【1分くらいで読める短編(2)】「おもう、ゆえに」

「明日世界が終るとしたらどうするよ。」

近所の串カツ屋で常連の仲間と話していると、そんな話になった。

思いのほかみんな真剣に考え出したが、すぐに思い浮かぶ者はいないようだった。あまりにみんなが黙りすぎて白けるといけないからとりあえず何か喋ってみようと僕は思った。

「僕はとりあえず寿司屋に行くかな。それからどうするのがいいかゆっくり考えるよ。そんなことすぐには決められないだろうからね。」

「俺が寿司屋だったらそんな日に店は開けないよ。」

と串カツ屋の大将が言うと、みんなが笑った。

「私が寿司屋だったら、いつも通り店を開けると思うな。」

りっちゃんと呼ばれている、仲間うちでは比較的若い女の子が真面目な顔で言った。

「どうして?」と誰かが聞いた。

「だって、それまで何年もお寿司屋さんだったのに、世界が終る最後の時だけ自分がお寿司屋さんじゃないなんて嫌だと思わない?」

「そんなこと言ったって、最後くらい贅沢したいじゃないか。」

「最後にならないと贅沢しないなんて、そっちの方がバカよ。それに本当に世界が終るかどうかなんて終ってみないとわからないんだし。」

「死んでみなくちゃ死んだかどうかわからないってことかい。」

「そうよ。」

「それじゃあわけがわからないよ。」

「でも世界が終ったときに、『ああ、世界が終ったな』って思う人がいないなら、世界が終っても世界が終ったことにはならないよね。」

と僕は口を挟んでみたけど、自分でも何を言っているのかよくわからなかった。みんなもめんどくさくなったみたいで、そこでその話は終わりになった。りっちゃんはもう少し話したそうにしていた。

僕は寝る前に自分で言った言葉の意味をまた考えてみたけれど、「もしも宝くじが当たった」時のことを考えた方がずっと楽だなと思って、すぐに寝てしまった。

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