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アラオス「教皇選挙に寄せて:コミュニティのトップをいかに選び出すか」

エゴンゼンダーのシニアアドバイザーをつとめるクラウディオ・フェルナンデス・アラオスの最新刊より、第44章「教皇」を紹介したい。2013年のベネディクト16世辞任のニュースを耳にしたアラオスは、カトリック信徒として、自身のエグゼクティブサーチコンサルタントの経験を活かして教皇選出に貢献できないかと考える。

ヴァチカン訪問の上、枢機卿への面会を申し込むという最初のアイデアは、そもそもそういった類の面会を禁止する規則により取り下げられる。続いてのアイデアは、メディアや自身のネットワークを介して関係者に考えを届けるというものだ。ハーバード・ビジネス・レビュー上にブログ記事を公表、同様のメッセージを全世界のエゴンゼンダーの有志に送り、関係者への転送を呼び掛けた。最後には、ブエノスアイレスのローマ教皇使節との面会を機会を得るにいたったという。これらの活動を通して、彼が伝えたかったのは、だれ一人として教皇に選出されその任を全うする準備が完全に整っている候補者はいない、ということ。また、教皇というポジションは、教会内のそれに次ぐ役職とは全く質的に異なる職責の大きさ、職務遂行上の困難さをもつものであるということ。そして、にもかかわらず枢機卿は幾多の制約の下、最善の人事に関する意思決定を下さなければならないということだ。

候補者のプールを大幅に増やしたり、選出プロセスを変更することが事実上不可能な中で、信仰、神への愛、道徳的生活といった本質的に重要な項目に加えて、真実正しい基準を持って枢機卿が教皇を選ぶのを願うのみだ。アラオスの提言は、動機、4つの主要なリーダーシップ特性、人事的意思決定能力の3つを基準として採用するべきだ、というものだ。

まずは動機の正しさ。コミットメントと謙虚さとをもっともバランスよく純粋に兼ね備えた人物はだれか。真実、無私の精神に則って世界をよりよい場所へと変革することに奉じようとするものはだれか。

続いては、4つの主要なリーダーシップ特性。好奇心、洞察力、エンゲージメント、断固たる決断・遂行能力(ディターミネーション)の4つが、将来の、より大きなリーダーシップ課題に直面した際にそれを乗り越えることができるかどうかを見極めるための資質として挙げられている。新しい経験や考え方、知識を求め、自己認識を深めるための努力を惜しまず、フィードバックを求め、学習と変化に常にオープンでいるのはだれか?集めた情報から洞察を引き出し、因習にとらわれず変革の指針を策定することができるのはだれか?感情的なつながりをつくり、共感を示し、説得力のあるビジョンを提示し、コミットメントを引き出すことに最も長けたものはだれか?困難な状況にあっても耐え抜き、逆境からも立ち直ることができるのはだれか?

最後は、人事的意思決定能力。組織のトップとして誰をどこにどのようなタイミングで登用するのか、そうした人事に関する意思決定の分野で経験、実績があるか?過去、活躍しているトップ人材をしかるべきポジションに登用し、業績の優れないものに対しては再配置や育成に取り組んだ経験があるか?ダイバーシティ、インクルージョン推進の実務経験は?自らの後継者育成に絶えず取り組んできたか?

実際に選出されたホルヘ・マリオ・ベルゴリオが上述の基準を満たしていることを示すエピソードを紹介した上で、アラオスは読者に次のように問いかける。はたして私たちは、教会や地域コミュニティといった各種の組織のトップを選出するのに際して、実業界におけるのと同じような厳正さを持ってそれに臨んでいるだろうか。自らの生活に関わる組織が最も優れたタレントを惹きつけ、そのリーダーシップを強化するために、自分がどのように貢献できるのか、考えなければならない。あらゆる場面において、よりよい人事の意思決定を下すことに努めることが、周囲のコミュニティ、ひいては社会全体を改善していくことにつながる


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