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【論文紹介】B細胞リンパ腫の進行過程において、ノンコーディング変異がスーパーエンハンサー・リターゲッティングを引き起こし、タンパク質合成の調節異常が生じる: Nature Genetics

2023年12月6日公開。ノンコーディング領域の変異が重要か重要でないかは議論のある領域ですが、リンパ腫の患者検体の時系列のWGSと細胞実験を組み合わせて、その意義を明らかにしたものです。

https://www.nature.com/articles/s41588-023-01561-1

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概要:
この研究は、濾胞性リンパ腫が高悪性度B細胞リンパ腫(double-hit lymphoma)に変異する際に生じるコードおよび非コード領域のゲノム変異を全ゲノムシーケンスにより同定しました。特に、B細胞非ホジキンリンパ腫のH3K27ac超エンハンサークラスター内のH3K4me3プロモーターマークに位置するトポロジカルアソシエイティングドメイン(TAD)の調節DNA要素で変異が多く発生しました。ZCCHC7遺伝子の発現がリンパ腫の進行に伴って上昇し、5.8SリボソーマルRNAの異常な処理による核小体の機能不全が観察されました。これらの結果は、非コード変異がリンパ腫プロテオームを変化させることを示唆しています。

背景:
B細胞は、病原体に対する高親和性抗体を生成するために、プログラムされたゲノム変異を経験します。これにはVDJ再構成、体細胞性超突然変異(SHM)、クラススイッチ再構成(CSR)が含まれます。これらのプロセスはリンパ腫発生を促進するDNA変異をもたらすことがあります。特に、B細胞リンパ腫では、免疫グロブリン遺伝子座以外の領域での異常な体細胞性超突然変異(aSHM)が重要です。

方法:
この研究では、濾胞性リンパ腫(FL)が高悪性度B細胞リンパ腫(DHL)に変異する際に取得されるゲノム変異に焦点を当てました。特に「double-hit」リンパ腫、つまりMYCおよびBCL2の両方の再編成を持つものが対象となりました。

結果:
FLとDHLの両方で、コード領域と非コード領域に多くの変異が見られ、特にDHLではコード領域の変異負荷が高かったです。これらの変異は、超エンハンサー(SE)内のプロモーター周辺で集中していました。変異の多くは、遺伝子の第一イントロンに位置し、特にMYCおよびBCL2遺伝子座でaSHMが観察されました。PAX5/ZCCHC7遺伝子座では、コピー数の増加と染色体転座が観察されました。

議論:
この研究は、リンパ腫の進行における非コード変異の重要性を示しています。特に、SE内のプロモーター周辺でのaSHMが重要で、これはH3K27acマーク(活性エンハンサーを示す)およびH3K4me1マーク(潜在的エンハンサーを示す)によって覆われた広範囲に分布していました。また、PAX5/ZCCHC7遺伝子座での変異は、超エンハンサー・リターゲティング(ER)によるものである可能性があり、これはリンパ腫細胞においてZCCHC7の発現増加を引き起こす可能性があります。

可能な応用:
この研究は、リンパ腫の発症と進行における非コード変異の役割を明らかにすることで、新たな治療標的の同定やリンパ腫の診断・治療方法の改善に貢献する可能性があります。また、非コード変異がタンパク質合成をどのように変化させるかを理解することで、がん細胞の代謝や生存メカニズムに関する新たな知見を提供することも期待されます。

背景詳しく: B細胞は、病原体に対する高親和性抗体を生成するために、プログラムされたゲノム変異を経験します。このプロセスには、骨髄でのVDJ再構成、およびリンパ節などの二次的または三次的リンパ器官への移行後に発生する体細胞性超突然変異(SHM)とクラススイッチ再構成(CSR)が含まれます。これらのプロセスは、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)という酵素の活動によって進行します。AIDは、変異体を単鎖DNAに導入し、SHMとCSRのプロセスを開始します。

しかし、VDJ再構成、SHM、およびCSRは、免疫グロブリン遺伝子座の外側でDNA変異を引き起こすこともあり、多くの場合これらの変異はリンパ腫の発生を促進します。具体的には、B細胞リンパ腫では、免疫グロブリン遺伝子座以外の領域での異常な体細胞性超突然変異(aSHM)が重要な役割を果たします。このaSHMは、リンパ腫の病理生理学についての理解に重要な意味を持ち、新たな治療法の開発に繋がる可能性があります。

スーパーエンハンサーリターゲティング: スーパーエンハンサーリターゲティング(super-enhancer retargeting, ER)とは、特定のスーパーエンハンサー(SE)が、その制御対象である遺伝子のプロモーターから別のプロモーターに機能的に変更される現象です。この現象により、遺伝子発現のパターンが変化し、疾患や発癌などの生物学的プロセスに影響を与える可能性があります。

例えば、この研究では、リンパ腫の進行に伴い、PAX5/ZCCHC7遺伝子座でERが観察されました。これにより、ZCCHC7遺伝子の発現が増加し、リンパ腫細胞におけるタンパク質合成の調節が変化したと報告されています。

aSHM: aSHM(異常な体細胞性超突然変異)とは、B細胞が免疫応答中に行う体細胞性超突然変異(SHM)が、通常の免疫グロブリン遺伝子座以外の場所で起こる現象です。B細胞は、免疫応答中に抗体の多様性と親和性を高めるために、免疫グロブリン遺伝子に対してSHMを行います。この過程は、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)によって触媒され、DNA中のシトシンを変異させます。

しかし、AIDは免疫グロブリン遺伝子以外の領域でも活動し得るため、aSHMは免疫グロブリン遺伝子座外のコード領域や非コード領域で起こることがあります。このaSHMは、B細胞性リンパ腫などのリンパ腫の発生と進行に関与することが知られています。リンパ腫細胞では、aSHMによって重要なオンコジーンや腫瘍抑制遺伝子が変異し、がんの発生や進行に寄与する可能性があります

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