雲ひとつない東京の空と、暖かく吹く春の風。

人生で最後になるかもしれない当直を終えた。優秀な研修医と一緒だったこともあり、終始落ち着いて仕事をすることができた。外に出ると、強い日差しと暖かい風が迎えてくれた。いつも通り山手線と埼京線が走る線路を見ながら、駅に向かって歩き出す。1年前、希望を持ってここに来て、そして1年かけて自分の弱さや限界を知った。

表参道のRIZ LABOさんへ。同僚が、簡単な送別会を、ということでぼくの好きな甘いものへ連れて行ってくれた。

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裏参道ガーデン、というフードコートにあるお店。名前の通り、どこにあるか最初は全くわからなかった、隠れ家的なお店。開店と同時に行ったけれど、みるみるうちに人が増えていった。人気の場所のようだ。

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抹茶とイチゴのパンケーキ。奢ってもらってしまった。ふわふわ系だけれど、ふわふわすぎない、食べ応えのあるパンケーキ。しかも甘過ぎず、30歳を手前に迎える自分にはちょうど良い。

1年間、自分の持ちうる能力を最大限に発揮したつもりだ。精神的に調子を崩した後も職場では平気を装っていたし、いつも通り仕事をした。同僚たちも気がつかなかった、と声を合わせて言ってくれた。「でも、少し安心した。そういう、完璧じゃないところもあるんですね。」という言葉で、少し心の荷が下りた気がした。

その後は、下北沢のLIGHT UP COFFEEさんへ。京王井の頭線・下北沢から10分程度歩いたところにある。最高に完成された体験を与えてくれた。

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紙コップなんだけど、この水色が綺麗で良い。空は雲ひとつない快晴で、外のベンチの飲むフルーティなコーヒーが美味しかった。優しい雰囲気のバリスタが、良かったら飲んでみませんか?とエスプレッソトニックを試飲させてくれた。夏にごくごくと飲みたい、そんな爽やかな味だった。

向かいにある商店のおばあさんが、店頭に立ちながら、通り過ぎる地域の人たちに挨拶をしている。地域に根差している、という言葉が似合う。いろいろな人に声をかけ、他愛もない話をしている。こんな日常が、東京にもあるんだなと心が暖かくなる。激しく変化し、ストレスのかかる臨床現場で夜勤を終えた我々には、贅沢すぎる土曜の昼下がりだった。

解散し、ぼくは一人で成分献血へ。2週間に一度のルーティン。昨日から読み進めていた「がん -4000年の歴史-」を待ち時間で読み終える。医学部2年生のとき、ぼくを医学研究の虜にした分子生物学の講義を思い出す。施設と病院を往復する高齢者に点滴を繋ぐ日々が、医師免許を「金のなる木」のように考える人たちが、ぼくから奪っていた医学・医療に対する熱い気持ちを、取り戻した。

4月から、果てしなく広く深く、そしてエキサイティングな、がん研究の世界へ戻る。落ち着いた生活をしながら、一歩ずつ着実に生きていく。ぼくは自分のできる小さなことに、誠実に生きていきたい。

暖かな風が、春の訪れを告げる。また、1年が始まる。

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