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まぼろしのソノシート再生機 SR-1

森繁久彌主演の東宝喜劇映画が好きで、Amazon Primeで社長シリーズや駅前シリーズなどをよく見ています。

先日は1963年の作品『喜劇 とんかつ一代』(川島雄三監督)を見ました。サブスクにあるんですが、テレビの大画面で見たかったのでDVDを購入。

この作品に不思議なレコードプレーヤーが登場します。レコード盤が回転するのではなく、ピックアップ側が回転するのです。

テーブルの上にソノシートを置き、その上にプレーヤーを乗せてスイッチを入れると、アームがグルグルと回り出す仕組み。

異様な光景に目が点になりました。なんだろうこれは。どこの会社が作ったの?

別のシーンをよく見ると、かたわらに箱のようなものが見えます。

目をこらすと「パイオニア」と書いてあるように見える。

というわけでパイオニアさんに問い合わせてみたら、やっぱりパイオニア製でした。これは、1962年に発売した自転式レコードプレーヤー「ソノリーダーSR-1」だそうです。

社史に詳しく書いてあるとのことで、国会図書館で『パイオニア80年の軌跡』(2019)を読んできました。

柔軟な発想により誕生したアイデア商品として、まず自転式レコードプレーヤーの開発が挙げられます。レコードは回るもの、ピックアップは回っているレコードの溝をトレースして音を再生するという概念を完全に引っ繰り返して開発されたプレーヤーです。つまり、レコードを回転させないでピックアップが回ってレコードの溝をトレースし、音を再生する仕組みのプレーヤーでした。ピックアップ自体に比較的大きな発電力を持たせている点に特徴があり、そのため増幅器なしでスピーカーから音が出せました。増幅器を必要としないため、価格を低く抑えることができました。

この自転式レコードプレーヤーの原理を応用した商品に、ソノリーダー「SR-1」がありました。「SR-1」はピックアップが回転する自転式のポータブル電蓄で、当時ブームを呼んだ音の出る月刊誌『朝日ソノラマ』用のプレーヤーとしてうってつけの商品でした。価格は4,500円で、幼児教育向けの画期的な商品でしたが、おもちゃのイメージが強すぎたのか、朝日ソノラマの廃刊とともに姿を消しました。
(『パイオニア80年の軌跡』221-222ページ)

なるほど。冊子体のソノシート専用プレーヤーとして売り出されたわけですね。たしかに、裸のレコード盤を机においてその上に乗せるのはちょっと気が引けます。冊子にとじられたソノシートなら気軽に乗せられそう。

『喜劇 とんかつ一代』でも、益田喜頓が経営する洋食店が新装開店の記念品に冊子型のソノシートを配り、コック長の妻・木暮実千代がそれをSR-1で聴いていました。

わたしはこの時代のソノシートを収集しているので、再生用に一台ほしいなあ。でも、「パイオニア SR-1」でググっても「パイオニア ソノリーダー」でググっても、なにひとつ出てきません。ふつうは何件かヒットするものですけど、よほどマイナーなのか。

『パイオニア80年の軌跡』より

当時は『朝日ソノラマ』や『歌う雑誌KODAMA』といったソノシート付きの「聞く雑誌」が人気だったので、需要はあったかもしれません(KODAMAは冊子とソノシートが一体化していませんが)。でもまあ、ふつうのレコードプレーヤーでも聞けるし、わざわざこれを買う必要はないですね。

映画に登場したということは話題の商品だったのか。それとも、話題ではなかったけれども川島監督やスタッフが気に入って使ったのか。どっちなんでしょう。