対象者を選定するのは入管当局であるところ、被退去強制者が別途難民不認定処分に対する取消訴訟等を提起するなどしてない限り、入管当局の判断によって異議申立棄却決定後に取消訴訟等の意向を有する被退去強制者の難民該当性に関する司法審査の機会の有無が決定されることとなるが、このような扱いは、入管法等が難民不認定処分に対する不服申立てについて自由選択主義を採用していることや、全ての者につき民事上の権利義務に関する争いについて独立した公平な裁判所による公開審理を受ける権利を保障した自由権規約14条1項、行政処分に対し司法審査を受ける権利を保障しようとしている行政事件訴訟法の上記規定とも整合しない。

(イ)以上によれば、入管職員が、難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後に取消訴訟等を提起する意思を示していた被退去強制者について、集団送還の対象として異議申立棄却決定の告知を送還の直前まで遅らせ、同告知後は第三者と連絡を取ることを認めずに本国に強制送還した場合、これらの一連の公権力の行使に係る行為は、異議申立てが濫用的に行われたといえる特段の事情のない限り、上記の被退去強制者の難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪ったものとして、国賠法1項1項の適用上違法となるというべきである。
 これに対し、被控訴人は、難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後は送還を停止すべき旨を定めて規定がなく、集団送還の対象者に対して事前に同決定の告知を行わず、同告知後は第三者と連絡を取ることを認めないとする運用は、国費によりチャーター機を用いて多数の送還忌避者を一度に送還するという行政目的を安全かつ確実に達成するために必要かつ合理的な措置であるから、国賠法1条1項の適用上違法な行為ではないと主張する。しかし、集団送還やその確実かつ円滑な実施のために外部との連絡を遮断する措置につき行政目的に照らし一定の合理性が認められるとしても、上記のとおり、入管法等により難民不認定処分に対する不服申立てについ自由選択主義が採られ、自由権規約14条1項や行政事件訴訟法の前記規定が存在するなどの中で、異議申立棄却決定後に取消訴訟等を提起する意向を示していた被退去強制者が、集団送還の対象とされたために難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪われることを許容することはできない。したがって、被控訴人の上記主張を採用することはできない。

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