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【論文紹介】ハイリスクな髄芽腫において、ecDNAは腫瘍内不均一性を促進する: Nature Genetics

共同研究者のオーウェンくんの論文。2023年11月9日公開。ecDNAと髄芽腫の関係について明らかにしたもので、プロのバイオインフォマティシャンとしての技が散りばめられている。著者もオールスターって感じです。

https://www.nature.com/articles/s41588-023-01551-3

以下の要約にはPaper Interpreterを使用しています。

【概要】
この研究では、465人の患者から取得した481個の髄芽腫腫瘍において、ecDNAを計算方法で検出・再構築し、82人の患者(18%)にecDNAが存在することを特定しました。ecDNA陽性の髄芽腫患者は、再発の可能性が2倍以上、診断後5年以内の死亡リスクが3倍以上であることが示されました。また、複数のecDNA系統を持つ腫瘍の一部が発見され、それぞれが異なる増幅されたオンコジーンを含んでいました。この研究は、髄芽腫におけるecDNAの頻度と多様性を明らかにし、ecDNAのコピー数の不均一性とエンハンサーの再配線をオンコジーンの特徴として示唆しています 。

【背景】
ecDNAは、1960年代から分離された腫瘍細胞や腫瘍由来の細胞で記述されていました。これらは、ガンの発生、腫瘍の進化、薬剤耐性の進化において重要な役割を果たしていることが分かっています。ecDNAは、高コピー数のオンコジーン増幅の一般的な形態であり、多くの腫瘍タイプにおける予後バイオマーカーとされています。髄芽腫は、ecDNAが初めて記述された患者例の中に含まれており、髄芽腫の異なる分子サブグループにおけるecDNAの頻度、増幅されたゲノム領域、および患者の成績への影響は十分に理解されていませんでした 。

【方法】
研究者は、全ゲノムシークエンシング(WGS)データを用いて、髄芽腫の腫瘍サンプルにおけるecDNAの存在を調査しました。また、CRISPR-CATCHや顕微鏡を使用してecDNAのコンテンツと構造を調べ、単一細胞シークエンシングデータを用いて腫瘍内不均一性を評価しました。さらに、ecDNA上の機能的な転写エンハンサーをCRISPRiを用いて調査しました 。

【結果】

  1. ecDNAの存在と髄芽腫の予後:研究では、481個の髄芽腫腫瘍サンプルから、82人の患者(18%)にecDNAが存在することが特定されました。ecDNA陽性の髄芽腫患者は、ecDNA陰性の患者と比較して、再発の可能性が2倍以上、5年以内の死亡リスクが3倍以上高いことが確認されました。

  2. ecDNAによるオンコジーンの増幅:ecDNAは、MYC, MYCN, MYCL, TERT, GLI2, CCND2などの既知または疑わしい髄芽腫オンコジーンの増幅を含んでいることが確認されました。特に、MYCN、MYC、MYCL1オンコジーンファミリーの増幅の多くがecDNA上に見られました。

  3. ecDNAと予後の関係:ecDNA陽性の患者は、全体的および無進行の5年生存率がecDNA陰性の患者と比較して有意に低かったことが明らかになりました。また、Cox比例ハザード回帰分析を用いて、ecDNA陽性の患者は進行リスクが2.36倍、死亡リスクが2.99倍高いと評価されました。

  4. TP53変異とecDNAの関連:SHHサブグループの髄芽腫において、TP53遺伝子変異はecDNA陽性の腫瘍において頻繁に見られることが示されました。ecDNA陽性のSHHサブグループでは、TP53変異が52%の割合で確認されました。

  5. 複数のecDNA系統の共存:16個の髄芽腫腫瘍には、複数の異なるecDNA配列が存在することが確認されました。

  6. ecDNAコピー数の不均一性:ecDNA陽性の髄芽腫では、細胞内のecDNAコピー数に顕著な不均一性が確認されました。このコピー数の不均一性は、腫瘍の進化と治療抵抗性に寄与していると考えられます。

  7. ecDNA陽性細胞の転写プロファイル:ecDNA陽性の細胞は、特定の転写とエピジェネティック特徴を持つことが示されました。これらの細胞は、ecDNA上に増幅された遺伝子の発現が高まっていました。

【議論】
TP53遺伝子変異はSHHサブグループの髄芽腫においてecDNAと関連していることが示されました。TP53遺伝子変異を持つSHHサブグループの髄芽腫では、ecDNA陽性の頻度が高く、これが患者の生存率に影響を与えている可能性があることが指摘されています。TP53変異とecDNAの共存が、髄芽腫患者の予後に影響を及ぼしていることが示唆されています 。

【限界】
この研究の限界としては、対象となった患者群の特定の特徴や、研究に使用された特定の手法やデータセットによる制限が考えられます。また、研究結果を一般化する際には注意が必要です。

【応用可能性】
この研究は、髄芽腫におけるecDNAの影響を理解し、将来的な治療法の開発に役立つ可能性があります。特に、ecDNA陽性の髄芽腫患者を特定し、それに基づいて治療戦略を策定することが、患者の予後改善に寄与する可能性があります。また、ecDNAに関連する生物学的メカニズムのさらなる解明が、新たな治療標的の同定に繋がる可能性があります。

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