2019-nCoV、速報。

2月7日付のJAMA(Journal of American Medical Association)に武漢大学中南医院から138例に及ぶ入院症例の臨床的特徴について速報が出ました。無料公開されているので医療従事者の方は、抄録だけでも目を通しておくのが良いと思います。

Clinical Characteristics of 138 Hospitalized Patients With 2019 Novel Coronavirus–Infected Pneumonia in Wuhan, China

以下要約の結果部分だけ抽出します。その下には個人的な意見です。私は感染症の専門家ではなく一般内科を少しだけ勉強した、がん研究者なので的を外しているところもありますのでご了承ください。

Novel corona virus-infected pneumonia(以下、NCIP)の138入院症例の年齢中央値は56歳で75人(54.3%)は男性。

新型コロナウィルス肺炎は、やや男性に多い印象です。Discussionに書かれていますが、男性労働者の多い海鮮市場から感染が広まったことが影響しているのではないかとの意見です。

院内感染が疑われる例は、感染した医療従事者によるものが40例(29%)で、入院患者によるものが17例(12.3%)。

やはり医療従事者を介した院内感染に注意する必要がありそうです。ヒト-ヒト感染は間違いなく、飛沫感染・接触感染が主でしょうか。

代表的な症状として、発熱(136例:98.6%)、倦怠感(96例:69.6%)、乾性咳嗽(82例:59.4%)。血液検査ではリンパ球減少(97例:70.3%)、PT時間延長(80例:58%)、乳酸上昇(55例:39.9%) 。

特異的な症状はないようです。発熱、倦怠感、乾性咳嗽は普通の風邪の症状ですから、新型ウィルスを疑うためには接触歴の聴取が重要になりますね。血液検査も特異的とは言えません。

胸部CTでは両側肺の斑状陰影またはすりガラス状陰影が、全ての症例で認められた。

画像1

これは強烈。細菌性肺炎との一番の差異となりそうです。個人的な経験ではこういうCT像は破滅的な転機を辿ることが多いので、見つけてしまうとしんどいです。

ほとんどの患者が抗ウィルス薬 -オセルタミビル- 投与(124例:89.9%)、多くの患者が抗菌薬投与(モキシフロキサシン89例、セフトリアキソン34例、アジスロマイシン25例)、糖質コルチコイド投与(62例)を受けた。

基本的にウィルス感染症には治療薬が限られています。ノイラミニダーゼ阻害薬でインフルエンザの治療薬であるオセルタミビル(商品名:タミフル)が治療に使用されています。日本はタミフル不要な基礎疾患のない成人患者にどんどんタミフルを出す国なので、こういう新規ウィルス感染症の時に温存しておかなければならないと再認識させられます。抗菌薬も使用されていますが、続発して細菌感染も起こりそうな感じ。ステロイドは重症感染症として使用されている、というところでしょうか。

36例(26.1%)は集中治療室での治療を必要とした。合併症の内訳として、ARDS 22例、不整脈16 例、ショック11例。

入院患者という時点で既に中等症以上の患者でありバイアスがかかっていますが、4分の1が集中治療室に入室するというのは、しんどいですね。

最初の臨床症状が出現してから呼吸困難感が出現するまでの中央値は5.0日間、入院までは7.0日間、ARDS発症まで8.0日間。

感染して8日間でARDSを発症。これもしんどいけれど、一般的な細菌性肺炎でもこれくらいでARDSになることはありそう。

集中治療室入室患者と非入室患者では、入室患者の方が年齢が高く(中央値66歳 vs 51歳)、基礎疾患を有しており(26 [72.2%] vs 38 [37.3%])、呼吸困難感があり(23 [63.9%] vs 20 [19.6%])、食欲不振があった(24 [66.7%] vs 31 [30.4%])。

やはり年齢と基礎疾患は重症化リスクになりそうですが、それでも中央値は66歳ということで比較的若い印象です。

集中治療室に入室した36例のうち、4例は高流量酸素投与を受け、15例は非侵襲的人工呼吸管理(NIV)を受け、17例は侵襲的人工呼吸管理を受けた。

138例入院して、そのうち17例が挿管・人工呼吸管理を必要とするわけなので、これもかなりしんどい。

2月3日の段階で、47例(34.1%)は退院し、6例(4.3%)が死亡。他は全て入院を継続している。

単一施設ですが、致命率4.3%。SARSを超える勢いとも言われていますが、今は続く報告を待って冷静な判断が必要そうです。

少なくとも現状では、
(1)有効性のある治療薬はなく、重症化した場合は集中治療管理が必要となる。
(2)感染しない、感染させないことが重要。院内感染の抑止が喫緊の課題。
というところでしょうか。

一般市民としては、手洗いをしっかりして、十分な睡眠をとり、感染者の多い地域には行かない、という当たり前の感染症対策が一番重要そうです。

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