【1分くらいで読める短編(3)】「雲」

ただ雲だけが起きていた。太陽のいない夜の世界。月の姿もその夜は見えなかった。その中でただ雲だけが、重い身体を東へ向かってうごめかせていた。

どこを目指しているのか。聞いてもきっと雲は答えないだろう。急いでいるのだろうか。中には形を保てず、散って広がり、暗い帳に飲まれてゆくものもあった。

後ろには雨雲が雨を降らせながらついて来ていた。その雨雲もやがて通り過ぎて行き、あとには小さな雲のかけらが浮かんでいたが、すぐに空に溶けてなくなった。

やがて東から上った太陽が目撃した世界は、山、海、鳥の羽音や地平線、そのどの部分にも雲の面影や予感を孕ませていた。ただ、雲それ自体はどこにも見当たらなかった。

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