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マレンウェッグ「オーディション採用のすすめ」

以前、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューのウェブサイトにて、ワードプレス・ドットコム運営会社オートマティックの創業者兼CEO、マット・マレンウェッグによる、同社の選考プロセスに関する紹介記事が一時的にだが公開されていた。ぜひ一読を薦めたいのだが、公開期間が終了してしまっている。関心のある向きはぜひ元の記事にあたられたい。HBRは月3本までは無料で読めるので、英語が読めるのであれば2つ目のリンクを参照してほしい。

備忘録がてら、要約とコメントとを残しておきたい。本記事で紹介される選考プロセスを簡略化して紹介すると、第一に書類選考(CEO自らほとんどすべての書類に目を通し、約85%を即座に不採用とするとのこと)、第二にオンラインチャットによる面接、第三に「トライアウト」と呼ばれる3~8週間にわたる疑似「入社」体験、最後にCEOによるブラインド面接、の以上となる。

トライアウトでは、実際に入社した際に同僚となる社員とともに業務にあたってもらう。夜間や週末での取り組みも受け入れており、トライアウト参加のために退職する必要はない。専念するため休暇を取得して臨む候補者もいるという。この短期間に、業務を通して成果を出すことを期待しているわけではない。社風や仕事の進め方等について、相互に評価しあう機会としてとらえている。契約し、報酬も支払う。同社では、一律25ドルの時給を設定することに議論のすえ着地した。

必ずしも入社後に取り組むものと同じ業務が課されるわけではない。まだ入社していないものに営業やアライアンス締結を任せることは難しい。可能な限り類似した、近い仕事を任せることができるよう工夫する候補者側の負担は大きいが、それ自体がフィルターになる。それを乗り越えてでも一緒に働きたい、という熱意はそれだけで評価できる。期間中でも、見込みがなければ打ち切る。

トライアウトの実施は受入れ側の負担も大きいが、通常業務よりも優先順位を高く設定し対応している。期間終了時には、関係者全員で一緒に働きたいか検討し、その上で、CEOが最終面接を行う。

最終面接では、性別、人種を伏せた上で、スカイプのテキストチャットかインスタントメッセージで面接する。「つまり、画面上で交わされる文字情報のみに判断材料を絞り、限りなく二重盲検法に近づけているのだ」とのこと。以上が要約になる。具体的な数字に触れた箇所は省いた。一読して連想されたのは、ジョン・サリヴァンによる記事「テキスト面接 採用の次の時代にくるもの」だ。これもいずれ抄訳して紹介したい。

オートマティックの選考プロセスの秀逸な点は、その順番にある。バイアスを極力排除しようとするブラインド面接は、公正さの追求の観点からは称揚されてしかるべきだろうと思うが、実務の観点からは懸念が大きい。選考は、文化マッチや、その候補者を採用して彼、彼女の成功、成長に責任を持てるか、という(純粋なスキル評価とは別の)よりウェットな決意を採用する側が固めるための機会でもある。その点、オートマティックでは、まず文化マッチや社員との人間関係構築の様子をトライアウトで評価した上で、それを通過したもののみに対して、ブラインド面接を実施している。

書類選考と、オンラインチャットによる面接によるスクリーニングが有効に機能しなければ、受入れコストに見合う成果を得ることのできない類の施策だが、それでも一考に値する。(記憶が確かなら、パタゴニア社も同様の施策をとっていなかっただろうか?)

トライアウトは、新卒でいえば長期就業型インターン経由での採用に当たるだろう。中途領域では、兼業に関する文化、慣例が大きく動かないことには導入は難しい。エンジニアのように、短期間にスキルを示しやすい職種は限定的だ。非エンジニアについても、一部のベンチャーでは同様のことはすでに導入しているだろうが、自社での展開の仕方は工夫が必要だろう。テキスト面接は、部分的に導入を検討したい。これは記録が残り、実施後内容を正確に確認できることも素晴らしい。HireViewの導入検討と合わせて考えたい。

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