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【マニア向け】暴力的破壊主義者条項調査報告書

もう終わった話なので、蒸し返すつもりはないのですが、文字通りnoteとして記しておきます。
衆議院法務委員会で取り沙汰された入管法案の修正案について、以下のとおり書きました。余談ですが、noteには141スキが、Twitterでは926いいね、12.6万ビューをいただきました。

その中で、過去に適用例がまず存在しないだろうし今後もないだろう条項を削除したり、二重の疑いとなっている部分を修正した部分は、大した意味がないと切り捨てました。

で、先ほど別のファイルを探していたら、なんと自分自身が2020年に霞が関にある法務省の図書館まで行って調べて報告書を作っていたのがわかりました。

報告書の宛先もなく、何の目的で作ったのか、そもそも作ったこと自体忘れていたのですが、上記の主張を裏づけるものでしたので、noteとしてここに保管しておきます。

暴力的破壊主義者条項による退去強制手続に関する調査報告書

                                              2020/11/18 児玉晃一(弁護士)

第1 調査の目的
 入管法24条4号オ、ワ、カ、ヨ(条文は文末参照)に該当する、いわゆる暴力的破壊主義者が退去強制手続の対象となった事例が過去に存在するか否か。
第2 調査方法
 本日、児玉において、東京都千代田区霞ヶ関所在法務総合図書館において、法務統計年報及び出入国管理統計を閲覧して調査した。
第3 調査経過
1 出入国管理及び難民認定法の前身である出入国管理令が制定・施行されたのは昭和26年であることから、同年からの統計(「出入国管理統計」として独立した一冊となるのは昭和36年からであり、それ以前は法務統計の一部)を調査したところ、出入国管理関連の統計が掲載されたのは、昭和29年分からであった。
2 昭和29年の統計では、退去強制事由ごとの退去強制手続の統計は存在しなかった。
3 昭和30年から昭和36年までは、退去強制令書の発付について、退去強制事由ごとの統計が公表されていた。これらによれば、入管法24条4号オ、ワ、カ、ヨに該当する者は一人も存在しなかった。
4 昭和37年以後は、掲載されている統計の形式が変更され、24条各号の事由ごとのデータは開示されていない。以後は、収容に関連して、「不法残留」「不法入国・上陸」「刑罰法令違反等」との粗い分類がされた統計が公表されているだけで、暴力的破壊主義者が退去強制手続の対象となったことを示すデータは存在しない。平成19年の統計からは、これらに加えて「在留資格を取り消された者」「資格外活動」「出国命令を取り消された者」「難民認定を取り消された者」が加えられたが、暴力的破壊主義者条項に該当する者が存在するかどうかは不明である。
5 法務大臣官房司法法制調査部調査統計課「昭和の法務統計」(平成4年3月31日発行)「退去強制令書により送還された人員」(同544頁)によれば、「入管法24条4その他」で退去強制令書により送還された者が、昭和44年に2名、昭和45年に1名いることがわかるが、この分類では、入管法24条4号ハ、ニ(前者は「癩予防法の適用を受けている癩患者」、後者は「精神衛生法に定める精神障害者で同法に定める精神病院又は指定病院に収容されている者」。いずれも昭和56年改正時に削除*1)も項目として挙げられていないため、これら3名が暴力的破壊主義者条項に該当するか否かは不明である。
 同表によれば、昭和46年から昭和63年までは、「入管法24条4その他」の欄には一例も挙げられていない。
第4 結論
 上記調査の結果、暴力的破壊主義者条項に該当するとして退去強制手続が進められた事例は確認できなかった。
以 上

【入管法24条4号】
オ 日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入している者
ワ 次に掲げる政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入し、又はこれと密接な関係を有する者
(1) 公務員であるという理由により、公務員に暴行を加え、又は公務員を殺傷することを勧奨する政党その他の団体
(2) 公共の施設を不法に損傷し、又は破壊することを勧奨する政党その他の団体
(3) 工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廃し、又は妨げるような争議行為を勧奨する政党その他の団体
カ オ又はワに規定する政党その他の団体の目的を達するため、印刷物、映画その他の文書図画を作成し、頒布し、又は展示した者

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