【1分くらいでよめる短編(1)】「明滅」

「なあ・・・俺と一緒に・・・死んでくれないか。」

伸二は真っ赤に充血した目で私を見ていた。ここ数日ずっと死ぬことばかり考えていたのだろう。

私は伸二のことが好きだ。だから死んでほしくない。でもこれ以上伸二が苦しむ姿を見続けるのにも耐えられない。どの選択が正しいのかもはやわからなくなっていた。ただ、伸二が死ぬのならその時は私も一緒だ。それだけは確かなことだった。私は伸二が好きなのだ。

私はしばらく黙ってしまった。泣き出したのは、別に死にたくなかったからではない。ただ、結局私は伸二を救ってあげられなかったのだと思うと、私は自分たちがすでに光の届かない深い海の底にまで落ちてしまったのだと思った。私はずっと伸二のそばにいた。そのことを伸二もわかっている。でもきっと伸二には私の姿が見えていないのだ。私は光にはなれなかった。私はもう一度伸二を見た。

伸二は真剣な眼差しで私を見ていた。そこに悲しみはなかった。もし彼にとって死ぬことが唯一の希望なら、私は一緒に死んであげることで彼の光になれるかもしれない。彼が人生で最後に見る一瞬の煌めきに。

「うん、1回だけなら・・・いいよ。」

と言ったあとで自分の間抜けさに気がついた。死ぬのは1回だけに決まっている。これじゃまるで真剣に考えていないみたいだ。昔から言葉を選ぶのが下手くそで、よく相手を怒らせてしまうことがあった。それがよりによってこんな大事な場面で顕れるなんて。伸二を怒らせてしまっただろうか。と、伸二を見ていると、彼は怒る代わりに少し哀しそうな顔をして言った。

「・・・うん。ありがとう。・・・でも・・・今日はやめておこうか。」

私はまた泣き出してしまった。やっぱり伸二には死んでほしくないと思った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?