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SFとテクノロジー: 未来予想図とその先

小学生の頃、ぼくは内向的な性格で友達が極端に少なかった。当時は少し小太りで運動が苦手だった。早くして眼鏡をかけ、本をよく読み、科学が好きな少年だった。クラスのみんなからは「博士」と呼ばれていた。

小学校高学年になり、読書のスピードはどんどんと早くなった。給食を食べ終えると、校庭に向かうみんなを見送りながら、ぼくは図書室へと向かう。海外の作家が書いたSF小説の棚の前に立ち、「今日の一冊」を決める。それを昼休みの25分間で一気に読み終える。「光の速度が突然遅くなり、世界が混乱に陥る話」と「世界を小空間に再現した狂った科学者の話」は今も記憶に残っている。図書室は、ぼくにとっての第二の家だった。図書委員会の委員長にもなった(が、それは本が好き以上に、好きな女の子が図書委員だったことが強く影響しているし、その子とは中学校で甘酸っぱい恋をするのだが、それはまた別の話)。とにかくすごい勢いで本を読む訓練を、自然とこの時期に経験した。

SFは、時に恐ろしいほどの未来予想図になる。

幼少期にどハマりしたウルトラマンティガは平成ウルトラマンシリーズの先駆けで、演技の下手なV6の長野くんを拝める素敵な作品である。テクノロジーが人類を驚異的に進歩させる一方、人間のテクノロジーが地球環境を変えてしまい怪獣が生まれてしまうという設定は、当時の環境問題への意識の高まりを反映し、強いメッセージングとなっている。「ガゾート」という怪獣がいるのだが、元々は地球の電離層に住んでいるクリオネみたいな可愛い生きもので、それを人間が通信網を整えるために電磁波を飛ばしまくったせいで怪獣へ変化してしまったという悲しい物語となっている。とにかく設定が大人向けに作り込んであり、「地球平和連合の火器・兵器は対人間には使用できない」という鉄則により宇宙人に乗っ取られた島を取り返すのに時間がかかったり、本部から兵器技術の供与のために密かに各国首脳が集まる会議が行われたり、と子どもにはよくわからない話も多い。光のエネルギーを使用したマキシマオーバードライブというエンジン機構を敵を倒すために使用しようとした際、開発者のヤオ博士の「兵器転用できると分かってはいたけど、それを設計に組み込まなかった」という、科学者のあるべき姿まで描かれている。

確かに、ウルトラマンティガに描かれているレーザー兵器や垂直離着陸可能戦闘機(VTOL機)は現実に存在するし、テクノロジーゆえに変化してしまった生態系も多い。「めちゃくちゃ先の未来」ではないが、確かに訪れる未来を描く優れた作品だ。

大学生のときにどハマりした攻殻機動隊も、卓越したSFアニメーションだ。全身義体(サイボーグ)のほぼ軍人の公務員が大暴れする話だ(適当)。一番衝撃を受けた概念は「全身義体の人間離れした選手がしのぎを削るパラリンピックが、オリンピックと同等あるいはそれ以上に注目されている」という設定だ。これは今日のエンハンスメントの未来を描いている。身体を「加工」しないほうが珍しい時代が来るのかもしれない。

オルガノイド、というものがある。これはSFではなく現在盛り上がっている医学生物学の話だ。一細胞をとってきて、特殊なプロトコル通りに培養すると、ただ増えるのではなく臓器の形態を再現してくれるというものだ。「臓器を作る」なんてずっと未来の話だと思っていたが、いまや現実のものになりつつある。だが、「臓器を作る」という概念はずっと昔からSFで言われてきたことだ。

VRだってもっと技術が発展すればマトリックスみたいになるかもしれないし、感情を持った(持っているように見える)ねこ型ロボットもそのうち量産されるかもしれない。

ぼくはテクノロジーの発展を好意的に受け止めているが、信仰はしていない。人間が、テクノロジーを駆使して夢を全て叶える時代が来ても、心が満たされるわけじゃない。とはいえ、子どもの頃読み漁ったSFの世界が現実になっていく様子は、やっぱり面白いしワクワクする。

さて、自分が一番欲しいのは、やっぱり「お医者さんカバン」かな。

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